Thu 120123 はとバスコース コベントガーデンのレストランで(ロンドン滞在記3) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 120123 はとバスコース コベントガーデンのレストランで(ロンドン滞在記3)

 いつも通りの悪いクセで、講演会ラッシュが始まった途端に完全にそちらに夢中になり、書き始めたばかりの旅行記が完全に疎かになる。まだ2回目しか書いていないロンドン滞在記をすっかり置き去りにして、大阪/金沢/大宮/房総半島の記事が10日も連続すれば、さすがの今井読者だって混乱するだろう。
 明日から国立大学の本番が始まるから、マトモな予備校講師のブログなら
「頑張れよ、オレがついてる!!」
「努力したキミは必ず合格します。緊張するなよ」
「フレーフレー受験生♡」
「合格するのはいつものキミだ」
みたいなことを書いてしかるべきなのであるが、せっかく2月の講演会ラッシュが一段落ついたクマ蔵としては、ロンドン滞在記を復活させるベストチャンスを逃す気にはなれない。
 そもそも、今井であれ誰であれ、受験生にくっついて受験会場まで入り込むことはできない。突き放した言い方を許してもらえば、要するにそんなのは受験生本人の問題であって、ここまで来たらそれこそ「羽ばたけ!!」「自分で羽ばたいてみろ♨」が正しい。クマ蔵みたいな予備校講師は、むしろ大人しく自分の旅行記でも書いているのが似合いなのである。
ビッグベン
(ビッグベン)

 10日前のロンドン滞在記では、ロンドンに到着したクマ蔵が「さて、いよいよ」という感じでロンドンはとバスコースに1歩を踏み出したところであった。
 滞在初日のコースは、バッキンガム宮殿の衛兵交代式→ウェストミンスター寺院→ビッグベンとテムズ河→コベントガーデン。基本的な食料はホテルの部屋に確保してあるから、コベントガーデン付近で昼食を兼ねた夕食を楽しんでくるルートに決めた。
ビッグベンとダブルデッカー
(ビッグベンとダブルデッカー)

 12月半ばを過ぎたロンドンでは、太陽が驚くほど低いことに驚嘆する。夜明けも午前8時を過ぎ、ホテルの部屋に日光が差し込むのは9時半ぐらい。太陽はその後もイライラするほど遠慮がちで、11時を過ぎて正午に近づいても、あたりに弱々しく散乱する光は夕暮れのようなオレンジ色のままである。
 「どうやらこれ以上明るくなることはなさそうだ」と踏ん切りがつくのは、昼をとっくに過ぎた頃。「もうそろそろ出かけないと、2時にはホントの夕暮れが迫ってくる」と気づいて呆然とするのだ。実際、3時には薄暗くなり、午後4時には日が沈んで長い夜が始まる。
バッキンガム宮殿
(衛兵交代式を待つバッキンガム宮殿)

 初日のクマ蔵が「明るさはこの程度まで」と気づいてホテルを出たのは11時近かった。グリーンパークの北辺を迂回し、バッキンガム宮殿前まで徒歩30分ほど。宮殿前は衛兵交代式を見物しようと集まった観光客の群れと、それを蹴散らそうと待ち構える騎馬警官隊とが、いかにも剣呑な雰囲気で対峙していた。
 もちろん、衛兵交代式自体が見せ物である限り、騎馬警官隊としてもホントに観光客を蹴散らしてしまってはモトも子もないのであって、蹴散らすような勢いでありながら、実際に蹴散らすことはない。その辺は「あ&うんの呼吸」であって、予備校講師が生徒の私語を叱っても本気で叱るワケにはいかないのと、あうんのレベルはそっくりである。
騎馬警官
(ロンドン騎馬警官。バッキンガム宮殿前で)

 あたりに飛び交う言葉は、東欧系と南欧系が多い。英語やフランス語も聞こえてくるが、コドモを叱るママの声は東欧の響き、「迷子になるなよ」と当たり前のことを叫ぶパパの声は南欧の響きである。東京タワーに東京のヒトが誰もいないのと同じことだ。
 その辺の事情は、テムズ河まで歩いてビッグベンを見上げるあたりでさらに激しくなって、「もうロシア語しか聞こえない」「ここはスペインですか?」のレベルに達する。
国会議事堂
(ロンドン、国会議事堂)

