Sat 110416 雑誌Number「マドリー」のこと スペイン語講座の思い出 Giralda | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sat 110416 雑誌Number「マドリー」のこと スペイン語講座の思い出 Giralda

 雑誌「Number」の今月号の特集は、「レアル・マドリーvsバルセロナ」である。言うまでもなく、スポーツ雑誌なのだからサッカーの話なのだが「マドリー」とは思い切ったもの。「マドリード」か「マドリッド」かでモメルことはあっても、「マドリー」で止めちゃって、最後の「ド」がどこかに消えちゃってることに、日本中から質問が殺到しないだろうか。今井君は心配でならない。
 ついでに、その「レアル・マドリーvsバルセロナ」はマドリーが1-0が勝って優勝。見事スペイン王杯を獲得したついでに、優勝パレードでバスからトロフィーを落っことしてこわしちゃった。おお、さすがマドリーであって、最後の「ド」と一緒にトロフィーまで落としちゃったわけだ。
 実際に、スペイン語の発音では、単語の最後に単独でくっついた子音は発音しないのが原則。Madridのdは「発音しない」or「相手に聞こえる必要はない」。「マドリー」であって、「マドリーd」ではないのだ。これはほとんどの単語がそうなので、「あなた」を意味する単語はUstedだが、これも最後のdは発音しない。「ウステー」であって「ウステーd」ではない。
 最後の子音は「まあ無視」。どうしても無視したくないなら、上の歯の裏側に下先をつけて、英語のthよりずっと控えめに摩擦音を出してもいい。昔&昔おおむかし、早稲田大学の語学研修所で、ナバロ先生とベラスコ先生に習ったので、いまだに忘れていない。おお、素晴らしい記憶力である。
ひらるだ1
(スペイン・セビージャ、ヒラルダの塔 1)

 あと、大学2年だか3年だかの時、飽きっぽいクマどんとしては奇跡的に半年休まずチャンと聞き続けたNHKラジオ・スペイン語講座で、担当だった清水憲男・上智大教授も、繰り返し繰り返しその発音の話をなさっていた。
 清水教授はたいへん気難しい先生で、今井君の大好きなタイプである。中でも
「外国語をマスターなんて、一生かかっても出来るわけがございません」
「ネイティブの人たちでも、『マスター』などということはしておりません」
「そもそも『マスター』などと軽薄なことを口にするから、語学の勉強が楽しくならないのだと存じます」
と、視聴者にいかにも嫌われそうなことを、いかにも嫌われそうな口調で、恐れず何度でもおっしゃる。おお、気難しい。気難しくて、気難しくて、こりゃ最高だ。
 写真で見るお顔も、ますます気難しそう。ラジオでなければ、とてもこのヒトとは付き合えそうにない。こういうヒトとお酒でも飲んだら、延々と叱られて、叱られ続けてムカついて、ムカつき過ぎて席を蹴って帰ろうと決めるまでに、1時間もかからない。今井君はそのぐらいのヒトが好きだ。
 もっとも、いざ帰ろうとした瞬間に、おお夢ではないか、先生の口元に密かな微笑が浮かんだような錯覚があり、それがあんまり嬉しくて、思わず席にへたり込む。先生も「まあ、座りたまえ。もう少し語ろうじゃないか。こうやって無駄なおしゃべりをしているのって、何でこんなに楽しいんだろうねえ」とおっしゃるだろう。
 そこでまた黙りこくって、静かに酒を傾ける。「無駄なおしゃべり」も何も、先生は苦虫をかみつぶしたような渋面で黙りこくっていらっしゃるだけだ。どうせ先生の頭の中は「セルバンテスの前置詞の使い方の変遷」とか、「ガルシア・マルケスの『百年の孤独』は、むしろ『孤独の百年』と訳すべきではないか」とか、そういうことでいっぱいで、「無駄なおしゃべり」なんか最初からする気は全くないのだ。
ひらるだ2
(スペイン・セビージャ、ヒラルダの塔 2)

