Sun 110501 お義理の美術館訪問 見栄の東大or医学部受験 大混雑のプラドを避けて | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 110501 お義理の美術館訪問 見栄の東大or医学部受験 大混雑のプラドを避けて

 こんなふうにして(スミマセン、昨日の続きです)、11月のマドリード滞在は最終日を迎えることになった。今回はたった10日の滞在。今井君のスタンダード=15日と比較すると「あれれ、もう終わりなの!?」という慨嘆が先に立つ。
 最終日は、ギリギリまで残していた宿題として
(1)プラド美術館を(あくまでお義理で)訪問する
(2)ピカソの「ゲルニカ」を(やっぱりお義理で)見に行く
をやらなければならない。
 「お義理で」という場合、「誰に対する義理か」という問題がつきまとうのは避けられない。マドリードを旅してプラドを見たりゲルニカに会いに行ったりするのは、「誰に対するものでもないが、何となく義理のような感じがする」という奇妙な義理。言わば義理という言葉の要件をハッキリ欠いた、義理の名に値しない義理であって、「もし行かなかったとしたら、世間様に合わせる顔がない」というだけのことである。
ぷらど
(プラド美術館、エントランス)

 こういう義理は、「見栄」と見分けがつきにくい。大学受験に失敗して浪人したとする。例えば、
「あの子は浪人したんだから、きっと東大を目指すんだろう」
「浪人までさせてもらったんだから、医学部ぐらい行くだろう」
と、世間様は考えていらっしゃる。というか、「世間様はそう考えているだろう」と自分たちで思い込む。
 もともと存在しない世間様を勝手に自分たちで想定して、「東大に行かなきゃ」「医学部に行かなきゃ」と自分を縛って苦しむ。「苦しむ」とは言っているが、実はその想定を自ら楽しんでいる。そのマゾヒスティックな気持ちの高まりを「見栄」と呼ぶ。
 その場合「ホントに東大じゃなきゃいけないのか?」「ボクはホントに医者になりたいのか?」などという問いを本人に向けてはイケナイので、5月6月になってそんな悩みを口にするようでは、浪人生5月病そのものである。
 単なる見栄だろうと、別に東大に行く必然性がなかろうと、医者になりたいわけじゃなかろうと、「いったん決意したんだから、簡単に決意を翻すのはダメな人間なんだ」と言い聞かせれば、息子でも娘でも自分自身でも、1年ぐらいの間は十分にゴマかせるものである。
 どうせ合格してしまえば、そんな悩みはあっという間に解消だ。合コンの席に座って「ボクは、東京大学1年…」と口にした瞬間、周囲の視線と態度がどれほど激烈に変化するか。それを一度経験すれば「東大に行くことに必然性がない」などという純粋な青春の悩みなど、愚かしい気の迷いにしか思えなくなる。東大万歳だ。
 やがて、東京大学の前に「某」の字をつけて、「私は、某・東京大学に通っています」と発言するようになれば、もう一人前だ。それは医学部でも早慶でも同じこと。必然性に悩んだ青春のヒトコマなんか、記憶しているヒトはいない。
 もっとも、今井君はいまだに東大コンプレックスが抜けなくて、自己紹介する時は必ず「東大の入試問題と意見が合わなくて」の類いの一言をくっつけてゴマカしている。諸君、東大に行って「自分は東大に合格したエラい人間です」「ノートが必ず美しい東大合格生です」と胸を張りたいなら、遠慮なく美しいノートで勉強して、サッサと東大に行くべきである。
ホテルリッツ
(プラド至近のホテル・リッツ・マドリード)

 さて、今回こんなにツベコベお義理の美術館訪問について弁解するのは、2005年3月のパリのことがあるからである。代ゼミを辞めて東進に移籍した直後、40日にわたってヨーロッパ中を闊歩した今井君は、40日の最後10日間をパリで過ごした。
 いま思い出しても心が躍る。2月8日、代ゼミ最終授業(名古屋大学合格セミナー)。2月9日、スカンジナビア航空で東京発。コペンハーゲン経由でベルリン入り。ベルリンに5日。ミュンヘンに5日。ウィーンに5日。ヴェネツィアに3日。フィレンツェに3日。ローマに3日。ジェノヴァに3日。マルセイユに5日で、最後がパリ。帰国は3月20日であった。
 全て鉄道で移動、そのさなかにも今回のような小旅行を繰り返して、3月10日、早春のパリ・リヨン駅に到着した。しかしパリは連日ストライキの連続。疲れ果てたクマ蔵は、パリに10日も滞在したのに、オルセーを無視。ホテル近くのスーパー2軒で買い物しては大学生みたいなありあわせの食事を楽しんで、マコトに見事に世間様に楯突いてみせた。
紅葉が進む1
(この10日ですっかり紅葉が進んだ 1)

 だから、今回だって、「プラド無視」「ゲルニカ無視」と激しく反・世間様を貫くことも出来たのだ。しかし諸君。今井君も年老いた。意地を張って反・世間様をやっているより、むしろ「プラド蒸し」「ゲルニカ蒸し」の方が旨そうでいいじゃないか。
 自分自身がプラド蒸しやゲルニカ蒸しのホカホカグマになって、
「年取ったら世間様に反抗するようなバカなマネは出来ないんですよ」
「だから若いうちにタップリ世間様に楯突いておきなさい」
とメッセージを発信!!する方が、キッパリとした自己犠牲ということにもなるだろう。
 以上、頭の中が混乱して、何が何だかわからない。今井君にとって「美術館に行く」というのは、ここまで頭を混乱させる難事なのである。ホテルを10時に出て、タクシーでプラドに向かった。
 ちょうど日曜日で、遠足のコドモたちはいないはずだったが、諸君、恐るべし。小学生集団+中学生集団+高校生集団。名古屋名物ヒツマブシでさえ、こんなにテンコモリで3つの味が楽しめたりしないほどの、遠足オンパレードである。プラドは、美術館というよりも、ユースホステルか食べ放題の国民宿舎みたいな、嘆かわしい有様になっていた。
紅葉が進む2
(この10日ですっかり紅葉が進んだ 2)

 山手線の駅も顔負けのこんな大混雑では、ゴヤもベラスケスもあったものではない。這々の態(ほうほうのてい)でプラドを諦め、ゲルニカのある「ソフィア王妃美術センター」へ。プラド美術館からは、アトーチャ駅を挟んで反対側である。
 こちらは、抽象絵画が中心。ほっとするほど空いている。ゲルニカどんとも30分ほどシッカリ対話することができた。海外にきて、mustと呼ばれる美術館にお義理で出かけるなら、パリならポンピドーみたいな抽象絵画館がいいだろう。その種のところで、やっと「じゃ、絵でも見るか」という落ち着いた気分に浸ることができるのである。

1E(Cd) Kirk Whalum:COLORS
2E(Cd) Anne Queffélec:PIANO WORKS 1/2
3E(Cd) Anne Queffélec:PIANO WORKS 2/2
4E(Cd) Grover Washington Jr.:ARIA
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