Mon 101129 財布の落とし物 中洲の屋台「西村美枝子の店」 天ぷらは4個か2個か | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 101129 財布の落とし物 中洲の屋台「西村美枝子の店」 天ぷらは4個か2個か

 12月11日、福岡天神から中洲までタクシーに乗って(スミマセン、昨日の続きです)、グランドハイアットホテルでトイレに入った。正直このホテルは高級すぎて、観光ならともかく出張で宿泊する気にはとてもなれない。中洲観光の起点としての「トイレ利用」だけで十分である。
 15年も前の駿台時代、福岡校に毎週1回出張していたが、当時宿泊したのは「福岡アークホテル」か「西鉄グランドホテル」。後者は伝統あるシティホテルだが、前者は典型的なビジネスホテルである。おお、懐かしい古巣・駿台。大好きな予備校であったが、当時は「何しろケチくさいな」と思っていた。人気は抜群でもまだホンの駆け出しだった今井君は仕方ないとして、表三郎先生とか、あの頃の駿台を代表するビッグネームの先生方でも、宿泊は平気でビジネスホテルに決められていたのである。
夜のニャゴ1
(夜中にコッソリ酒を注ぐクマ蔵を、表情で諌めるニャゴ姉さん。「おやおや、まだ飲むんですか?」である)

 さて、ニャゴの病気のことで頭が一杯のクマ蔵どんが「中洲観光の起点」としてグランドハイアットのトイレに入ってみると、男子用便器の上に馬鹿デカイお財布を発見。どのぐらい馬鹿デカイかというに、優に200万円は入る分厚いお財布である。しかもワニ皮君だ。ワニ皮はフェイクということがあり得るとしても、その分厚さは間違いない。
 おお、さすがはグランドハイアット福岡。忘れ物&落とし物もなかなか豪華であって、万が一クマ蔵どんが出来心で「ちょろまかそうか」と舌なめずりすれば、その瞬間「中洲観光」の中身が大きく変質しかねないシロモノである。
 もちろん今井君は、常に品行方正&学実優等。「出来心」「ちょろまかす」「観光の変質」などというトンデモナイ世界とは「水と油」である。そんな歪んだ心理とも行動とも決して妥協することはない。すぐにお財布をフロントに届け、「落とし物です。男子トイレの小便器の上にありました」と告げた。おお、今井君は優等生であるよ。
 こういう場面は、意外に緊張するものである。フロントに預ける前にぬっと持ち主が現れて「おい、それはオレの財布だ。何でお前が持ってるんだ?」とか、そういう展開になれば、たちまち窃盗犯扱いされる。ヒトビトが良心の発露を躊躇うのは、こういう不安が伴うせいなのかもしれない。
夜のニャゴ2
(カウンターにそっと片手を載せて「おやおや、まだ飲むんですか?」 このニャゴの落ち着いた風情は「30年毎晩通いつめた小料理屋の女将」に匹敵する。何じゃ、そりゃ。)

 さて、中洲に来た目的は、もちろん屋台である。中洲の土手にズラリと並んだ屋台の飲み屋は、海外からの観光客にも有名。中国&韓国からのヒトビトが圧倒的に多いが、欧米人も少なくない。狭い土手の上はすれ違えないほどの激しい雑踏であり、この寒いのに屋台の外のテーブルに居並んだお客が、震えながら生ビールで気勢をあげている。うーん、これではなかなか暖かい上席には入りこめそうにない。
 それでもあきらめずに暖かそうな屋台を物色して、まず入ったのが「西村美枝子の店」。外国人観光客に人気のあるのはラーメン屋台だから、「天ぷらだけ」「焼き物だけ」の店を探せば、ビニールの風よけに覆われた暖かい店に座ることは可能である。「西村美枝子」と思われる店主の和服オバサマが、背筋をシャキッとさせてカッコよく炒め物を炒め、カッコよく明太子の天ぷらを揚げる。熱燗を注文しても、テムジンの熱燗みたいに100℃の熱湯ということはない。「ぬる燗で」と言えばチャンとぬる燗で温めてくれる。
ニャゴの足とシッポ
(ニャゴの足とシッポ、拡大図)

 途中で入ってきた中国からのお客様は「ラーメンはありません、テンプラとバーベキューだけです」の声を聞いて、いかにも不満そうに席を蹴ってサッサと帰ってしまったが、やはり外国人観光客にはわからない(=ガイドブックに書かれていない)日本の良さがあるのだ。このあたり、自分のヨーロッパ旅行にも大いに他山の石としなければならない。
 今井君の後ろから、立ったまま「明太子の天ぷら4つ」を注文した中年夫婦2組(=4人)もまた他山の石。「4つ」を注文したオジサマは、「そんなに食べられるわけないじゃない!!」「いらないわよ、4つも!!」「4つなんて、ムダになるわよ。高いんだから!!」というオバサマ連の激しい集中砲火を浴びた。
 今井君の意見は「何もそんなに叱られなくてもいいんじゃないかな」「4人いるから、勢いで『4つ』って言っちゃっただけなのに」だが、まさか振り返って討論を始めるわけにはいかない。オジサマは容赦なく延々と叱られ続けるのだった。メニューで値段を見ると、確かに「明太子の天ぷら 900円」とある。900×4=3600円!!立ち食いなのに!! 集中砲火も当然かもしれない。
なでしこも
(最近はナデシコお嬢様もこの外出用バッグが気に入っている)

 結局天ぷらはオバサマ連の非難の声で2つに減らされることになったが、4→2に注文を減らしたことに対する店の従業員の反感もまた、最初に注文したオジサマに向けられる。「西村美枝子」が天ぷら2つを揚げている間中、オバサマ連はずっとオジサマの軽率ぶりを叱り、からかい、笑いモノにし続ける。いい加減にしてあげたらいいのに、オバサマ連は「いい加減」を知らないのか、彼女たちの失笑と嘲笑には限度がない。
 おお、オジサマ、つらかろう。クマ蔵と一緒に、つらい人生に耐えていこう。「実はボクも、大好きな白ネコに病気になられて、さっきも泣いてたところです」。クマ蔵どんは、沈黙のオジサマに向かって、背中で話しかけたくなるほどである。
 もちろん、そんなテレパシーが通じるはずはない。しかし「たかが明太子の天ぷら」のことで10分以上、容赦ない攻撃と嘲笑にさらされる。そのオジサマの苦悩を思うと、今井君もニャゴロワの病気を忘れて、思わず笑い出しそうになるのだった。