Tue 110503 ルフトハンザがクマ蔵を無視して行っちゃった話、再録(一部改変あり) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 110503 ルフトハンザがクマ蔵を無視して行っちゃった話、再録(一部改変あり)

 昨夜(2008年11月15日)21時帰京。予定では昨日午前9時に成田到着のはずだったが、飛行機の乗り継ぎがうまく行かず、フランクフルトの空港でたいへんな苦労を味わい、予定より半日遅れになった。フランクフルトでのドタバタで疲れきってしまい、もうクタクタである。

 とりあえず、どんなドタバタだったかだけは書いておきたい。ルフトハンザと「スターアライアンス」について、どうしても納得がいかないのだ。予約していたルフトハンザ機に置いてきぼりを食ったのは、私だけではない。ツアーと思われる団体を含む日本人おそらく50名ほどが、フランクフルトで呆然と立ち尽くしたのだ。

 まず、感情をできるだけ排除して、事実だけを記録していく。11月14日朝7時前にマドリード・バラハス空港に到着。フランクフルト乗り継ぎの成田行きにチェックインする。予約したのはルフトハンザのHP。マドリードからフランクフルトまではコードシェアの共同運航。スペインのスパンエアーによる運航である。スパンエアーとルフトハンザはスターアライアンスメンバーだから、HP上ではほとんど同一の航空会社であるかのように、クリック数回で予約ができる。

 マドリード9時5分発予定で、8時半すぎからゲートには50人ほどが並んだ。ボーディングパスには搭乗開始予定時間8時35分と印字され、乗客は当然それを信頼していた。9時すぎ、アナウンスがあって「フランクフルト空港、濃霧のためクローズ。20分後に状況が分かるから、もう1度アナウンスする」とのこと。乗客はベンチに戻り、アナウンスを待った。

 予定のアナウンスがないまま10時を経過。10時過ぎ、搭乗開始。フランクフルト空港がオープンしたから飛ぶ、とのこと。もとの予定ではフランクフルト到着11時45分、乗り継ぎのルフトハンザは13時40分発。約2時間の余裕があり、しかもルフトハンザのHPで指定された乗り継ぎ便だから、当然乗り継ぎ可能のはずである。
バッドトロ1
(BAD TOROのTシャツ。バラハス空港で購入)

 しかし、この段階で1時間の遅れ。乗り継ぎ時間は1時間しかない。しかも濃霧でクローズされていた空港が動き始めても、滑走路混雑などで遅れはますます拡大することが予想される。乗り継ぎ客は他に、メキシコに向かう者、サンフランシスコに向かう者など、相当数が存在して、機内は飛行中も緊張した雰囲気に満たされた。

 飛行2時間半余りでフランクフルト上空にさしかかると、確かに濃霧で滑走路が見えないほどである。空港は大混雑らしく、上空で何度も旋回して着陸の順番を待つ。順番待ちに時間がかかって、最終的な着陸は13時10分。

 乗り継ぐ東京便が、もし定刻で出発するとすれば、残り30分である。パスポートコントロールや厳重なセキュリティーチェックを考えれば、この段階で乗り継ぎは非常にタイト。しかしこれだけの濃霧と混雑なら、東京便の出発も当然遅れるはずで、その分も見込めば、まだ十分可能と思われる。

 スパンエアー機は、着陸後もフランクフルト空港内をパレードよろしくグルグル回って、駐機場到着13時20分。駐機場からターミナルまではバス移動である。タラップを降りると、「サンフランシスコ乗り継ぎのお客様専用」のバスが待っていて、サンフランシスコ行きは差し迫った状況らしい。聞いてみると、「その他の客はとにかく全員バスに普通に乗ってターミナルへ行け」とのこと。ならば東京行きはごく普通に乗り継ぎ可能、ということである。

 バス2台は、まるで嫌がらせのようにゆっくり走る。ターミナルまで5分かかって、東京便定刻まで15分しか残っていない。ターミナルに入って、すぐにディスプレーの表示を確かめると、飛行機の出発は軒並み2時間近い遅れになっている。

 サンフランシスコ便のような特別のバスもなかったわけだし、「東京行きのお客様」というプラカードを掲げたスタッフの殺気立った姿もない。「どうやら東京便も遅れるのだ、助かった」と思ったその瞬間、ほとんど全て「出発遅れ」の表示になっているディスプレーでたった1つ、まさにポッカリと、東京行きだけが13時40分「on time出発」になっている。

