Fri 110617 吉祥寺スタジオで某国立大入試を解説 長文読解は良問、英作文はオヤオヤ | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 110617 吉祥寺スタジオで某国立大入試を解説 長文読解は良問、英作文はオヤオヤ

 6月21日、授業収録があって、吉祥寺スタジオに午後1時に入った。この日の収録は「過去問研究」。2011年岡山大学の問題を解説する。長文読解が2問、英作文が3問。午後1時に収録をスタートして、午後6時までかかった。うにゃ、こりゃ結構キツい。
 岡山大学は戦前の第六高等学校、通称「六高」であって、日本有数の名門。おじいちゃんかおばあちゃんがいたら、ちょっと聞いてみたまえ。関西から中国地方の若者の「憧れのマト」の一つだったのである。
 さすが名門だけあって、2011年の長文読解問題は2問とも「まあ良問」。ただし、設問の立て方は余り感心しない。というか要するに和訳中心の古くさい問題で、「もう少し工夫をなさったら?」であるが、それでも「まあ良問」と言ってあげられるのは、素材の英文の質が高かったからである。
 第1問はディズニーランドの故事来歴から子供時代の思い出に展開するもの。第2問は英語帝国主義の中で消滅の危機に瀕した言語に関するもの。内容面でも受験生世代の興味を引きつけるものだし、構文も単語も平易で、「英語イジメ」の傾向は一切ナシである。
 2問ともたいへんリズミカルな英文で、受験生が繰り返し音読して、英語のリズムを体得するのに優れた素材といっていい。設問の出来不出来を度外視すれば、「もし今井君が読解の教材を作るなら、ぜひ2問ともテキストに採用したい」と思うような、優れた英文であった。
あつい1
(暑いっすね 1)

 ところが、英作文のほうは、3問が3問とも「どうしてこうなの?」と顔をしかめたくなるような、困った問題が並ぶ。1問は新聞のコラムを英訳させる問題。もう1問は昭和中期の小説を引用して会話部分を和訳させる問題。最後の1問は受験生イジメの自由英作文、流行中の「10行程度で書きなさい」である。
 コラムは、ピアニスト辻井伸行さんの快挙について触れたもの。以下の文を3分程度で、さらっと英訳しなきゃいけない。

「全盲ゆえの賛辞は実力を曇らす2つ目のハンディだったかもしれない。身体ではなく音の個性が正当に評価された喜びは大きい」。

 うにゃ、こりゃキツい。「だったかもしれない」「…であるぶん、いっそう」あたりは、まさに予備校英語の独壇場であるが、「実力を曇らす」って? 大学側が公表した解答例だとcloud his true abilityになっているが、ホントに動詞はcloudでいいの? 岡山大学を志望校として選択した受験生が、この和文から自信を持って動詞cloudを使えるんだろうか。
あつい2
(暑いっすね 2)

 小説文の英訳も、「どうしてわざわざこの小説のこの場面を選んだの?」と質問したくなるような不思議な出題だ。英訳するのは以下の会話文だ。

(1)「あたし、きん子さんにトウモロコシでお人形つくってもらったことがあるわ」
(2)「運転手さん、もう少し、そこ閉めてくれない?」

何だこりゃ。「きん子さん」?「トウモロコシでお人形」? 「あるわ」?
 諸君は気づかないかもしれないが、「トウモロコシで」が実は難問だ。out of cornにするにせよ、from cornにするにせよ、受験生は「cornは単数形?」「冠詞はつけないの?」、そういうことで死ぬほど悩み、次の時間の数学が手につかないほど心配になるのだ。
 出題者にちょっとした配慮が欠けていたばかりに、「数学で勝負」と作戦をたてた受験生が、数学に集中できなくて浪人の憂き目を味わいかねない。その原因が「cornの単数形に冠詞はつけるのか?」であるとすれば、出題者のフマジメな出題は責められてしかるべきだと思う。
かしこげ
(ナデシコは賢そうだ)

