Fri 101210 ラグビーの教訓(1)成功体験のある先輩or叔父さんのアドバイスは危険だ | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 101210 ラグビーの教訓(1)成功体験のある先輩or叔父さんのアドバイスは危険だ

 さて、諸君。これから書くのはラグビーのことのようであって、実はラグビーのことではない。今井君の本職は今のところあくまで予備校講師であって、ブログに長々とラグビーのことを書く資格は皆無である。だから、ラグビーのことを書いているように見えて、実は「受験生のあるべき姿」を書いている。特に2週間後にセンター試験を控えている諸君は、心して読むべきだと確信する。
 1月2日、のんきなお正月の今井クマ蔵は、午前中に裏庭のツル植物を相手に5分ほどの格闘を演じ(昨日の記事参照)、格闘に勝利してガッツポーズ。ガッツポーズついでに、網膜剥離が完治したばかりの右眼の植木バサミで突っつきそうになってヒヤヒヤしながら、「油断してはダメだよ」とニャゴロワ(別名ビアンカ)にもしっかり言い聞かせた。
 13時45分、国立競技場のA指定席に到着。午後の日差しを正面から受けて、思わず上着のボタンを外してしまうほど暖かい席である。第1試合の帝京大学vs東海大学が長引いて、第2試合の早稲田vs明治は試合開始が15分ほど遅れることになった。
「明治、ついに復活!!」
「10数年ぶりの優勝か!?」
「歓喜の瞬間に向けて明治フィフティーンは前を向いた」
とか、マスメディアが徹底的におだてあげたせいで、国立競技場は準超満員。空席が見えるのは、ずっと日陰で冷たい強風の吹き荒れる、異常に寒い南側だけである。
ラグビー前半1
(大学ラグビー準決勝・早稲田vs明治。前半、明治がまだ元気だった時間帯)

 しかし昨日も書いたように、シロートながら目の肥えた今井君は「明治の復活」なるものがホンモノかどうか、大きな疑念をいだいて眺めていた。特に、
「フォワードにこだわりすぎるな」
「もっとバックスに回して、バックスを活用すべきだ」
という周囲の声にあおられて、明治サイドが「今度はフォワードのプライドにこだわらず、バックスに回すべきところはバックスを活用して、どんどん点を取って勝ちに行く」などと言いだしたあたりに、歴史的大敗の危険が潜んでいた。いや、厳しく言えば、「歴史的大敗を必然にする要素が揃っていた」と言ってもいい。
 それでも前半だけは、フォワードとバックスが一体になった攻撃が、一応は機能しているように見えた。前半を終わって、トライ数は早稲田が3、明治が1。要するに早稲田が圧倒的に優勢。なのに認定トライと終了間際のPGのおかげで、スコアは15-10。あたかも接戦であるように見えた。
 しかし諸君、そこが落とし穴である。受験生諸君、ここで姿勢を正したまえ。トライ数を見ながら、「このままではマズい」と気づかなければならないときに、明治サイドも「よし、このスコアならいける!!」「強い明治、復活だ!!」。テレビの解説も「フォワードのゴリ押しにこだわらず、バックスも一体になった攻撃に、明治の復活と成長を感じます。後半は、どんどんいけそうですね」などと、甘い言葉でおだてあげる。
試合開始直前
(1月2日、第2試合が始まる直前の国立競技場)

 いいかね、諸君。この世の中で一番危険なのは「成功経験のあるヒトが、得意げに自ら語る体験談」。要するに、お正月にお菓子を持って訪ねてきた叔父さんの成功談が、この世で一番厄介なのだ。「叔父さんの経験ではね♡」と叔父さんが膝を乗り出してきたら、「お、来たな、叔父さん。ダマされないぞ」と、諸君はしっかり身構えなければならない。
 特にその叔父さんが東大出身者or旧帝国大学出身者の場合、危険は最大値になる。医学部出身者というのもまた危ない。ママやパパにとっては弟なのだが、ママもパパも勉強についてだけはこの叔父さんのアドバイスに従うように言うに違いない。
♡ママ:ユウキくん、叔父さんの言うことはチャンと聞きなさい。叔父さんは現役で東大文科2類に合格したのよ。
♠パパ:由里香。叔父さんは現役で九州大学医学部に受かったんだぞ。よくアドバイスを聞いておくんだな。
 おお、ベテラン予備校講師・今井クマ蔵が最も危惧するのは、叔父さんのそういうアドバイスのせいで、キミたちの1年が台無しになることなのである。
 明治ラグビーの場合、「東大卒の叔父さん」にあたるのが「明治大学黄金時代の名選手たち」。古くは松尾雄治であり、砂村・橋爪であり、新しくは元木・永友、監督の吉田義人も「叔父さん」世代。黄金時代の彼らは、彼らだからこそ出来たことを、後輩にも当然可能だという前提でアドバイスをおくる。
ラグビー前半2
(まだ僅差。緊張感のあふれていた早稲田vs明治の前半)

 監督の吉田氏は2011年の選手を日々指導してきたのだから、現役の彼らに出来ることと出来ないことを熟知している。しかしテレビの解説席から、スポーツ雑誌のコラムから、ある程度無責任な態度でアドバイスをおくる「叔父さん」たちは、現役選手に出来ることと出来ないことをキチンと判別していない。
「どんどんバックスに回して」
「フォワードにこだわらずに」
「PGを決めるところはチャンとPGで3点取りに行って」
「着実に得点して、冷静に勝つことを目指せ」
12月5日、対抗戦優勝のかかった早稲田vs明治戦で、J SPORTS(CS)の解説に座った松尾雄治は、繰り返し繰り返しそう語った。彼はしつこいほどそれを説いた。(このブログの12月9日付け「Thu 101118 この冬は久しぶりにラグビーを観て過ごすことにする 早慶戦/早明戦」参照)
 大先輩・松尾にそう言われては、後輩にあたる明治監督・吉田義人だって、「そういうものかもしれないね」と思わずにはいられなくなっただろう。確かに、明治のバックスだって、かつて高校日本代表候補だったエリート選手を揃えている。才能の点では早稲田の選手に引けを取らない。
「もったいない。バックスに回せば、どんどん点が取れるはずだ。もっと合理的に」。
リスクを負わない解説者なら、そう考えて当然だ。諸君、それが大きな落とし穴なのである。
 4年前の対抗戦71-7。今回の準決勝74-10。全く同じような明治の歴史的&屈辱的大敗であるが、今井君はどちらの試合も国立競技場の観客席で目の当たりにした。その今井君の見るところ、病巣は以前より遥かに深くなったようだ。いや、復活どころか崩壊に近いようにさえ感じられた。
 話は次回に続くけれども、お正月に優秀な叔父さんのアドバイスを聞かされた受験生諸君、出来るだけすぐ「次回」をアップするから(出来る限り1月4日中に)、姿勢を正して読むようにしたまえ。