Wed 110525 モーゼル河・トリアーの街を歩く ワインスタンドを楽しむ 泥棒さんバリア | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 110525 モーゼル河・トリアーの街を歩く ワインスタンドを楽しむ 泥棒さんバリア

 さて、フランクフルト滞在8日目。いよいよ後半に入って、今日もまた重苦しい曇天のライン河沿いに、トリアーの街に出かけることにした。トリアーに行くには、ライン河を右に見ながら北に向かう列車に揺られ、まずコブレンツにたどり着かなければならない。
 途中で車窓右側にローレライが近づくと、車内がにわかに色めき立つ。わざわざ舟下りをしないで、列車の車窓からライン河観光を楽しむという人たちもいるのだ。近くの席のオバサンやオジサンが、「ほら、見なさい、あれがローレライですよ」と教えてくれたりする。
 こちらはおかしな東洋人に過ぎないが、向こうはホントに優しく接してくれる。「ドイツ語じゃわからないだろう」という前提で、その辺の一般のオジサンもオバサンも、いきなり流暢な英語で話しかけてくる。スペインやイタリアではこういうわけにはいかないが、もはや外国人旅行者がドイツ語を学習する必要はなさそうだ。
モーゼル3

モーゼル4
(モーゼル河。車窓からの写真なのが残念だ)

 コブレンツで支線に乗り換えて、トリアーまで1時間半ほど。トリアーから先は、ルクセンブルグが近いし、ストラスブールだって遠くない。車窓からは、コブレンツでライン河と合流するモーゼル河が美しい。車窓からだから、その美しさがなかなか写真にうまく写せないが、例え曇天の下でも、今井君がウワバミのように長い人生で見てきたどんな河よりも美しい。
 19世紀から20世紀にかけてドイツとフランスが激しい戦争を繰り返した「アルザス・ロレーヌ」地方にやってきたわけだ。古代ローマがガリア征服の拠点にしたのも、トリアー。対ゲルマン防衛ラインの拠点でもあった。観光地としては有名でなくとも、古代から近代まで、世界史のテコの支点みたいな都市である。
ローマの遺跡と団体
(ローマの浴場跡を訪れた欧米人団体。欧米人も団体旅行が多い)

 カエサル「ガリア戦記」にだって登場するし、カエサルもアウグストゥスもゲルマニクスも、100年後のトラヤヌスやハドリアヌスやマルクス・アウレリアスも、みんな軍装でこの街を訪れたはず。あんなキレイな河が流れていたんじゃ、欲しくなるのも当たり前。防衛とか征服とか戦略戦術とかではなくて、「キレイだから欲しい」と思うのが男の子である。
 というわけで、駅を降りて街の入り口にあるのが「ローマ人の門」、正式名称Porta Nigra(ポルタ・ニグラ)、世界遺産である。ヨーロッパを歩いていると、「また、世界遺産? これも? 何で? この程度で?」という気分になることが少なくない。
ポルタニグラ
(トリアー、ポルタ・ニグラ)

 トリアーの「ローマ人の門」も、早朝たたき起こされてツアーバスで連行されてきた日本人旅行者には不満かもしれない。「何だ、ただの煤けた石の壁じゃんか」。その気持ちはわかる。確かにPorta Nigraは「黒い門」に過ぎない。
 しかし、どうしてもこの街を確保したかった歴代の英雄たちが、実は「あの河キレイだからボクのにしたい」と素直で幼稚なワガママを言っただけなのだとすれば、いろいろ考えさせられないこともない。ローマ以来2000年の戦いって、縁側で鼻毛抜いてもドラマになる人たちの戦いかもしれない。
マルクス生家1

マルクス生家2

マルクス生家3
(トリアー、マルクスの生家と肖像)

 この街は楽しいから、ライン河紀行を徹底的に楽しみたいヒトは、ぜひ旅行計画に入れるといい。他に世界遺産も2つ、大聖堂とローマの円形劇場がある。カール・マルクスが生まれた家もある。しかし、一番楽しいのは、中央広場のワインスタンドで地元の人たちと一緒に飲むワインである。まあ、もちろんモーゼル・ワインだ。ただし、勢いこんで「モーゼル河に来たのだから、モーゼル・ワインを楽しまなければ」と肩肘張らないこと。
 まず「もう世界遺産には飽きちゃった」「どうせまた煤けた壁でしょ?」「またローマ人?」「どうせまた同じような教会でしょ」「何でいまさらマルクスなの?」とウンザリしよう。ウンザリしたところで、「帰りの電車まで2時間残ってるけど、どうするかね」と自問する。困り果てて、広場のベンチに腰を下ろす。
寿司トリアー
(トリアー街はずれの寿司屋「sushi trier」。「和食ブーム」なるもの実際は、いまのところこのぐらいである)

 すると何だか、向こうのワインスタンドが楽しそうだ。地元のオジサンとオバサンの酔っぱらいが、昼間から赤い顔でゲラゲラ笑っている。目が合っても「どうせ日本人はこういう店では飲まないよな」という一瞥をくれるだけだ。
 そこで軽く侮辱されたコチラとしては、「ほお、日本のクマをバカにするんですか?」とムキになって立ち上がる。ツカツカとスタンドに歩み寄って、注文するが早いか、もうグラスをカラにしている。「すみません、もう1杯」「さらに、もう1杯」「まだまだ、もう1杯」。そういうふうに、息もつかせずにタタミカケていく。
プラッツ1

プラッツ2

プラッツ3
(ワインスタンドが並ぶトリアー中央広場)

 それが、最高に楽しいのだ。トリアーからフランクフルトまで3時間、帰りの電車は長いけれども、心配はいらない。まだ目覚めている1時間半は、進行方向右側の美しいモーゼル河を眺めていればいい。コブレンツで乗り換えたら、その頃はワインの酔いが全身に回って、1時間半電車の揺れも心地よく熟睡していける。
 「電車の中で眠るのは危険です」「ボクは財布を盗まれました。ご用心」みたいな心配は余計なお世話である。盗むなら盗め。こっちは楽しくワインスタンドを楽しんだんだ。もう盗むものなんか残ってない。そういう堂々とした居眠りなら、泥棒さんはよってこられない。ワインスタンドでもらったのは、そういう泥棒さんバリアなのである。

1E(Cd) Harnoncourt:BACH/WEINACHTSORATORIUM1/2
2E(Cd) Münchinger:BACH/MUSICAL OFFERING
3E(Cd) Solti & London:WAGNER/DAS RHEINGOLD 1/2
4E(Cd) Jochum:BACH/JOHANNES PASSION 1/2
5E(Cd) Jochum:BACH/JOHANNES PASSION 2/2
total m113 y440 d6405