Thu 111103 再び「ヨルゴに店」に入る ウニに右手中指を刺される(ギリシャ紀行21) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 111103 再び「ヨルゴに店」に入る ウニに右手中指を刺される(ギリシャ紀行21)

 こうして、4日にわたるミコノス島滞在は最終盤がやってきた。明日の午後3時にはサントリーニ島に向かうから、デロス島からミコノスに帰ってきた段階で、残り24時間しか残っていない。
 ほんの20年前なら世界中のVIPの垂涎の的だったミコノスが、これほどまでカンタンに堕落してしまうのを目の前に見て、まさに「呆然とする4日間だった」と言っていい。
 地中海には、サルデーニャもシチリアもあれば、マルタもクレタも、キプロスもロードスもある。祇王のような儚い存在だったミコノスのすぐそばに、もっと儚い仏御前=サントリーニが出現すれば、世界中の平清盛的VIPの寵愛ベクトルは一斉にサントリーニの方を向いて、恥じることは一切ない。
 ならばクマ蔵のミコノス最終日は、ミコノスに残った今井的寵愛の対象をめぐり歩いて過ごすことになる。諸君、そうなれば、何をおいても「ヨルゴの店」である。昨日の朝食から世話になり始めた店であるが、何より好きなのは店主ヨルゴの仕事熱心である。
ヨルゴ
(店先の青いシャツがヨルゴ)

 今井グマには、同じ飲食店を繰り返し繰り返し襲撃する習癖がある。例えば、2011年11月25日夕刻17時、今井グマは千駄ヶ谷「高田屋」を襲撃した。「高田屋」は単なる蕎麦屋ファミレスチェーンに過ぎないが、鍋料理に焼き鳥に天ぷらまで揃って、貧乏な育ちの今井グマにとっては、この上なく落ち着けるネグラのような店である。
 すると今井君は「またすぐにこの店に来たいな♡」と熱望する。その思いがどのぐらい強烈かと言えば、「お勘定をして、店を出て、5分過ぎた段階でまた行きたくなる」というレベルである。というのも実はウソであって、ホントは「店の中にいるうちに、すでに次に来るのが楽しみでならない」がホンネなのである。
ヨルゴの弟
(店先のピンクのシャツが、ヨルゴの弟)

 こういう「このままこの店にずっと居続けたい」という欲望は、要するにコドモ独特の欲求。普通のヒトならとっくに卒業しているはずのネグラ回帰願望の過ぎないのだが、もしネグラ回帰願望を否定すれば、サケもウナギも渡り鳥も生きていくことは困難だし、「ウサギ追いしあの山、コブナ釣りしあの川」みたいな感慨を全て否定するに等しい。
 要するに、今井君のネグラ回帰願望こそ、人間の人間らしい人間的情緒であって、これを否定したり蔑視したりするのは、人間を絶滅危惧種に追いやる危険な態度である。「同じ店にまた行きたい」「居心地の良かった店に、すぐまた入りたい」という欲望こそ、人間の本能にピッタリの根源的欲求なのである。
ビアとワイン
(今日も、まず凍ったグラスでビア。白ワインも既に待機中だ)

 だから、11月25日、午後5時から6時半まで千駄ヶ谷「高田屋」で過ごして盛り上がったクマ蔵は、19時から21時まで国立能楽堂で優雅に能楽を満喫した後の夜を、再び「高田屋」に戻って過ごすことに決めた。能楽堂で過ごした直後だからといって、何も高級和食店で過ごさなければならないという法令も条例も存在しないはずである。
ヨルゴの店1
(外から見た「ヨルゴの店」とヨルゴの弟)

 同じように、そこが超高級リゾート=ミコノスだからといって、「バカだなあ、せっかくのミコノスなんだから、もっと旨い店に行けばいいじゃないか」とせせら笑われるイワレはない。今井君はいったん「ヨルゴの店」がいいと決めれば、たとえ目の前にミシュラン3つ星の店があっても、絶対にヨルゴの店がいい。
 遠くからクマ蔵を発見したヨルゴが、間髪を入れずに「ちょっと、ちょっと!!」と声をかけてくれた。観光地によくある「日本人だ!!」という反応ではなくて、ハッキリ今井君を記憶して、大喜びで迎えてくれる感覚。さすがにこちらも旅行のベテランだから、その両者の区別ぐらいすぐにつくのである。
 ヨルゴのオヨメさん、妹、弟、バイト店員のお姉さん、皆にチヤホヤされながら、穏やかな港の風景が眺められるテーブルに導かれる。こちらとしても目一杯愛想良くして、詰物をしたイカ、ヒツジ肉のスブラキ、ギリシャビアMythos、得体の知れない白ワイン1ボトル。何の変哲もない定番メニューを全部注文して、彼らの大歓待に応える。
相変わらずイカ
(今日も、イカを食らう)

