Tue 110712 山口俊治の実況中継 原田芳雄とピーター・フォークと「ぴあ」をめぐって | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 110712 山口俊治の実況中継 原田芳雄とピーター・フォークと「ぴあ」をめぐって

 春日部に公開授業で出かけ、そこからの連想でブログは延々を春日部ネタが続いてきたけれども、注意深い読者なら「ははーん、春日部こそ今井のルーツの1つなワケね」と気づいたはずである。
 事実、春日部からせんげん台、せんげん台から南浦和、その臥薪嘗胆と切歯扼腕の苦渋の日々に、少なくとも「予備校でチャンと教える」という力はついたはずである。いやはや、研究社の「実例英文法」を皮切りに、実にたくさんの参考書を読破したのがこの頃。ジョバンニ(仮名/昨日の記事参照)が本屋で見つけてきた「単語レモン」という変わり種もあった。
階段ネコ
(ニャゴロワは、今日も元気で階段を上下しております)

 語学春秋社の「実況中継シリーズ」が続けざまに出版されるキッカケになった、山口俊治「英文法講義の実況中継」がバカ売れしていた時代だ。上下2巻プラス問題集まで揃ったこの本は、「講義部分を丸暗記して、暗記した通りに授業で喋れば、どんな素人でも即日人気講師になれるんじゃないか」と思える名著である。
 せんげん台でも南浦和でも、若き今井君が受験生クラスを教えるときは、山口俊治の実況中継を下敷きにして、コツコツ自分でテキストを作成した。教室内は20人とか30人とかではあったが、校長という管理職ではなく、教師としての今井君は、おかげで驚くほど評判が良かった。
全解英語構文
(同じ山口俊治「全解英語構文」。1000ページもあったが、国立学院の講師室で読破。おお、昔のクマ蔵は体力だけはあった)

 無駄なことや無理なことを一切排除して、どうしても知らなければならないことだけに集中する。確かにこれなら1週間もかからずに英文法がわかる。英文法しかやってないのに、英作文や長文読解も爆発的に向上する。
 「長文読解だから長文読解の教材をやらなきゃダメ」「作文だから作文のテキストをやらなきゃダメ」などというのは、まさにシロートの発想。「速読が必要だから速読の練習」と言うのもまたシロート。速読やリスニングまで含めて、爆発的に向上する一番の方法は、必要最低限の英文法と単語をスピーディに身につけて、あとはひたすら音読に励むことなのだ。
実例英文法
(教師用の定番、トムソン&マーティネット「実例英文法」。当時これも読破)

 何しろ切歯扼腕&臥薪嘗胆の日々だから、あの頃の今井君は「何でもいいから読書」「何でもいいから映画と演劇」な生活を続けていた。読書は、できれば1日1冊が目標。忙しいけれども、演劇や映画を1週間に5本。可能なら美術館にも週2回は足を運びたい。
 当然、80年代から90年代前半の今井君にとって「ぴあ」は必携。原田芳雄の出演する「竜馬暗殺」も「陽炎座」も「ツィゴイネルワイゼン」も、ちょうどあのころ続けざまに何度も見たのである。
 20歳のころから「内田百閒大好き」で生きてきた今井君としては、百閒「サラサーテの盤」を原作とした「ツィゴイネルワイゼン」だけは、どうしても見なければ気が済まない。「ぴあ」をめくって、早稲田松竹で、飯田橋佳作座で、三鷹オスカーで、または池袋文芸地下で、「2本だて300円」とか「3本だて350円」でやっているのを発見、狂喜乱舞したものである。
ぴあ最終
(ぴあ最終号。最後の3ヶ月は定期購読していた)