 しかし、それでもまだ10分ほど残っている。出発はゲートC15だから、とにかくそこまで走るしかないだろう。ところが、そのゲートC15は、バスが到着した場所からみると、まさに空港の反対側である。広大なフランクフルト空港そのものを完全に横切った向こう側まで、10分で走らなければならない。

 それでも何とか頑張って、パスポートコントロールにたどり着いた。残り5分。長い列が出来ていて、よく見ると並んでいるのは日本人ばかりである。一番近くにいた男性も、同じルフトハンザ東京行き。「遅れてるんですか」と聞くと、みんな一斉に頷いた。

 これで完全に胸を撫で下ろした。遅れの表示が出ていなかっただけで、実はやっぱり他機と同じように遅れていたのだ。それなら大丈夫だ。他の日本人客と競うように駆け足でゲートC15に急ぎ、その余りの遠さに溜め息をつき、それでも何とかたどり着いた。

 しかしまだ厳重なセキュリティーチェックが待っている。日本のものとは次元が違う。PCを出し、ベルトを外し、靴を脱ぎ、それでもほとんどの人が金属探知に引っかかり、ボディーチェックを受け、要するに好き放題に小突き回される。ここで10分が経過。時計は13時50分を回り、定刻は完全に過ぎた。それでも「遅れているのだ、大丈夫だろう」、と考え、ついに最終的な乗り場の入り口まできた。安堵とともにボーディングパスを手渡すと、何か職員の反応が違う。
バッドトロ2
(BAD TOROのTシャツ。バラハス空港で購入)

 「あなたの飛行機はもう出発してしまった」と言うのだ。遅れているんじゃないのか、と聞くと「大阪便は遅れ。名古屋便も遅れ。しかし、東京便だけは時間通りに出発した」という答えだ。「どうすればいいのか」と問いつめると「いったんここを出て、1階のルフトハンザ・チケットカウンターに行き、そこで事情を話して、代替便を紹介してもらうしかない」という。

 この時点で、乗り遅れた日本人客7~8人と出会った。例外なく狐につままれたような顔である。ほとんどすべての出発便が遅れている中で、なぜ東京便だけがon timeなのか、説明を聞いても何にもならないが、その説明も全くない。チケットカウンターに向かう途中で、同じような日本人を多数見かけた。団体ツアーらしい中高年集団は、ヒトカタマリになって不安げに周囲を見回すばかりだった。

 再び、チケットカウンターなるものまでひたすら歩かなければならない。「チケットカウンターまで行け」と言う方は楽だろうが、歩かされる方は汗だくである。フランクフルト空港などという巨大なものの構造は把握していない。

 何よりもまず「大金を払って予約した飛行機が、50人もの乗客を積み残して、無慈悲にも定刻に出発してしまった」「他の飛行機はみんな出発が遅れているのに、なぜか東京便だけが定刻に出た」「ほんの30分、いや15分でもいいから待ってくれれば、いま一緒にいる全ての日本人が乗れたはずだ」という悔しい思いでいっぱいである。

 空港の端から端まで、延々と歩いてたどり着いたチケットカウンターは、さっきスパンエアーからのバスが到着したあたり。要するに、さっき夢中で走りぬけた出発点に戻るのである。ただし、道順はただ単に戻るのではない。来る時が円の半周。今度は円のちょうど反対側の半周を回る。つまり、これで円を一周したことになる。屈辱的な、耐えがたいルートであることは言うまでもない。

 ただでさえ屈辱的なルートに、さらに耐えがたいセキュリティーチェックが出現。チケットカウンターに向かうには、空港から外に出なければならないので、またセキュリティーチェックが必要なのだ。チェックする顔ぶれも、チェックされる顔ぶれも、つい15分前の顔ぶれと同じである。チェックする係員もニヤニヤしているし、される側も呆れてニヤニヤするしかない。

