Mon 120106 ガナス・デ・ボミタール ナンチャッテ和食店(バルセロナ滞在記27) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 120106 ガナス・デ・ボミタール ナンチャッテ和食店(バルセロナ滞在記27)

 さて、バルセロナ滞在も10日を過ぎて、さすがの今井君の胃袋もそろそろ限界である。どんな料理もみんな濃い味ソースでメトメトに煮込んであって、今やもう「煮込んだ」という言葉を聞いただけで、胃のあたりで何かイヤなものが逆流しはじめる。
 吐き気のことをスペイン語で「ガナス・デ・ボミタール」というが、滞在10日を過ぎたクマ蔵はまさにガナス・デ・ボミタールの権化である。「がなすグマ」or「ぼみたーるグマ」と呼んでもらって構わない、気分はもう投げ槍もいいところだ。
 嘔吐の危機ばかりではない。イカ/タコ/エビに、ナバジャス/角切り&山盛りハモンセラーノ、そういう歯ごたえ満点なカタい食品の山を、ひたすら&ひたすら咀嚼し続けた10日間を思ってもみたまえ。ガナス・デ・ボミタール由来の危機以外に、口内炎由来の危機も厳然と存在している。
秋めいてきた
(9月中旬、ランブラス通りは何となく秋めいてきた)

 こういう時、暗澹としたクマ蔵の脳裏にひらめくのは「日本食に逃げよう」「ナンチャッテ和食に救いを求めよう」の一事である。ギリシャ・アテネの「風林火山」みたいな旨い日本食である必要はない。ロンドン「菊」やニューヨーク「白梅」みたいな本格和食を求めるのでもない。
 ウィーンの今はなき「京都」とか、ミュンヘン「さそう」みたいな、中国資本か韓国資本のナンチャッテ和食で構わないから、とにかくあのメトメト濃い味ソース料理から逃げ出したい。今井君の海外旅行がいつも2週間なのは、こんなふうに胃袋と口腔とが悲鳴をあげるからである。
 バルセロナの終盤2日、今井君はいつもと同じようにナンチャッテ和食に救いを求めた。飛び込んだ1軒目が「KOMOMOTO」。コモモトとは、日本人の「菰本さん」なのだろうか? 実在する日本人の名字も頭に浮かぶが、ドアには「日本料理とペルー料理」というサブタイトルがある。そこに読める文字は、「KOMOMOTO TABERNA JAPONESA PERUANA」である。
こももと
(和食とペルー料理のKOMOMOTO。ボケちゃってスミマセン)

 日本と南米ですか? 郷ひろみとウニャ・ラモスの競演、三味線と琴と尺八による「コンドルは飛んでいく」、インカ文明と室町文化の融合。何だか水と油な感じの2つを無理矢理コネクリ回して1軒の店を構築しているが、少なくともメトメト濃い味ソースから解放されることだけは確実である。
 店内はいつ見てもガラガラであって、他の店が満員御礼状態でもKOMOMOTOならいつでもOK。しかし今井君は満を持して日曜の夜、「他の店はホントに意地でも満員御礼」という夜にKOMOMOTOに足を踏み入れた。店には他に3組ほどのお客がいて、今井君が食べている間に、さらに3組4組と客は増えていった。
こももと付近
(KOMOMOTO付近で)