 今井君は、そういうタイプのヒトが好きである。実際にはお会いしたことはないが、ラジオ講座テキストに掲載された写真の、硬い笑顔から想像できる先生の日常はまさにそれ。「マスター」という言葉に対して示されるガンコな嫌悪感が大好きで、それで半年間ラジオを聞き続けた。
 学者でなければ語れないウンチクも満載。テレビのウンチク番組で「高学歴タレント」なるものが語るウンチクとは、その深さが全く違う。入門編のテキストなのに、毎日掲載されていた「落ち穂拾い」というコラムが絶品。初心者相手に学者レベルのウンチクが毎日1つずつ。おそらく読んでいるヒトはほぼ皆無なのだが、それでも全くかまわない。無礼者、私は書きたいから書き続けるのである。おお、なんと素晴らしい。
ひらるだ3
(スペイン・セビージャ、ヒラルダの塔 3)

 実は、マドリード滞在8日目にセビージャを訪問する。それも清水憲男教授の影響である。おおむかし半年聴いた「スペイン語講座」テキストの中に、セビージャの「ヒラルダの塔」のが登場。先生は講義中に雑談をなさるようなヒトではないから、ヒラルダの塔についての説明は全くないのだが、問題はその発音の難しさである。
 スペルはGiralda。スペイン語のGiは「ヒ」の発音だから、まあ妥協して日本語の「ヒラルダ」でいいわけだが、先生はそこで譲らない。同じ「ヒ」でも、日本語のヒじゃダメなので、「喉の奥で激しい摩擦音を出すのでなければいけません」、そうおっしゃるのである。
 その「ヒ」が語の中に出てくればまだ発音しやすいが、語頭に摩擦音のヒがあると、うにゃ、諸君もやってみたまえ。しかもその直後にrの文字が入ると、目を白黒させながら1週間練習しても、1ヶ月練習しても、まあ無理である。
ひらるだ4
(スペイン・セビージャ、ヒラルダの塔 4)

 ラジオなんだから、その辺は全部テキトーにゴマカして、ちょっとカワイイ女性タレントでもアシスタントにすれば人気も出るだろうに(今のNHK路線はまさにそれだ)、清水教授は決して妥協しない。おそらく、どんどんリスナーはあきらめていったのである。しかしそれでも妥協しない。
 行ったこともないスペイン。たとえ行ったとしても、はとバス観光コースに入れてもらえるかどうか微妙なセビージャ。そのセビージャの、見たことも聴いたこともない「ヒラルダの塔」のGiraldaを、目を白黒させてでも発音練習させないと、どうしても気が済まないのである。
 そういう先生だから、ラジオなのに授業は徹底的にオーソドックス。文法を1から丁寧に説明して、音読練習も欠かさないし、厳しい練習問題にも必ずたくさん時間を取る。
「わからなくてもいいから、たくさん聴いているうちに出来るようになる」
みたいなゴマカシは一切ナシ。うーん、今井君の英語の授業の下地は、どうもあの先生のスペイン語講座から始まっているらしい。
 だから、たった10日の滞在でも、どうしてもセビージャに行ってヒラルダの塔を見てみたい。ヒラルダの塔の前で「Giralda」と小声で呟いて、大昔の練習の成果を自分で確認したい。うーん、やっぱり素晴らしい先生だったのである。

1E(Cd) Akiko Suwanai:SIBERIUS & WALTON/VIOLIN CONCERTOS
2E(Cd) Solti & Vienna:WAGNER/DAS RHEINGOLD 1/2
3E(Cd) Solti & Vienna:WAGNER/DAS RHEINGOLD 2/2
4E(Cd) Mascagni & Teatro alla Scala di Milano:MASCAGNI/CAVALLERIA RUSTICANA
14A(γ) A TREASURY OF WORLD LITERATURE 12:E. Brontë
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