 ヨルゴの経営努力は、同じ営業マン・今井君でも驚くほどである。目の前を行き交うほとんどのヒトに、ヨルゴは自信満々でメニューを示し、「どうだ、昼メシ食ってかないか」「うちは安くて旨いよ」と声をかける。
 今井君は見るからに日本人だから、「イカに、タコに、エビがあるよ」とヨルゴは英語で語りかけてくれた。欧米人にはイカやタコやエビを勧めない。ブラックバスみたいな白身の魚を選んで、彼らのイヤがるイカやタコの存在はオクビにも出さないのだ。
ラムスブラキ
(今日も、ヒツジさんを食らう)

 どうやって見分けるのか分からないが、スペイン系の人にはスペイン語で、イタリア系の人にはイタリア語で、フランス系の人にはフランス語で話しかける。一目見て、即座に判断して「ポルトガル系だからポルトガル語メニュー」を差し出すのだが、その即座の判断に誤りは滅多にない。
 メニューを差し出された側の拒絶の表情は、驚くほど無慈悲である。ストレートにメニューを突き返すならまだ優しいほうであって、家族連れが家族全体でメニューを矯めつ眇めつしたあげく、いきなり「他の店に行きます」宣言を宣告することも多い。
ヨルゴの店2
(ヨルゴの店。奥行きも広い)

 諸君、ヨルゴとその家族は、毎日こんな厳しい営業活動に耐えているのだ。例えば、これが予備校業界だとしてみたまえ。せっかく旨い料理を揃えて
「この講師は、間違いなく旨いよ」
「他店でも大評判、人気抜群1番だった、絶品の講師を揃えました」
「もしこの講師がマズかったら、もっとウマい講師もあるよ」
と、いきかう受験生たちに勧めているのに、
「いらないよ」
「もう、他の店に決めてます」
「他の、もっと大きな店構えの店に行きます」
「ガイドブックに載ってないし、雑居ビルの1フロアじゃん」
と、取りつく島もなく、差し出すメニューを次々を突き返されるのだ。こりゃ、今井君だけでも、どうしてもヨルゴの店に入らなくちゃいけない。
ミコノスの迷路
(ミコノスの迷路も、今日が最後だ)

 こういうふうで、ミコノスに4日間も滞在したのは、そもそも計画段階での失敗だったのかもしれない。3日でもOKだったように思うし、連日連夜ビーチパーティーの大音量ハードロックで安眠を妨げられたことを考えれば、2日でもよかった。ミコノス滞在を2日で切り上げれば、サントリーニを4日に増やせたのだ。
 しかし諸君、ミコノスを2日減らせば、
①デロス島を体験できなかった
②おそらくヨルゴに出会うこともなかった
以上2点を考えただけで、ミコノス4日は決して無駄じゃなかったのである。
 そういえば、リトル・ヴェネツィア「ベランダ」や、何匹ものネコどのたちとの出会い。それもミコノスに4日滞在したからこそ可能になったのであって、決して後悔ばかりするわけにはいかない4日間であった。
再び迷路のネコ
(迷路のネコも、今日で最後だ)

 後悔があるとすれば、最終日だからといって慌ててビーチに出てみたことである。大慌てだったクマ蔵は、どうしてもウニの写真がとりたくなって、磯に隠れていたウニを手づかみで引きずり出そうとした。スーパーのプラスティックの袋を手に巻きつけて、ウニをワシヅカミにして岩場から引っ張りだそうとしたのだ。
 どんなに大きく乱暴なクマでも、それだけのことで一生後悔する傷を負う。今井グマは、ウニどんが必死で繰り出した紫色のトゲで右手中指の先を刺され、高圧電流のような激痛が走った。決して抜けないようにウニの祖先が1億年も工夫したトゲは、クマの中指の奥深く刺さった。
 傷は、毒々しい紫に腫れて、まだ1週間も残っているギリシャ旅行の前途に暗い影を投げかけることになった。
うに
(窮鼠ネコを噛む。同様に、窮ウニ、クマを刺す。刺したウニはコイツだ)

 強い酒を口に含んで、消毒のつもりで傷をくわえてみる。ネットで調べて「酸が利く」と知り、赤ワインを口に含んで指をくわえてみる。今井君独特「村の長老的治療法」を次から次と試してみたが、残念ながら指の痛みは引くことがなかった。諸君、ウニみたいな小動物の護身術を、決して甘く見てはならない。

1E(Cd) Stan Getz & Joao Gilberto:GETZ/GILBERTO
2E(Cd) Keith Jarrett & Charlie Haden:JASMINE
3E(Cd) Ann Burton:BLUE BURTON
4E(Cd) Harbie Hancock:MAIDEN VOYAGE
5E(Cd) Miles Davis:KIND OF BLUE
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