Thu 101125 にゃごにゃご闘病記 腎臓機能が低下している 点滴、注射、ニャゴの抵抗 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 101125 にゃごにゃご闘病記 腎臓機能が低下している 点滴、注射、ニャゴの抵抗

 12月10日(スミマセン、昨日の続きです)、担当の獣医師さんが「ではニャゴロワちゃんとナデシコちゃんと、2匹とも血液検査をしてみましょう」と口にした段階で、「ああ、ニャゴ姉さんが病気なんだ」と直観があった。このごろの様子を眺めていて明らかに普段と違っていたのはニャゴロワの方だったし、食べ物を吐くのもニャゴ姉さん、そもそも用心深さの権化のような模範生ナデシコの生活ぶりには、病気の発生のきっかけになる気がかりなところは何一つない。
病院から帰る
(病院から帰って、一息つく)

 「検査には1時間ほどかかります」と言われ、近くの喫茶店「邪宗門」で酸味の利いた濃いコーヒーを飲んで待った。森鴎外の娘・森茉莉が連日通ったという世田谷の名店である。この店の常連だったのは、森茉莉だけではない。近くには他にも萩原朔太郎の娘・萩原葉子や、坂口安吾・加藤楸邨・中村草田男・中山義秀その他、まるで昭和文学史の教科書のような面々の旧宅が林立している。

 70歳代後半と思われる店主が満面の笑みを浮かべながら、彼らのいた日々について語ってくれた。今井君がまた、そういう文学史上の名前についていちいちキチンと反応できる「最近珍しいお客さん」であるから、店主はますます夢中になり、30年も40年も昔のアルバムを引っ張りだして説明を始める。濃いコーヒーがなかなか旨かった。

 外は真冬の午後の暖かな日差しの中を、冷たい季節風が吹き荒れ、イチョウの落ち葉が舞っている。すぐそばの病院ではニャゴロワとナデシコが血液検査の真っ最中。ナデシコは優等生中の優等生ネコだから、「どうしても逃げられない」といったん理解すれば、もうすっかり観念してじっと丸くなり、医師と看護師のなすがまま、嵐の去るのを黙って待つことが出来る。ニャゴ姉さんは、その正反対。抵抗できなくても、全身をくねらせて泣きわめく。ネコとしてのありとあらゆる力を集めて抵抗を続ける、そういうネコである。
まだ怒っている
(まだ怒っている)

 1時間経過して病院に戻ってくると、先ほどの獣医師が出てきて「それでは、病状を説明します」と妙に改まった声で言う。「超音波をあててエコー写真も撮影した」と言われた瞬間、「ニャゴ姉さんは、きっと腎臓のガンなのだ」と今井君は早合点して、いきなり深く観念してしまった。このとき、病院に他の患者は皆無で、「ああ、誰もいないな」と思った瞬間、もう悲しくて言葉が出なくなった。

 しかし、エコーを見ても腫瘍の徴候は一切ないと言う。そのことは2匹とも全く心配しなくていい。ナデシコのほうは血液検査の結果も全て正常値。完全に健康体、さすがは優等生である。けれども、それに続いて獣医師が下した結論は次のようなものであった。

「ニャゴロワちゃんは腎臓機能が急速に低下しています。すでに尿毒症になっていると言ってもいい数値です。人間なら、マトモに立って歩くことが出来ないぐらいの数値。致死的な数値になっています」

 つまり、腎不全なのである。老齢のネコにはありがちな病気であるが、ニャゴ姉さんはまだ8歳前。人間なら45歳から50歳の間ぐらいであって、腎不全になるのにはまだ早すぎる。しかし、血液検査の数値を見る限り、病状はすでに相当進行しているとしか判断できない。重症の腎不全である。

 解りやすく言えば、1から10まで10段階の目盛のある検査で、正常値は1.8から2.4。ニャゴロワの数字は9.7。もう目盛のギリギリまで迫っていて、メーターが振り切れる直前である。獣医師が口にした「致死的な数値」という言葉もハッキリ理解できるし、「何故こんなに元気に暴れ回るのか、これほど抵抗を続けられるのか、その方がむしろ不思議なぐらいだ」という医師の表情も当然の数値なのである。
点滴の痕
(点滴の痕)

 思わず力が抜けて、「では、あとどのぐらい生きられるんですか?」という質問が驚くほどカンタンに口から流れ出た。「余命数ヶ月」などというのは、ドラマや映画のストーリーとして珍しくないが、自分の身の回りにそれが現実として立ち現れてくるときには、実にあっけないものである。

 獣医師は言葉を濁した。「それは何とも言えません。まあ精一杯の治療をして、クスリがうまく効いてくれれば数年間は大丈夫でしょうが、クスリが効いてくれるかどうかは、1週間ほど様子を見なければ解りません。もしクスリが効かないと、300日とか、100日とか、そういうことも考えないと」というのである。つまり、たいへんな緊急事態であって、飼い主として既に相当な覚悟を固めなければならない、そういうことである。

 まず、今すぐ必要なのは、食べ物を腎臓病のネコ用のものに替えること。もう1つ、毎日150mlほどのクスリを点滴すること。人間の腎臓病なら人工透析になるが、ネコの腎臓に人工透析はないから、点滴で体内の毒素を薄めて体外に排出する。それを毎日続けて、うまく毒素が外に出てくれれば、尿毒症に伴う命の危険は逓減していく。「どうしますか?」と聞かれて、「では、点滴治療をお願いします」と答えた。
痕を舐める
(点滴の痕を懸命に舐める)

 早速、目の前でニャゴ姉さんの点滴が始まった。背中の真ん中、肩甲骨の間に長い針を刺して、そこから点滴する。事態は急を要するので、この日の点滴は250mlである。体重4.5kgのネコに、250mlの点滴はたいへんな量。かかる時間は10分ほどだが、誇り高い気丈なニャゴ姉さんは「そんな勝手なことは許さない」という迫力の唸り声をあげ続けた。

 すでにこの日、何度も何度も注射針を突き刺されて、ニャゴ姉さんの怒りはまさに心頭に発している。真っ赤な口を最大限に開けて医師を威嚇し、両手両足の鋭い爪を全部むき出しにして看護師の腕を振りほどこうとする。全身全霊を込めて肉体をくねらせ、一世一代の激しい表情で泣きわめく。

 病院の中にいた犬たちが驚いて、怯えた声で遠慮がちに吠え始めた。点滴以外にも、吐き気止めの注射、腎臓から出血しているのでその出血を止めるための注射、次から次に注射が続いて、ニャゴ姉さんの声はますます激しくなるのだった。