 そのほとんどが正装あるいは盛装である。特に女性は「可能なかぎり着飾った」という張り切ったヒトばかり。「日曜夜に日本食レストランで食事をする」というのは、どうやら彼女たちにとってハレの舞台なのであって、クマ蔵みたいにカカトの擦り減った安靴に、Tシャツ1枚と変わらない普段着なんかで来るのは、明らかに反則であるらしいのだ。
 ただし、KOMOMOTOが本格和食であるかという問題になると、それには触れないでおくほうがいい。テーブルの上には白い徳利が置かれ、徳利だから酒でも入っているかと思うと、何とそれは醤油の入れ物である。
 そこで日本酒を1本頼むと、醤油と全く同じ徳利に入ったSAKEが自慢げにシズシズと運ばれてくる。あっという間に「どっちが醤油?」「どっちがSAKE?」という見極めがつかなくなり、酔っぱらいグマの目の前のサカヅキには「SAKE&醤油カクテル」というエゲツナイものが出来上がる。
 カウンターでは中国人シェフが包丁をふるい、ウェイターもウェイトレスもスペイン人と中国人が入り混じる。サシミ、スシ、ドンブリもの、すべて中国とスペインと日本とペルーの4者が分ちがたく合体し、言わばコスモポリタンな料理の競演が繰り広げられるのだ。
松井秀喜なチップス
(地下鉄駅で発見、松井秀喜な感じのチップスアホイ)

 残念ながら、今井君の胃袋と口腔がこのあたりで悲鳴を上げはじめる。「こんなことなら『エビ大王』『Ambos Mundos』でメトメトソースに耐えていたほうがマシだった」。SAKE&醤油カクテルを前に、だんだん涙目になってくるのもヤムを得ない。
 そこで、逃げるように勘定を済ませた今井君は、近くのウドン店「UDON」に駆け込んで助けを求めることになる。ウドンの店だから、屋号はUDON。「カレー」というカレー屋、「スシ」という寿司屋。まあ、外国なんだから、こういうのもご愛嬌だ。
UDON
(バルセロナのウドン専門店「UDON」メニュー)

 ここは「食材がウドンと蕎麦だ」という以外は全てスペイン人が切り盛りしている店。ペルーと中国が入り込まないぶん、コスモポリタンな怪しさはない。ウドンと蕎麦を楽しむだけなら、こっちの方がいくらかマシである。
 客も多くがスペイン人。スペイン人以外は、フランス人とかイギリス人とかイタリア人、要するに観光客満載である。もちろん彼ら彼女らは「和食ファン」「和食通」であって、箸の使い方も上手。「激しく音をたてて麺をすする」というオゾマしい行為にも、大いに理解がある。
 ただし、実際には「日本人がそう思いたいからそう思うだけ」というほうが正確であって、彼ら彼女らの麺の啜り方はたいへん遠慮がちである。音をたててもいいと言われたことがあるけれども、まだ半信半疑という風情だ。
夜のランブラス通り
(夜のランブラス通り。日付が変わる頃になってもこの賑わいだ)

 「箸の使い方が上手」というのも、見ていて可哀想な「お上手ですね!!」であって、それは「スペイン語が上手ですね!!」と褒められている日本人のスペイン語と、ほぼ同じレベルのお上手にすぎない。
 中でも可哀想だったのは、蕎麦を注文してしまった若い女性グループ。コシのある日本の蕎麦なら別のこと、明らかに茹ですぎてネロネロになったお蕎麦は、彼女たちの力強い握力で箸を握ったのでは、マコトに見事にプツプツに切れてしまう。
 見ているうちに、ドンブリの中は短く切れた蕎麦の破片でいっぱいになった。想像してみたまえ。約2cmか3cmに切れた蕎麦がドンブリの汁の中に数限りなく浮遊しているのである。
 「どうする?」「ゴマカして、出ちゃう?」「何でこんな店に入っちゃったの?」。彼女たちのテーブルを支配した暗澹たる雰囲気は、救いようのないものである。誰かがチャンと教えてあげないと、ヨーロッパ中「日本食、大キライ」な人々で溢れかえってしまいそうで、クマ蔵は心配でならない。

1E(Cd) Brian Mcknight:BACK AT ONE
2E(Cd) Bill Evans:GETTING SENTIMENTAL
3E(Cd) Gregory Hines:GREGORY HINES
4E(Cd) Joe Sample:RAINBOW SEEKER
5E(Cd) Joe Sample & Lalah Hathaway:THE SONG LIVES ON
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