Tue 101109 ウワバミの速攻闘病記・準決勝 生徒たちからの弱気な手紙に返事を書く | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 101109 ウワバミの速攻闘病記・準決勝 生徒たちからの弱気な手紙に返事を書く

 11月15日月曜日、冷たい晩秋の雨が降り出した昼近く、担当のナースがやってきて、この1週間右の手首につけていた患者のIDをハサミで切ってくれた。バーコードつきのこのIDバンドで、今井君はコンピュターで一元管理されていたわけである。切ってもらうと「おお、完治したんだな」という実感がやっとジンワリ胸に迫ってくる。もちろん、1週間前には右眼失明の危機にいたのだし、眼球を切開して中身をホジホジ90分も掘り返したばかりだ。まだ右眼の視力はあまり戻っていないが、それも当たり前。焦りは禁物だ。
 会計を済ませて病院を出ると、ちょうど雨が強く降り出したところである。タクシーに乗り込んで「新宿」と告げる。退院して、まず最初に向かうのは、もちろん寿司屋である。平日の午後1時半、ガラガラの寿司屋のカウンターに座って、健康を取り戻した喜びをまず舌と歯と鼻と腹とで満喫しようと決めていた。
 15年前、鼻の手術で慈恵会医大に入院した時は、銀座8丁目の「寿司清」だった。今日は新宿「寿司源」である。残念なことに、1週間恋いこがれた土瓶蒸しはなかったが、まあいい、茶碗蒸しにだって十分超え焦がれていたのだ。店の中にだれか異様に汗臭いヒトがいて、その汗臭さで何度も茶碗蒸しどころではなくなる場面があったが、それもまあいい。ボクは、生きていた。ボクは、寿司のネタの色も肌触りもみんな両方の眼で確認できるところまで復活したのである。
待ちくたびれた1
(クマの帰りを待って、もうすっかり待ちくたびれた 1)

 午後3時に店を出て、小雨模様の代々木上原にタクシーで到着。この1週間、関係各所に多大な迷惑をかけた。ネコ2匹にもホントに悪いことをした。いきなり仲間のクマが姿を消したので、ニャゴ姉さんもナデシコどんも大いに心配したことだろう。クマどんが帰ると早速そこいら中を2匹で走り回って、この1週間にたまった欲求不満を上手に表現してみせてくれた。
 さて、7日ぶりに部屋に帰ってみると、東進バックアップサービスに届いた生徒からの手紙が転送されてきていた。完治して、「もううつぶせ寝も終わり」で、若い医師たちの奮闘ぶりも見学して、今や限りなく盛り上がり、限りなく強気になったクマどんにとって、手紙を書いてくれた東京だったか神奈川だったかの高3男子のあまりの弱気ぶりが、何だか寂しかった。
待ちくたびれた2
(クマの帰りを待って、もうすっかり待ちくたびれた 2)

 手紙の内容は、要約すれば以下のようなことである。手紙をくれた本人に迷惑がかかるとイケナイから多少detailを変えて説明することにする。「自分はずっと早稲田大学商学部に憧れて勉強してきた。しかし、最近赤本をやり始めたら、制限時間+30分かけても全問解くことが出来ない。制限時間+1時間でも怪しいものである。しかも、制限時間を大幅にオーバーして、やっと答え合わせをしてみると、正当率はやっと5割を超える程度。4割ということもある」というのである。
 手紙は続く。「ホントに商学部でいいのか」を悩んでいたら、最近「司法試験に合格した兄!!」からのアドバイスで、法学部とか政経学部とかも視野に入れた方がいいような気がしてきた。しかし政経学部でも法学部でも『自由英作文』という難関があって、自分には書ける気がしない。高校の先生に相談してみたら、「早稲田や慶応の『自由英作文』というのは高校2年の春から準備しなきゃ絶対に無理だ。もう遅い」と言われた。今まで1度も対策をとったことがない。やっぱり政経学部と法学部は「雲の上」と思って諦めるべきなのだろうか、そう悩んでいる。
お、くまかも
(おっ、クマが帰ってきたかも)

 友人に相談してみたら、友人の答えは「そういうふうにたくさん併願すると、すればするほど不利なんじゃん?」。第一、早稲田でも慶応でも、各学部の問題形式や傾向が違いすぎて、とても同じ大学の問題とは思えない。自分みたいに英語力のない人間にとって、多くのが学部を併願すればするほど不利になるのはわかりきったことだ。この際、今までの6ヶ月も7ヶ月もずっと夢として憧れてきた早稲田商学部1本にして、それ以外の学部のことなんか一切考えない方がいいんじゃないか。
 というより、それが本当の姿なんじゃないか。今から自由英作文を考えるなんて、それこそダメなんじゃないか。こういう状況で、やはり早稲田商学部を第1志望にして、それ以外のことは考えないように努力したい。しかしどうしても政経学部と法学部のことを諦めきれなくなった。司法試験のことも考えると、なぜ今自分が商学部1本にしなければならないのか、それが理解できない。おお、この手紙は「もう何にもわからなくなった」に近い。
 「高校の先生や友人が自由英作文は高2の春から始めなければダメだというのもよくわかる」、と彼は言う。しかし「今井先生、どうにかなりませんか。どうしたらいいのかサッパリわかりません。ボクはどうしたらいいんでしょう。忙しいのはよくわかっていますが、出来れば明日明後日中に返事をください。明日明後日のうちに結論を出さないとイケナイんです。時間はどんどんなくなっていきます。助けてください」と手紙は続く。
ちがうよ、きっと
(ちがうよ、きっと)

 諸君、驚いてはいけない。こういう手紙は1週間に1通の割合で届くのである。しかも、東進本部から転送されてきた段階で、すでに少なくとも3~4日は経過している。アリ地獄というか泥沼というかダウンバーストというか、とても這いあげれそうにないダウンスパイラルのまっただ中に落ち込んで「助けてください」と書くところまで切羽詰まっている。
 それなのに返事書いてあげられないことだってある。今回みたいに「緊急入院→緊急手術」の場合だと、生徒が「助けてください!!」と叫んでいるのに、1週間も10日も返事が出来ない。手紙をくれた側から見れば「手紙を書いたのに先生からはウンともスンとも言ってこない」という絶望的な状況を作ってしまうことになる。
 そういうわけで、今井クマどんが日本医科大学病院から1週間ぶりに帰って最初にしたことは、ゆっくり酒を楽しむことではない。快気祝いの誘いもイヤというほど来ていたが、それもすべてお断り。あんなに好きな映画でもなければ、読書でも執筆でもない。今井君の部屋に届いていた弱気な受験生からの手紙に、1本1本丁寧に返事を書いて、「弱気になってはいけません」とたしなめることなのであった。

1E(Cd) 芥川也寸志&東京交響楽団:エローラ交響曲など
2E(Cd) Akiko Suwanai:SOUVENIR
3E(Cd) Midori & McDonald:ELGAR & FRANCK/VIOLIN SONATAS
4E(Cd) Sinitta:TOY BOY
5E(Cd) Jessica Simpson:IRRESISTIBLE
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