 テムズ河畔をノンビリ歩いてコベントガーデンにたどり着くと、もう午後2時を過ぎている。「そろそろ昼メシを食べないと、食いっぱぐれる(Mac君の変換は「九一派グレる」である)」という時刻。繰り返すが、冬のロンドンの午後2時はもう「日暮れ一歩手前」という危うい感覚。昼飯を食べていない東洋人としては、何だか気分が切迫してくる時間帯だ。
ウェストミンスター側面
(ウェストミンスター寺院、側面から)

 ところが諸君、クリスマス前のコベントガーデン付近はどの店も超満員。日本のクマどんが入り込める余地はあまりない。どの店のドアを開けても、ドアマンが厳しい顔で「予約はあるか?」「予約がなければ、アナタは入れない」とキッパリ拒絶されるのである。
 イタリアやスペインなら、たとえ真冬でもテーブルが日なたにいくらでも並べられ、お腹を減らした客は空いているテーブルに黙って座るだけでいい。異様に愛想のいいウェイターがすぐにメニューを差し出して迎えてくれる。
コベントガーデン1
(コベントガーデン 1)

 しかしNYやロンドンでは、そうは問屋が卸さない。ドアを開けようとすれば、ドアマンという名の厳しい門番が待ち構えていて、思いがけないほど強烈に通せんぼされる。心理的にキツいのは「ニヤニヤ笑いの通せんぼ」であり、最大限にキツいのは「穏やかにニコニコ笑った通せんぼ」である。
 「アナタなんかが入れる店ではございませんよ」「おやおや、その程度のこともオワカリにならないんでございますか?」と、ドアマンのオジサマの穏やかな笑顔が、無言で日本のツキノワグマを拒絶する。午後2時、すでに夕暮れ気分のロンドンでそういう拒絶を2軒3軒と続けられると、田舎者のクマとしては心をヒドく傷つけられて、もう立ち直れない暗澹たる気分になる。
コベントガーデン2
(コベントガーデン 2)

 そうやってホントに2~3軒、ニコニコ笑いながら追い払われた。何が悲しいといって、怒声や明らかな人種差別で追い払われたよりも、ニコニコ笑顔で「当たり前」な感じで追い払われるほうが、心の傷は遥かに深い。
 そういう深い深い傷をかかえて、ようやく入れた1軒のレストランも、何だか異様に忙しそうで、東洋のクマなんかが赤ワインを注文してもほとんど上の空である。それもそのはず、もうクリスマスのイブイブイブイブ&イブぐらいにはなっていて、店中クリスマスパーティーの準備で忙しい×3ぐらいである。むしろ「忙しいの3乗」に近い。
トラファルガースクエア
(トラファルガー・スクウェア)

 クマどんが入店して30分ほど経過した時点で、案の定クマのテーブルの周囲では盛大なクリスマス・パーティーが始まってしまった。規模は、50人程度。もともと店の一番奥の狭いテーブルに孤立していたクマ蔵は、大パーティーの群衆に前後左右を囲まれて身動きがとれず、店のスタッフからも完全に隔離されて、もう注文も聞いてもらえない。
 クラッカーがけたたましく鳴らされ、火薬のニオイが店内に満ち、歓声が上がり拍手喝采の渦。片隅に追いやられたクマ蔵はもう身の置き場もない。店のヒトも、パーティーの人々も、もはやクマの存在自体を完全に無視である。というか、無言の圧力をかけて、ジャマな日本グマを店の外に押し出そうと、ニヤニヤお互いに笑顔を向けあっている。いわゆる「目配せ」というヤツであるね。
バグパイプ
(ウェストミンスター橋でバグパイプを演奏するオジサン)

 おやおや&おやおや。ロンドンなんか、もう絶対にイヤである。こんな街に2度と来てやるものか。勘定を済ませたクマ蔵は、奮然と席を立った。クマ蔵が奮然と席を立つのは、いつもこのぐらい切羽詰まった時なのだ。

1E(Cd) Philip Cave:CONONATION OF THE FIRST ELIZABETH
2E(Cd) Rachel Podger:TELEMANN/12 FANTASIES FOR SOLO VIOLON
3E(Cd) Richter:BACH/WELL-TEMPERED CLAVIER①
4E(Cd) Richter:BACH/WELL-TEMPERED CLAVIER②
5E(Cd) CHOPIN FAVORITE PIANO PIECES
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