Tue 101123 右眼のガス球の縮小 「ぬすくる」 福岡行きの機内で元生徒のCAに遭遇 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 101123 右眼のガス球の縮小 「ぬすくる」 福岡行きの機内で元生徒のCAに遭遇

 12月11日、佐賀で講演会があり、朝9時羽田発の飛行機で福岡に向かう。右眼の網膜剥離手術以後、しばらく心配していた航空機の旅であるが、国際線ならいざ知らず、国内線ならば大丈夫だろうと判断した。だって、福岡である。航空機を諦めたら、新幹線である。いくらグリーン車でふんぞり返っていくとしても、5時間以上かけてカタコト&カタコト揺られていくのは、さすがにちょっと遠慮したい。
 眼の中に充填した膨張性ガスも(Sun 101114参照)、すでに可哀想なぐらい小さくなった。手術直後は視界全体を覆い尽くし、そのせいで目の前はプールの底から外界を眺めるように、頼りなげに揺れていた。11月末にはガスの球は大きめのビー玉ぐらいに縮小した。12月も半ばになって、ついにガス球はイクラ程度の大きさになった。やがてイクラはタラコの1粒になり、年末には完全消滅しそうだ。よかった、よかった。完治は近いのである。視力も順調に回復して、矯正視力1.0を確保。まだ読書はキツイが、PC画面ならほとんど問題ない。
 というわけで、ピンの先ほどの極小の不安感がうごめくのを感じながら、12月11日の飛行機に搭乗した。離陸の瞬間から巡航高度に達するまで、「もし痛くなったら」「もし目玉が内側から破裂しそうになったら」とスプラッタ的不安(Mon 101115参照)が首をもたげてきたけれども、結局2時間の飛行に苦痛や問題は一切なかった。要するに「取り越し苦労」の一言に尽きる。
美ネコ
(相変わらず元気なニャゴロワ。本文とは一切関係ありません)

 羽田空港でガムをうっかり踏んづけてしまったらしい。気がつくと靴の底にべっとりガムが貼り付いている。21世紀に入って10年経過しても、路上にガムを吐き捨てる輩が存在することに驚嘆。タバコの吸い殻をポイ捨てするとか、道ばたにガムやつばや痰を吐くとか、そういう行為は20世紀の中頃にとっくに絶滅したと思っていた。
「おお、イヤだイヤだ。こういう前世紀の遺物的行為も、右眼のガス球とともにイクラからタラコへ、タラコから消滅へ、そういうふうになってくれないかねえ」
クマ蔵どんは右眼のイクラちゃんにそう話しかけたものである。
 もっとも、クマ蔵君もやっぱりマナー違反はするので、ヒトのことばかり言ってはいられない。つまり、ANAのプレミアムシートにふんぞり返って座りながら、靴を床にこすってガム君を剥がそうと試みたのである。九州の一部では、こういう行為を「ぬすくる」という。「おい、汚れた手を他人にぬすくるなよ」「ガムが靴についたら、床にぬすくってとっちゃいな」というふうにつかう。なかなか味わい深いことばである。
ネコと足
(ニャゴロワと、クマ蔵君の足)

 さて、プレミアムシートの床に靴を「ぬすくって」ガムを剥がそうと努力するうち、飛行機は福岡に近づいた。いくらぬすくってもガムが取れないので、クマ蔵君はとうとうあきらめ、シートポケットの紙袋(吐瀉物用)を使って対応。ガム君は粘り強く靴底にしがみつき、紙袋にむにゅーっと汚い糸を引いた。
 そこへCAが声をかけてきた。
「今井さま、大学受験時代は、たいへんお世話になりました」
という。えっ。今井君はガムの糸に眼を落としながら一瞬呆然としたが、すぐに態勢を立て直した。
「おお、どこで授業受けたんですか?」
「名古屋の方で、サテラインで受講しました」
「ははあ、代ゼミですか?」
「はい。ホント楽しかったです」
 おお、美しい出会いである。とうとうスッチーの中にも今井君の元生徒が現れた。今までも「今井先生ですか?」の元生徒にはたくさん出会ってきた。新幹線の車内販売、成田空港のグラウンドスタッフ、ディズニーランドスタッフ、ホテルのバーのバーテンダー、みどりの窓口のJR職員、グリーン車内で声をかけてきた公認会計士、枚挙にいとまがないが、ついでにこの間の入院の時にナースや若いドクターたち。しかし、スッチーは初めてである。
高速シッポ
(ニャゴロワの高速シッポ。高速で動くから、カメラでも捉えきれない)

 別に今井クマ蔵はスッチー好きではない。世の中にはスッチー♡フェチみたいな激しいオヤジも少なくないが、今井クマ蔵君にはそういう傾向は全く見られない。だからCAの「先生ですか?」に感動したのは、「お♡」とか「お♨」みたいな感動ではなくて「おお、とうとう事態はここまできたか」という感動である。
 つまり「ここまで来たからには、みっともないことや恥ずかしいことは、もう人前では出来ないな」ということである。プレミアムシートで靴の底を床にぬすくっていたり、ネバーっと糸を引くガムを顔を真っ赤にして剥がしていたり、鼻くそをほじっていたり(今井君は断じてそんな汚いことはしないが)、鼻毛を抜いていたり(今井君は断じてそんな汚いことはしないが)、耳アカをコッソリ他人のコートにぬすくっていたり(今井君は断じてそんな汚いことはしないが)、灰皿にテキーラを満たしてヒトに飲ませようとしたり、酔っぱらったヒトを手荒に介抱したり、そんなふうであってはならないのだ。
 万が一そういうことをしていれば、ナースやドクターやCAや公認会計士やバーテンダーや車内販売員やJR職員が、ありとあらゆる場所で「元生徒」が眼を光らせていて「ははあ、今井先生はあんな偉そうなことを授業で言いまくっていたくせに、こっそりそんなことしてるんですか」「なんだか、ガッカリです」と溜め息をつかれることになる。「なんだ、そんなヒトだったんですか」と元生徒に言わせては絶対にいけない。意地でもそんなことを言わせてはならない。それがクマ蔵どんの責任感である。