 さっきと同じベルトを外し、さっきと同じPCをトレーにいれ、さっきと同じ靴を脱いで、さっきと同じ金属探知機に引っかかる。係員も「必要のないチェックなんだけど」と言って苦笑いしている。脱いだり着たり、履いたり脱いだり、気がつくと大汗をかいている。考えてみれば最近走ったこともない長距離を走って、スペインで食べ過ぎた肉体としては、これ以上ないダイエットである。

 こうして空港一周ツアーをエンジョイし、チケットカウンターに到着すると、そこにはインド人の長蛇の列が出来ている。軒並み出発遅れの中で、定刻で出発したのは東京便とムンバイ便だけだったらしい。そのムンバイ便に乗り遅れた約100名のインドの人々が、カウンターをブロックするように列を作っていて、カウンターに近づくことは出来そうにない。
バッドトロ3
(BAD TOROのマグカップ。左はイギリス湖水地方ウィンダミアで買ったヒツジサンのマグカップ)

 海外経験のある人間なら誰でもわかると思うが、インドの人々の列があったら、そこに並ぶのはほとんど自殺行為である。彼ら自身も、彼らを担当する係員も、どちらも「スピーディーに難局を打開する」という発想はない。それを悪いとは言わない。両者とも、おそらく「むしろ難局をエンジョイする」という人生観があって、長蛇の列に並び、その列が一向に解消されなくても、そのこと自体を楽しむことが出来る、尊敬すべき忍耐力の持ち主が多いのだ。

 悪いのは、この状況で苛立っている日本人なのだ。それは百も承知だが、インドの人々が100人並んでカウンターをブロックしていれば、3時間や4時間でカウンターに行き着くことは不可能。一人20分では済まない。カウンターの係員も一人一人丁寧な対応をしていて、飛行機は定刻で情け容赦なく出発させても、インドの人々への対応はじっくり時間をかけて進められる。

 列に並んでみても、残念ながら全くはかどらない。これほどはかどらないなら、飛行機の出発もはかどらなければよかったはずなのだが、そこだけは何故かたいへんよくはかどったらしいのだ。どうやら長期戦になりそうである。

 他の日本人たちと「もうルフトハンザには乗りたくありませんね」と話をしていると、彼らの中には旅行会社の人が複数いて、「JTBの社内研修でヴェネツィアに行ってきた帰り」という4~5人のグループや、50人近いツアーのコンダクターも後ろに並んでいた。彼女によれば「ルフトハンザではよくこういうことがある」「バゲージの扱いが心配だ」「おそらくアジア系エアラインを紹介されることになるだろう」とのことだった。

 アジア系のエアライン。全く進まない長蛇の列の中で、様々なアジアの国名が囁かれ始めた。トルコ。タイ。シンガポール。中国。ヴェトナム。マレーシア。実際、日本人の最前列に並んだ私の、そのまた直前にいたフランス人カップルは、「トルコ航空でイスタンブール経由」を提示され、唖然としていた。

 アジア経由がイヤなのではない。問題は「それでは20時間以上かかる」ということである。要するにそれは、今から20年も30年も昔、冷戦のせいでソビエト連邦の上空を飛べなかった時代の「南回り航路」である。あの時代のヨーロッパの旅は、アラスカのアンカレジを経由する北回りと、香港やニューデリーを経由する南回りと、2つの選択肢があった。いま、まさにルフトハンザはそれを提示しようとしているのである。
スペインの思い出
(スペインの思ひ出1)

 最終的には、1時間列に並んで、結局カウンターには全く接近できないまま、通りかかったルフトハンザの職員と直接交渉して、その交渉は成功した。予約便から7時間後、20時45分フランクフルト発。ANAとのコードシェア便。南回りではなく、ちゃんと翌日16時には成田に到着できる便である。

「バゲージも大丈夫」という確認を得て、それなりにホッとして、近くのレストランにワインを飲みにいくことにした。しかし、私の後ろに並んでいた他の日本人旅行者がどうなるのか、にわかには立ち去りがたいほどに気がかりだった。

 3時間レストランで時間を過ごして、店員に呆れられながらロゼワイン2本を空けた。搭乗口に入ろうとチケットカウンター脇を通ると、さっきの旅行会社の女性はまだ列に並んでいる。他の日本人はもういなかったが、彼女にミネラルウォーターを1本差し入れて「お仕事とはいえ、頑張ってください」の気持ちを伝えた。
スペインの思い出2
(スペインの思ひ出2)