 「運転手さん」という呼びかけだって、ホントにここで出題しなきゃいけないの? 今井君は参考のために他の予備校のHPもいろいろ研究するのだが、HPに提示された解答例では、代ゼミも河合塾も「Driver」になっているし、大学発表の解答例も「Driver」である。
 え?ホント? Excuse meとかSirとかじゃないの? ホントに運転手さんに「Driver」って呼びかけるの? そんなに高飛車でいいの? ウェイターに「Waiter!!」、ウェイトレスに「Waitress!!」、そんなタカビーな呼びかけをするのは、昔の上流階級のオバサンか、時代錯誤のオジサンぐらいじゃないの?
 考えてみれば、「タクシーの運転手にどう呼びかけるか」は、極めてプライベートな事柄。なかなか他人がどうしているかを知るチャンスはない。しかし、映画を見ても、テレビドラマでも、30歳過ぎた英米人でも、普通はExcuse meやSirで呼びかけるように思う。今井君はニューヨークでもロンドンでもSirと呼びかけて、変な顔はされた記憶はない。
 ましてや、問題文の小説の登場人物は10代から20代前半と思われる。礼儀を考えても、Excuse meが適切だと思うが、大学側の発表した模範解答はDriver。ということは、教師に向かってSirじゃなくて「Teacher!!」つまり「おい、教師!!」、そういう激しい呼びかけを奨励してるということなんだろうか。
箱のなか
(箱の中は、まあ涼しくないこともない)

 いや、今井君が憂えるのは「どっちが正しいの?」ということではない。「運転手さん」という出題に対して「Excuse me, sir」が普通だと思っても、大学入試という乾坤一擲の場で「Driver」を選ぶか「Excuse me, sir」を選ぶか。日本文に「運転手さん」とあるのに、弱い受験生の立場で、選択権があるのかどうか。
 実は、弱い立場なのは予備校講師も同じなので、解答速報の現場で「これはExcuse me, sirですよ」とキッパリ主張できるような、しっかりした講師が存在するのかどうか。「運転手だからDriverの方が安全だ」、そういう安全運転を主張する上司に、キチンとモノが言えるかどうか。
 そういうことを考えると、「岡山大学の出題者は何て不用意な出題をしたんだ」と、怒りにも似た気持ちにならざるを得ない。少なくとも受験生は、合格発表までの数日、「あそこは『Driver』とすべきだったんじゃないか」と悩みつづけるのである。
 それどころか、その後1年も2年も、浪人に追い込まれた場合はおそらく一生、「素直にDriverと訳さなかったのが失敗だった」と愚痴をこぼしつづけるハメになる。そういう下らん悲劇があちこちで発生することを承知の上で、出題者はあの小説の一節を選択して出題したのか。今井君には、「余りにも軽率な出題。いや、余りにもフマジメ」と思えてならないのだ。
解答例
(自由英作文、各予備校HPに示された高級な模範解答)

 自由英作文となると、どこの大学でも出題の背伸びが目に余る。まず、問題の英文自体が10行を超える。駿台予備校の授業に出席して、50分かけて解説してもらえる平均が10行程度。しかし岡山大学では、その同じ10行を30秒で読んで、次に約10分で「10行の英文を自由に」書かなければならない。大学の出題者の背伸びのヒドさと、それに対応するはずの予備校の授業の暢気さ加減がハッキリわかると思う。
 最終的には「余分な収入のすべてをチャリティに寄付することは正しいか間違いか、10行程度で書きなさい」という出題なのだが、予備校が提示した解答例の高度さを見ると、「こんなスゴい英作文を書けるような指導を、ホントに日常的に実践してるの?」という驚きが今井君の脳裏を駆け巡る。
 今井クマ蔵が解説授業で提示する解答例は、教室で目にする受験生たちの顔を思い浮かべながら作成した、まさに「ホンモノの受験生レベル」を熟慮したもの。だから、一見した感じでは、たいへん幼稚な英作文である。
 だって相手は、50分かけて10行足らずの英文を和訳してもらって、それでも「わからない」とネを上げている受験生たちなのだ。ヒーヒー言いながら受験勉強をして、やっとのことで岡山大学を選択した諸君である。
 予備校講師が彼ら彼女らに手を差し伸べるとき、誰も書けないような高度な英文を提示して
「どうだ、オレは高級だ」
「どうだ、こんなスゴいのを書けるのは、オレぐらいだ」
「他の講師は、オレに比較したら、みんなバカみたいなもんだ」
「オレは、神である」
そんな大見得を切るのは、どうもイケナイねえ。何もそんなに威張らなくてもいいんじゃないの? 運転手さんにDriver!!、ウェイトレスにWaitress!!、そういう傲慢な怒鳴り声をあげる20歳の若者みたいな、場違いな人間に思えるのだ。

1E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS 17/18
2E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS 18/18
3E(Cd) 小松和彦&サンクトペテルブルグ:貴志康一/SYMPHONY ”BUDDHA” 他
4E(Cd) Akiko Suwanai, Dutoit & N響:武満徹/遠い呼び声の彼方へ 他
5E(Cd) Amália Rodrigues:SUPERNOW
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