Sat 111217 海老大王 ドンブリ1杯の生ハム 酒とハムの日々(バルセロナ滞在記11) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sat 111217 海老大王 ドンブリ1杯の生ハム 酒とハムの日々(バルセロナ滞在記11)

 今井君は、日本のバブル期には経済的に余り恵まれていなかったから、今もなおバブリーな発想は大嫌いである。モノを大量に使い捨てするのはイヤだから、ちょっと奮発して良い品を購入し、それを10年でも20年でも大事に使う。鞄も靴も、コートやスーツも同じであって、気がつけば15年前のスーツの上に20年前のコートを羽織って講演会に出かけたりする。
 メシを食べるのにも、高級ぶった店はキライ。海外を旅していても、クマ蔵が選ぶのは、地元に密着した、いかにも田舎くさくてドンくさい店である。しかも一度気に入ると、同じ店に何度でも足を運ぶ。
 2週間のバルセロナ滞在中、バルセロネータ「EL REY DE LA GAMBA」に5回、レイアール広場の「AMBOS MUNDOS」にも5回。店の人がビックリするほどしつこく通う。「うちの店って、そんなにいいですか?」「そんなに気に入るワケないんですけどね」と、ウェイターが目を丸くするぐらいである。
 ちょっと店のタイトルを考えてみたまえ。「AMBOS MUNDOS」とは、「両方の世界」。マコトに大航海時代の盟主スペインだけあって「新大陸と旧大陸」だが、意訳すれば「まあるい地球」。ダサクて、バブル的センスの人なら最初から足を踏み込まないかもしれない。
エビ大王
(海老大王 EL REY DE LA GAMBA)

 もう一方の「EL REY DE LA GAMBA」とは、何事であるか。諸君、「海老大王」である。世の中に「海老蔵」というものは、今もめげずに歌舞伎の世界に健在であるが、せっかくガウディやミロ&ダリ&ピカソがシノギを削ったこの街で、「海老大王」って、許されるのかい?
 もっとも、この辺の感覚はスペイン人に共通なのかもしれない。1ヶ月前に旅した大学街サラマンカでは「GAMBARINUS」という店も発見。諸君、「海老閣下」である。しかもこの海老閣下は、スペインでは「白木屋」「笑笑」「和民」並みのチェーン展開をしているようだ。
 しかし、「ダサ!!」「もっといい店、いくらでもあるだろ」と笑われるかも知れないが、とにかく今井君は「海老大王」が気に入った。気に入ったら、14日で5回でも通う。しかも、この安さは何事だ? タパス1皿4€? 5€? 高いのでも8€程度じゃないか。
メニュー
(海老大王のタパスメニュー)

 メニューがスッキリしてるのも、いいじゃないか。タパスメニューなんか「生ハム」「タコ」「イカ」である。他に「ムール貝」とか「Navajas」という得体の知れない貝もあるが、そのイカなりタコなりナバハスなりをどんなふうに料理するか、説明は一切ない。「任せておけ」「旨いから、黙って食え」なのだ。ザックリして、スパっとして、クマ蔵はこういうのが好きだ。
 メニューがやたら長ったらしいのは、料理人に「旨いから黙って食え」と言い切る自信がない証拠。最近の日本で、気の短い今井君があっという間にムカムカするのは
「とろーり温泉タマゴとシャキシャキレタスのシーザーサラダ」
「あまーいキャベツとプリプリ海老がバッチリコラボのシュリンプカクテル」
「朝とれキュウリと高知産フルーツトマトのうっとりサラダ バーニャカウダ風に」
の類い。いったい何なんだ、おまえらは。
 料理人は、「黙って座れ、食ってみろ」「ほれ、分かるか? この旨さ!!」「気に入らなきゃ、出て行きゃいいじゃないか」と難しい顔で睨みつけるようなのが理想。旨さに絶句している客を、さも軽蔑したように見下ろし、ニヤッと片頬で笑って、肩をそびやかして去っていく。その残忍なほどの笑顔が理想なのだ。
エビ店内1
(海老大王、エビだらけのバカバカしい店内 1)

