Wed 110622 広島大学2011年 難問と並列する困った会話文 代ゼミ手書き解答例に賛同 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 110622 広島大学2011年 難問と並列する困った会話文 代ゼミ手書き解答例に賛同

 6月21日昼過ぎ、いよいよ始まってしまった猛暑の中を、一人トボトボ吉祥寺に向かった。吉祥寺スタジオで「広島大学・2011年」の過去問演習講座を収録。午後1時スタート、5時半近くまでかかって、全6問の解説を終えた。終了後、まさにヘトヘトだったので、下北沢で一杯引っ掛けて帰ったが、まあその話はいずれ詳しくしたい。
 広島大学の問題は、昨年秋に3年分まとめて解説したばかりだから、問題傾向を完全に熟知している。うーん、今年もまた相変わらず、悪問ばかりを並べたねえ。
 正直言って、「工夫しすぎて、みんな悪問になっちゃった」という経緯まで見え見え。首都圏の私立大学並みに、大勢の出題者で懸命に工夫して、結果として「何だこりゃ?」だらけ。悪問と言って悪ければ、「驚きの問題」ばかりがズラリと並んでいる。
この姿勢から
(この姿勢から)

 第1問は、長文の要旨を300字以内でまとめる問題。テーマは「sacredとholyの違いについて」。「20世紀までは『聖』という意味の同義語と見なされたこの2語を、2001年の9.11以降は反対語と見なすべきだ」というフランスの理論家の意見を要約するのである。
 今井君が簡潔に要約すれば、「sacredは排他的。集団の中の他者を劣った危険分子として排除しようとする姿勢。それに対し、「holy」は他者を受け入れ、歓待し、多様性を認め、多様性を認めながら一体性を希求する姿勢なのだ」。
 おお、美しい。おお、素晴らしい。ほとんど詩的と言えるほどに理想と夢に溢れた文章。もし読解のテキストを作成するとしたら、ぜひ収録したくなる美しい文章である。しかし、あれれ、手際よく要約すれば、100字ぐらいで出来ちゃうぞ。「300字も、いったい何を書けばいいの?」という受験生が多かったに違いない。
 しかし、この美しく詩的な論文を10分で読み切り、15分で300字も書かなければならない。広島大学の受験生が、果たして「15分で300字」などというハナレワザを演じることが出来るのか。割り算すれば、「1分で20字」だ。
 解説する予備校講師から見て、「こりゃ大学が無理しすぎ」の感が拭えない。「1分で20字」とは「3秒で1文字」。そりゃタイヘンだ。もし駿台予備校の授業なら、構文を説明して訳すだけで50分授業が2回分。「それこそ、テキスト半分もやってないのに、あっという間に夏休み」である。
ちょっとひねって
(ちょっとひねって)

 第2問は、第1問とは比較にならないほどカンタン。「あれま、中学生用の問題集にちょうどいいかも!?」というレベルである。コウヘイとマリコという名の、おそらく日本人2名が、「動物園が好きかどうか」をテーマに話し合っている。動物園大好きのコウヘイに対し、「動物園は動物虐待、絶対に許せない」というマリコが感情むき出しの激論を挑む。内容からして40歳代の男女だが、「なぜ日本人同士で英語で話してるの?」「この2人、どういう関係なの?」とか、いろいろツッコミを入れたくなる。
 まあ、興味があったら予備校のHPから入って、軽く研究してみたまえ。マリコの娘・マチコが「昨年、動物園でボランティアをした。スネークセンターで働いて、ヘビ好きになった」「だから動物園にもいいところはある」という、いかにも無理したシチュエーションが笑わせる。
もうちょいひねって
(もうちょい、ひねって)

 「次の一文が本文から抜けています。補うべき適切な箇所を、アイウエの中から1つ選びなさい」という問題が特に滑稽だ。抜けている英文とは
「私は、遊んでるサルたちを見るのが好き。堂々としたトラやライオンを見るのも好き」。
おお、動物園大好き発言じゃないか。「本文中の抜けている箇所」のうち、(ア)だけがコウヘイのセリフ。(イ)(ウ)(エ)はマリコのセリフ。そんなの、コウヘイのセリフに決まってるじゃないか。で、正解は(ア)。中2でもわかるじゃん。
 こういう問題をみて今井君が怒りを感じるのは、たった今第1問で「sacredとholyの違い」を300字で要約したばかりの素晴らしく賢い受験生に、こんなバカバカしい会話文をやらせて平気でいる出題者集団が許せないからである。
 第1問が出来る者にとって、第2問が出来ないはずはない。第2問で苦労する者なら、第1問なんか読めるはずも書けるはずもない。要するにどちらか一方を出題すれば足りるのであって、何とか問題数の辻褄合わせをしたに過ぎないのだ。
わけがわからなくなって
(もうワケがわからなくなって)

