Sat 111203 アテネ総復習 大きなアキラメの涼しい笑顔(ギリシャ紀行40) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sat 111203 アテネ総復習 大きなアキラメの涼しい笑顔(ギリシャ紀行40)

 アテネ最終日、すでに9月も6日だが、シンタグマ広場は相変わらずの灼熱である。この日は「アテネ総復習」と予定が決まっていて、午前9時朝食、11時には街に出て、ゼウス神殿→パルテノン神殿→アゴラのヘパイストス神殿→モナスティラキ→アレカの店と回った。
 こう並べてみると、すでにこの2週間で2回ずつ訪ねた場所ばかりであって、普通の人がこの予定を見たら「バカじゃないの? せっかくアテネにいるなら、もっといろんなところに行けばいいのに」とビックリするはずだ。特に「アレカの店」については、「そんな平凡な店に3度も足を運ぶより、ずっと旨い店がたくさんあるだろ」と呆れる人が多いに違いない。
 しかしクマ蔵としては、あのアキラメきった雰囲気を味わい、「客が爆発的に増えて、店が想定外の大繁盛なんかしたら、かえって面倒だ」という店主のジーサンたちの退廃的な表情をもう1度眺めてこそ、アテネの本質を再確認できると確信していたのである。
リカヴィトスの丘
(ディオニュソス劇場の上からリカヴィトスの丘を望む)

 ゼウス神殿だって、パルテノン神殿だって、同じことだ。崩れかかった神殿の大理石諸君は、「夢よもう一度」など一切望んでいない。むしろ、イタリアの古代ローマ遺跡みたいに脚光を浴び、有象無象の観光客が大挙して押し寄せるのを面倒に感じているのだ。
 腐敗も、退廃も、荒廃も、要するに止められない時間の流れであって、黙ってこれを受け入れるしかないのである。コケが生えるのもよし。トカゲばかりが這い回るのもよし。トゲだらけの多肉植物が生い茂るのもよし。すべて受け入れて、灼熱の陽光の中、強烈なウゾの酔いに任せていればいい。
アレカのみせ上空
(パルテノン神殿からプラカ地区を見下ろす。「アレカの店」はこのあたりだ)

 アテネの本質はそれであり、ギリシャの本質もそれである。神殿の再建がちっとも進まないのも、経済や財政の再建に人々が及び腰なのも、おそらく同じことなのだ。ディオニュソス劇場の上で、今日もノミを握って再建作業に励んでいた髭の青年の表情には「どうせ、いくら努力しても崩壊の着実さには勝てません」という涼しいアキラメの微笑が浮かんでいた。
古代人
(古代人的風貌の青年。今日も修復作業に励んでいた)

 こういう言わば潔いアキラメは、古代ギリシャ遺跡に限らない。ローマ帝国の崩壊以来長くギリシャを支配したギリシャ正教の教会の荒廃ぶりは、むしろそれを上回る。
 赤い丸屋根は全体がペンペン草に覆われ、ペンペン草は夏の日照りに堪えられずに黄色く枯れているが、その力強い根は屋根瓦を割り、壁を割り、すでに使われている様子も見えない教会が、そこでもここでも崩壊寸前の哀れな姿をさらしている。
アゴラタベルナ
(アゴラを出てすぐ、モナスティラキのタベルナ。巨大な扇風機でミストを吹きつけてくれる)

 路上の物売りたちも、今日も「まさか売れるはずはない」というアキラメきった商売を続けている。ミネラルウォーター売りの人はまだしも、例のトマトのオモチャを売っている人々となると、完全にアキラメが先に立って、自分の売っているオモチャに自分でも愛想が尽きた様子だが、移民の人々にも、ギリシャ独特のアキラメがこうして広がっていく。
ヘパイストス宮殿
(最後に、ヘパイストス神殿を訪問。1週間前の香港オバサマとの出会いが懐かしい)

 さて、こうして明日の記事が「ギリシャ紀行」計41回の最終回になる。ギリシャ最終回だからといって特別な感慨があるわけでもないし、感動的な1章を無理して捻りだそうというのでもないが、まあ諸君、次回はチョコッとだけ緊張して読んでくれたまえ。

1E(Cd) Stan Getz & Joao Gilberto:GETZ/GILBERTO
2E(Cd) Keith Jarrett & Charlie Haden:JASMINE
3E(Cd) Ann Burton:BLUE BURTON
4E(Cd) Harbie Hancock:MAIDEN VOYAGE
5E(Cd) Miles Davis:KIND OF BLUE
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