Tue 110823 ロカ岬へ、電車もバスもオッカナビックリの旅が続く(リシュボア紀行12) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 110823 ロカ岬へ、電車もバスもオッカナビックリの旅が続く(リシュボア紀行12)

 リシュボアからカシュカイシュに向かう近郊電車は(スミマセン、昨日の続きです)、進行方向左側に座れば、車窓に河と海を満喫できる。発車してしばらくは、テージョ河の河口風景。薄日がさす曇りがちの日だったので、河の水は暗い灰色、都会のハズレの廃工場や閉店したレストランの続く殺伐とした風景である。
事務所のアズレージョ
(ロカ岬事務所のアズレージョ)

 15分ほどして、ふと風景が明るく開け、何よりも水の色が変わる。近くの浅い所はエメラルドグリーン、沖に目を転じるとオーシャンブルーに輝き、まぶしさにヒタイに片手をかざしながら「おお、海に出たのだ」と気づくわけである。街の様子も、瀟洒な別荘群が続くようになって、いかにもリゾート地らしい華やかな雰囲気に変わる。
 ただし、モナコやニースやマントンみたいなコート・ダジュールの華やかさとは、どうしても比較にならない。華やかな風景の中に、廃屋や廃墟の群れがポッカリ暗い口を開けて、500年の停滞、500年の衰退、21世紀の深い経済危機、そういう重い現実を忘れさせてくれない仕掛けになっている。
カイスドソドレの電車
(始発駅カイシュ・ド・ソドレに停車中のカシュカイシュ行き近郊電車)

 そういう高尚なことを考えているようで、実は東洋のクマは、この電車の中でもオッカナビックリ&戦々恐々としていたのである。何しろ「数十人の高校生集団が乗客たちから金品を奪う事件が多発している」と、インターネットに治安危険情報がタップリ掲載されている。
 確かに、始発のカイシュ・ド・ソドレから10分ばかりの河岸の駅で、いかにも感じの悪い少年集団が十数人乗り込んできて、傍若無人に車内を占領し始めた。
 女子は太い腕に入れ墨らしきものをのぞかせ、男子はみんなイナズマ・イレブンみたいなヘアスタイルをワックスで固めて、集団でシートを占拠。土足でシートに上がったり、つり革で吊り輪ごっこ、鉄棒で鉄棒ごっこ、要するに日本の小学生集団の行動だが、それを17~8歳のデカイ身体でされるとなかなかにオソロシイ。
車内
(カシュカイシュ行き近郊電車の車内)

 今井君はヘアスタイルや服装でヒトを判断することは好まないし、イナズマ・イレブンだって大好きだ。得意技を繰り出す前に、わざわざそのワザの名前を絶叫するのも、昔からのアニメのお決まり通り。しかし、今日の西洋少年十数人の動向は、どうしても物騒である。
 この中の誰かが「遊ぶカネ、欲しくネ?」と言いだせば、あっという間に「少年集団、十数名で車両を占拠」の新聞記事になるし、「集団で乗客から金品を巻き上げる事件が、経済危機にあえぐリスボン近郊の電車内で発生しました」という海外トピックスに発展する。
曇天のロカ岬1
(曇天のロカ岬)

 海外での今井君は、こういう事態に備え、デカイ財布は絶対に持ち歩かない。その日に使うお小遣い程度の紙幣、せいぜい合計100ユーロぐらいを、汚く折り畳んでハダカのままポケットに突っ込んでいる。あとはクレジットカード1枚だけである。万が一「集団で強奪」などということになっても、これなら被害は最小限で済む。
 しかし問題はパスポートである。ホントの先進国なら、日本人観光客がパスポートを持ち歩く必要はないが、まだ不安定な東欧諸国とか、アイルランドやポルトガルやギリシャなど経済危機まっただ中の国々では、外国人にはパスポートの持参義務がある。警察官の求めがあれば、直ちにパスポートを提示しなければならない。即座に提示しなければ、検挙される可能性さえある。
曇天のロカ岬2
(アメリカは余りに遠い)

 だから、たくさんのニセ警官が見え隠れする東欧の街中や、この種の危険な少年集団がウロウロする電車内でも、やむを得ず今井君はパスポートを持参している。
 日本人のパスポートを奪っても、それを売りさばくルートを少年たちが知っているはずはないから、まあ彼ら彼女らには何の利益もない。しかしそういうヤカラは「ヒトが嫌がることをする」ことに快感を感じ、ただイヤがらせをするだけが目的で犯罪行為に及ぶことも少なくないだろう。
 「イヤだな」「面倒だな」という嫌悪感を感じながら、終点カシュカイシュまでまだ15分近くを無難に過ごさなければならない。これから事態はどうなるのだろう。他のポルトガル人乗客も眉を顰めながら、不安そうにお互い目を見合わせ、あるいは目を伏せて「とにかく視線を合わせない」ことに努めている。
 重い雰囲気のなか、電車は南欧の海岸線をひた走る。と、何かのハズミで少年集団は1両前の車両に移動し始めた。おお、やれやれ。溜め息とともに車内に一気に満ちあふれる安堵感に、今井クマ蔵も大いに同感。キミたちさえあっちに行ってくれさえすれば、ポルトガルの明るい海岸風景を思う存分楽しむことができる。
十字架の塔
(ロカ岬に立つ十字架の塔)