 しかも、こんなアホらしい問題を並べた直後、出題者集団はおなじみの受験生イジメ「自由英作文・100語程度で書きなさい」を2問も出題する。うち1問は
「沈黙は金、という考え方について、賛成ですか、反対ですか、『どちらとも言えない』ですか。あなたの意見を書きなさい」
おお、いかにも問題提出の期限が迫って、切羽詰まった感じの出題であるね。
 もう1問の自由英作文は、説明が面倒だからここでは省く。ぜひ各予備校のHPで研究されることをすすめる。日本の国立大学入試の実態が透けて見えてくる。
 このとき注目すべきなのは、各予備校が示した模範解答である。駿台は「広島大学なんか眼中にない」ということらしくて、問題も模範解答も掲載ナシ。なかなか生意気であるね。
 今井君が「特に注目すべし」と思ったのは、代ゼミの模範解答。諸君、21世紀のこの世の中に、ヒトを食ったような♨手書き♨の解答が、平然と掲載されている。その手書きの文字も、「ありゃりゃ、こりゃ、男子生徒が書いたのかい?」とビックリするような、たいへん&たいへんヒトナツコイ文字である。
 しかし、クマ蔵はこの模範解答に大きな親近感を覚えるのだ。まず、ホンモノの解答用紙に手書きで解答を示したこと。生徒が手書きなのに、解答者がPCでは、実際に紙に書ける量もわからないし、手書きに要する時間がどのぐらいかかるかもわからない。
 手書きの方が消費する時間がもちろんずっと多いし、心にかかるストレスも大きい。このヒトナツコイ文字の解答例は、まずそのへんの事情をしっかり示していて、まさに秀逸である。
目が覚める
(目が覚める)

 もう1つ、クマちゃんが代ゼミの解答例に学ぶべき点を感じたのは、「生徒のレベルに限りなく近づけている」という点である。最初一読した時は
「これって、ホンキ?」
「もう少し、高尚な文章を書いた方がいいんじゃん?」
「天下の代ゼミともあろうものが、ホントにこの程度の英作文を模範解答としてHPに掲載していいの?」
という慨嘆に浸るのであるが、そのあたりが今井君のまだ未熟なところかもしれない。熟読&玩味してみると、「なるほど、これなら生徒にも無理なく書けるかもね」というレベルにチャンと収まっている。
 だって、40歳過ぎたコウヘイとマリコが動物園の是非について英語で激論を交わす、そんな会話文にも苦労する生徒だって、この作文問題にチャレンジするのだ。彼ら彼女らにも書ける作文を提示しなきゃ、予備校講師としてダメなんじゃないか。
 模範解答を書くとき、我々はついつい「これなら満点以上だね」「100点満点で、150点かな?」「出題者の教授も、これ以上は書けないだろう」というのを書きたくてたまらない。読者である高校教師やライバルの予備校講師を意識して、「大向こうを唸らせたい」というつまらない欲や見栄の虜になるのだ。
 ところが、代ゼミの広島大学解答者は、どうもその見栄や欲望を乗り越えたツワモノらしいのだ。親しみやすい手書きの文字といい、いやはや、恐れ入った。すでに達人の域に達していらっしゃるのかもしれない。
 もちろん、「実際に、このレベルしか書けなかった」という可能性もある。しかし諸君、そういうことは口が裂けても言わないのが、この世界の礼儀。「これを書いたヤツはアホだ」とか、そんなことばかり言って大見得を切る講師もいるが、正直言ってその類いの人こそ、ダメな情けない存在。教育上、たいへんよろしくないと確信する。

1E(Cd) Jandó(p) Ligeti & Hungarius:MOZART/Complete Piano Concertos 4/11
2E(Cd) Jandó(p) Ligeti & Hungarius:MOZART/Complete Piano Concertos 4/11
3E(Cd) Jandó(p) Ligeti & Hungarius:MOZART/Complete Piano Concertos 4/11
4E(Cd) Jessica Simpson:IRRESISTIBLE
5E(Cd) Jandó(p) Ligeti & Hungarius:MOZART/Complete Piano Concertos 5/11
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