 正社員でも、土日出勤して平日に定休日を設定すれば、そういう生活も可能であった。火曜日だったか、木曜日だったかがあの頃のクマ蔵の定休日。しかしいったん「校長」に抜擢されてしまうと、「定休日だからといって校舎にいないのは、いかがなものか」ということになる。特に、せんげん台の校長だった日々は、「ほかに正社員は一人もいない」という状況なので、演劇も美術館もパッタリと足が遠のいてしまった。
 あの当時の「名画座」の定番に「名探偵登場」「続・名探偵登場」があった。刑事コロンボで一世を風靡したピーター・フォーク主演の映画である。小池朝雄の渋い声で慣れ親しんだピーター・フォークが、実は驚くほど甲高い声で名探偵役を演じた。
 こちらとしては「あの顔には小池朝雄の声じゃなきゃ」と思っているから、「あんなキーキーした声はイヤだ」と日本人ならみんなそう思う。「名画座の定番」の割には客席がいつもガラガラだったのは、刑事コロンボ役が定着しすぎた俳優の悲しさである。上野樹里といえば、のだめ。のだめ以外の上野樹里にあまり人気がないのと、同じような話である。
 2011年初夏、まずピーター・フォークが世を去り、原田芳雄も去り、石橋蓮司と桃井かおりが号泣し、約40年続いた「ぴあ」は廃刊になった。シェイクスピア・シアターの連続公演に毎月通った渋谷ジャンジャンはすでに伝説に変わり、渋谷や高円寺にいくらでも乱立していたライブハウスも次々と姿を消している。「ぴあ」のライバルだった「シティロード」も「アングル」も、もはや記憶しているヒトの方が少ないんじゃないか。
 3クリックか4クリックして、求める情報に直接行きつくネット情報より、ああいうタウン情報誌をめくって、思いがけないシンガーのファンになったり、ふと現代演劇を初体験(Mac君の変換は「初田意見」であるが)したくなったり、ミニシアターに興味をもったり、その方が生活はずっと豊かになると思うのだが、どうも世の中の趨勢は今井君の好みとは真逆に動いているようである。
船橋君1
(船橋での講演会)

 7月16日、船橋で講演会。19時開始、21時終了。出席者約110名。高3生の出席は禁止だから、この出席者数はたいへん立派な数字である。校舎担当者の皆さんに大いに感謝する。「60秒に1度の大爆笑」で応えてくれた生徒諸君にも感謝。入りきらないので机を教室から排除、「椅子だけ」という状況でよく我慢してくれた。
 しかしさすがに「高1高2だけ」となると、目の前の生徒諸君は余りにも若い。石橋蓮司や原田芳雄が通じないばかりか、「ぴあ」も伊藤和夫もツィゴイネルワイゼンも渋谷ジャンジャンも内田百閒も実況中継シリーズも、すべて彼ら彼女らの守備範囲外。桃井かおりだって「SKⅡの、小雪の前のヒト?」でしかない。「渋谷や高円寺のライブハウス」も、もはや理解の範囲の外である。
船橋君2
(船橋で、語るクマ蔵)

 だって、彼らも彼女らも1994年生まれか1995年生まれ。神戸の大震災やオウム事件の頃生まれた諸君である。下手すれば、今井クマ蔵が初めて教えた生徒たちの息子や娘が、そろそろ目の前に生徒として並び始めている。「先生、受験生の頃はお世話になりました。今度は娘(息子)をよろしくお願いします」。恐れていたその言葉を父母会の席で聞くことになる日は、もうそれほど遠くない。

1E(Cd) Jandó(p) Ligeti & Hungarius:MOZART/Complete Piano Concertos④
2E(Cd) Jandó(p) Ligeti & Hungarius:MOZART/Complete Piano Concertos⑤
3E(Cd) Barenboim/Zukerman/Du Pré:BEETHOVEN/PIANOTRIOS⑧
4E(Cd) Barenboim/Zukerman/Du Pré:BEETHOVEN/PIANOTRIOS⑨
5E(Cd) Jandó(p) Ligeti & Hungarius:MOZART/Complete Piano Concertos④
total m59 y674 d6639