 ところが、そのときである。今井君の近くの席にいた若い女性の乗客が、いきなりスックと立ち上がると、少年集団が向こうの車両に移動してくれたばかりのドアを思い切り、ホントに思い切り、衝撃音が沿線住民にも届くほど強烈に、嫌悪感を叩きつけるようにバタンと閉めたのである。英語でslam the doorという表現そのままである。
 少年集団の無法な行動ぶりが、よほどハラに据えかねたのだろうけれども、これ以上無意味で迷惑な行動はない。叩きつけられたドアは、跳ね返ってしまって半開き状態。我々の口も、大胆すぎる行動に呆れ返って、ドアと同じく半開きである。
 少年集団だって、こんな形で挑戦状を突きつけられれば、あっという間にワラワラとこの車両に戻ってくる。日本の任侠映画なら、「いい度胸してるじゃねえか」というところであるが、Mac君は「いい読経してるじゃねえか」とお坊さん風に変換して、疲れた今井君を和ませてくれるのであった。
 「ありゃりゃ、どうなることか」という不安の中、マコトに運のいいことに電車は彼ら&彼女らの下車駅に到着。終点カシュカイシュの前の前の駅だったが、クマ蔵君も危機一髪で難を逃れた格好であった。
カモンエス
(ロカ岬の十字架の塔、詩人カモンエスの「ここに地果て、海始まる」)

 カシュカイシュでは乗り継ぎの時間があまりなくて、駅前スーパーのトイレに入っただけでバス出発の時刻になった。バスもまた帰宅する少年少女集団で大混雑である。平日なのに、何でこんなに少年少女の帰宅時間が早いのか、クマ蔵にはフシギでならない。
 最前列4人がけのシートを占拠してベトベトの甘そうなお菓子をパクついている女子高生たちが、やっぱり感じが悪い。盛んにこっちを睨んでは「Welcome to カシュカイシュ」と呟くのだが、そのウェルカムは決して歓迎の意味ではなくて、こんなに混雑したバスに観光客なんかが入り込んだことへの不快さの表現であることが、態度からも表情からもあまりにも露骨である。クマさんは小さく縮こまりつつ、バスが次第に空いてくるのをひたすら待った。
多肉植物
(岬には、多肉植物の姿が目立った)

 こうして、西の果てロカ岬に到着。13時。帰りのバスは14時半だから、ロカ岬滞在時間は1時間半である。まず事務所の窓口で「ロカ岬到達証明書」の交付を申請。バカバカしいにもほどがあるのかもしれないが、10ユーロで申請した手書きの名前入りの証明書は1時間後に完成。諸君、それが昨日掲載した写真である。
 岬自体は、日本にもよくある断崖絶壁であって、例えば北海道の積丹半島の雄大さに比較すればハッキリ見劣りする。しかし何と言っても、「ついに大西洋に到達」「この水平線の先は、アメリカ」「思えば遠くへ来たもんだ」の感動があるから、その程度の見劣りは全く気にならない。
 岬には多肉植物が目立ち、「荒れ果てた」という形容は当たらないにしても、柵の向こうの断崖は険しく、土は崩れやすく、強風に煽られて足がすくむ。ポルトガル詩人カモンエスが読んだ「ここに地果て、海始まる」の一節が石碑に刻まれているが、日本・韓国・中国人集団が次々とバスで訪れ、石碑をバックで写真を撮っては機械的に引き上げていく。
 余りにベルトコンベヤ的な彼らの行動に、「あれれ、『海の向こうはアメリカ』の感動も何もないんですか?」と尋ねたくなるが、「偉そうにしているアナタだって、ついさっきまであんなにオッカナビックリだったじゃないですか」と反論されれば、もちろん返す言葉は一言もない。

1E(Cd) Barenboim:BEETHOVEN/THE COMPLETE PIANO SONATAS⑧
2E(Cd) Barenboim:BEETHOVEN/THE COMPLETE PIANO SONATAS⑨
3E(Cd) Barenboim:BEETHOVEN/THE COMPLETE PIANO SONATAS⑩
4E(Cd) THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY トルコの軍楽
5E(Cd) THE WORLD ROOTS MUSIC LIBRARY トルコの軍楽
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