 今回の件で問題なのは、まず「なぜ東京便だけon timeで出発して、50人もの乗客を積み残したのか」である。ファーストクラスあたりに誰か有力者が搭乗していて、そういう人の意向なり都合なりが他の乗客よりも優先されたのか、と勘ぐりたくもなる。

 ほんの20分か30分待ってくれれば、すでにモスクワ上空を飛んでいる時間帯。あと8時間足らずで日本に到着できる。それが、その30分を惜しんで定刻に出発したばかりに、50人の日本人は「南回り」を提示され、やむなくそれを甘受せざるを得なかったかもしれない、ということである。

 私はいつも通りエコノミークラスだが、彼らの中には、ビジネスクラスの乗客さえ含まれていた。そういう乗客を待たずに、「スターアライアンスメンバー機の乗り継ぎ便遅れ」、つまり仲間内の失敗の責任を乗客に押し付けるというのは、許しがたい姿勢である。

「遅れたのはあなたたちだ、だから当然あなたたちが苦労すべきだ」、そういうスタンスがルフトハンザの多くの職員に感じられた。しかし遅れたのはあくまでスパンエアーであって、「濃霧のせい」だしても、責任は乗客ではなくてスパンエアーにある。「スターアライアンス」と言ってやたらに宣伝する割に、いざ何らかの障害が発生すると、彼らは全く知らないフリをする。

 乗客として、そのことは肝に銘じておく必要があるだろう。「私たちはルフトハンザだ。スパンエアーではない」と空港職員は言ったが、乗客の側から言わせてもらえば、私たちはルフトハンザのHPから予約し、ルフトハンザと同じ扱いと信じて、購入ボタンをクリックしたのだ。

「乗り継ぎは無理だ」という指摘が最後までなかったことも問題。その指摘さえあれば、広大な空港をまるまる一周走り回る必要はなかったのである。タイミングはいくらでもあった。スパンエアーに搭乗する時点。スパンエアーのフランクフルト着陸直後。空港の乗り継ぎバスの車中。バスが到着した地点。パスポートコントロール付近。セキュリティーチェック地点。そこで「もう無理だ」と言ってくれれば、それで済んだはずなのである。サンフランシスコ乗り継ぎの客だけが、緊急のバスを提供されたことを我々は目撃している。なぜ東京便にはあれがなかったのか、それも聞いてみたい。
くろねこ
(スペインの黒ネコ)

 ルフトハンザのHPを見ると、「ゲートの入り口に45分前にいなければ搭乗できない」旨の記述がある。その記述があるから、おそらく「法律上は問題ない」ことになるのだ。

 しかしその文言は、何度も何度もクリックしなければたどり着けないような、目立たない場所にひっそりと隠れている。また、例え法律上問題なくても、航空会社はサービス業であるということを忘れてしまっては困る。

「小さい活字で目立たないかもしれないが、とにかく書いてある。書いたから、利用者は読むべきだ、読まなかったのは利用者の責任だ」、そういう姿勢は、サービス業としてのモラルに欠けると考える。しかも今回は、乗り継ぎ便の遅れのせいであって、利用者の責任ではどうにも出来ない。その乗り継便は「アライアンス」という同盟を組んだ仲間同士の責任なのだ。

 ルフトハンザには、完全に失望。おそらく2度と利用しない。スターアライアンスなるものにも失望。アライアンスとは「同盟」であって、互いに支えあう仲間同士のはずなのに、今回目撃したのは、互いに責任をなすりつけあい、自分は関係ないと言い張る子供のような態度である。

 ルフトハンザの広告が全国紙に掲載されることがある。ワイングラスを掲げた中年のドイツ人が心地よさそうにニコニコしている写真が、なかなか印象的な広告である。しかし、あんなふうに心地よいのは、「他の客は積み残してでもいいから、定刻に出発しろ」と言える力のある客だけなのかもしれない。「ヨソの航空会社からの乗り継ぎ客など、どうでもいい。空港をグルグル走り回らせておけ。私のスケジュールが優先だ」という客が搭乗していれば、そちらが優先なのだ。そういう航空会社の広告を信用していいかどうか、それは利用者の判断に任せればいい。
(2008年11月16日記。ただし大幅に改変しています。写真も新規掲載)