 「海老大王」は、バルセロネータの海岸通りに1号店・2号店・3号店の3軒が軒を並べ、3軒とも大繁盛である。他に旨そうな店もあるけれども、何しろ愛想のいいウェイターが常に店先に構えていて、ヒトが通るたびにメニューを広げて熱心に誘ってくれる。クマ蔵が何より好きなのは、こういう経営努力である。
 で、席についてみると、目の前に単純きわまりないタパスメニューが貼り付けてある。5回も訪れた「海老大王」で、今井君が注文したのは、「タコ」「イカ」「ハモン・セラーノ」、そして「Nabajas」から2皿程度。それにビア1杯とロゼワインのボトル1本。あっという間にこれが定番になって、ウェイターもすぐに何となく「あの日本人は、あれ」と覚えてしまったようである。
バルセロネータ1
(バルセロネータには、他にも旨そうな店がいくらでも立ち並ぶ)

 日本のガイドブックには「タパス4~5皿を注文すれば、少食な日本人には十分」と書かれているが、4~5皿だなんて、トンデモナイ。2皿でもう腹はハチ切れんばかり。3皿目の途中から、食べることが苦痛になるほどだ。
 例えば、ハモン・セラーノであるが、東京のレストランなんかで食べる生ハムとはワケが違う。ワケも違うが、スケールも、量も、扱いも違うのだ。
 日本の生ハムは高級食材扱いで、フグの薄造りよろしく6~7切れが美しい皿に並べられ、知的オネエサマな感じの美しいウェイトレスが、ソロリソロリとテーブルに運んでくる。思わずフォークを手に取ると「お客様、生ハムは素手で直接つまんで召し上がってください。手の温かみで脂がホドよく融けますから」と、丁寧に嗜められたりする。
エビ店内2
(海老大王、エビだらけのバカバカしい店内 2)

 ところが諸君、バルセロナの、少なくともバルセロネータ「EL REY DE LA GAMBA」のハモン・セラーノは、ドンブリよりデカイ器に、角砂糖大のキューブ状の姿でテンコモリになって現れる。ウェイターもニヤニヤ&ニタニタ薄笑いを浮かべ、「さあ、食ってみろ」「さあ、旨いぞ」「そんなに食ったら、ワインだってもっと飲むだろう」「ハハハ」「ヒヒヒ」という調子である。
 そして、これが旨いのだ。噛んでも噛んでも生ハム・キューブからは、それこそ日本のグルメ番組並みに「ジュワーっと肉汁が溢れ出す」であって、キューブ1個を飲み込むのに2分でも3分でも噛んでいたい。
「1個2分ずつ噛みしめるとして、ドンブリの中に100個のキューブが入っているとします。クマ蔵君は、生ハム1皿で『海老大王』に何時間の長居をしたでしょうか」
中学入試の算数にモッテコイのこういう問題を頭に思い描きながら、今井君は毎日毎日生ハム・キューブと戦い、お定まりの口内炎が2つも3つも発生してモガキ苦しむことになった。
エビ大王のワイン
(海老大王プライベートブランドワイン。ピンボケでスミマセン)

 それでも「海老大王」を訪れずにいられず、「今日こそは1本でヤメておこう」と決意したロゼワインは、いつの間にか「もう1本!!」が定番になり、ウェイターたちもそれを見越してニヤニヤ笑いながら、クマ蔵が呼び止めただけで「ロゼワインか?」と向こうから尋ねてくる始末である。何しろこの店のワインは「海老大王」のプライベートブランドである。
 しまいには、言葉を一切交わさずにジェスチャーだけでワインを運んでくるようになって、おお、この旅行もまた今井君の思い通りの、限りなくダラしない酒とハムの日々に変質したのだった。

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