Mon 101108 ウワバミの速攻闘病記・準々決勝 退院の朝に思う 夢と志望の混同 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 101108 ウワバミの速攻闘病記・準々決勝 退院の朝に思う 夢と志望の混同

 11月15日月曜日、いよいよ退院の日の朝がやってきた。退院の朝でも、やっぱり朝の診察があって、「少し眼圧が高いようなので」と、新しく眼圧を下げる点眼薬を処方してくれた。1週間前に執刀してくれた威風堂々の教授でもなければ、入院の日の深夜まで微に入り細を穿って検査に努めてくれた主治医でもない。30歳になるかならないかのイケメン男子である。小泉進次郎と石川遼を一緒にして2で割って、少し頼りなげな感じの調味料を加えてかき混ぜたサラダのようなタイプの医師である。
にゃごにゃご
(にゃごにゃご。もうすぐクマどん退院してくるニャ)

 この日になってもまだ、ウワバミ君は若い医師たちのプライドを思っていた。彼ら彼女らがどんなふうにプライドをナダメて日々を送っているのか、それを思いつつ、退院と日のうつぶせヨダレグマは悲しかったのである。
 10年前、彼らがまだ医学部受験生のころ、将来の夢として「社会貢献」「地域貢献」を語り、それどころか「国際貢献」をまで語り、「夢は必ず実現する」という周囲の声に励まされて医学部に合格。医学部の厳しい6年に耐え、医師国家試験に合格し、長い長い試練に耐えてついに医師になった。しかしそれだけでは決してかつての夢が実現できたのではない。今目の前にある現状にあとどのぐらい耐えれば夢の実現に近づくのか、見当もつかないのである。
 受験の世界に働く者たちは、「東大…名」「医学部合格…名」という数字に明け暮れ、「彼ら彼女らが夢を実現できたのは、自分たちの教育のおかげである」と胸を張ってみせる。「第1志望はゆずれない」も「あなたには未来を変える力がある」もみんな同じで、「ウチにくれば大丈夫、夢は実現しますよ」ということなのだが、サトイモどんはそういうコトバにハッキリと誤りを感じる。単に大学学部に合格しただけの段階で、「夢が実現した」などと囃し立てるのは、間違いである。
かっこつける
(クマどんの退院を、ネコらしくカッコつけて待つ)

 悩む受験生の肩や背中をポンとたたいて、「夢を実現させてあげよう」などとニッコリ笑いかけるのは、受験産業の僭越もいいところなのであって、正確には「夢の実現の入り口までなら、連れてってあげられる」である。医学部合格や東大合格は夢の実現の入り口に過ぎないので、そこからおそらく20年か30年の愚直な努力と忍耐の積み重ねがなければ、夢も何もかもカンタンに尽き果ててしまう。
 ついついマジメになってしまうのが、病気で苦しんだクマの悪いところなのかもしれない。しかし、高校生や浪人生と日々語り合っていると、彼らの夢がひどく矮小化していることを痛感する。「夢は何ですか?」という問いかけに対して、彼ら彼女らはマジメな顔で「東大合格です」「国立大学医学部合格です」、または一歩踏み込んで「医師になることです」「司法試験合格です」「外交官になることです」と答えるのであるが、それは夢ではなくて志望 にすぎない。
 夢を問われて志望を答え、しかも「何か問題ありますか?」と真顔で見つめ返す。夢と志望の区別がつかず、志望を夢と同一視すれば、夢が矮小化するのはやむを得ない。「むべなるかな」である。夢と志望の違いを教えない周囲の大人がいけないのかもしれないし、周囲の大人自身、夢と志望の区別がつかないのかもしれない。
快気祝い
(クマどんの快気祝いも準備した)

 意図的な混同(Mac君は「意図的な近藤」という悪い近藤君を設定してきたが)をして、子供たちに妙な夢を抱かせず、「東大なり医学部なり開成中なり灘中なりに向かって、脇目もふらず突き進ませたい」という悪い大人もいるだろう。元来、古いタイプの受験産業とはそのようなものである。
 逆に言えば、「単なる受験産業のヒトたちに向かって、若者が自分の夢を正直に語らなければならない筋合いもない」と子供たちが考えるのも無理はない。優秀な子供であれば、「ま、相手はこのギョーカイのヒトだから」と内心ペロリと舌を出し、「ホントの夢は置いといて、いまは志望を口にすべき場面である」と判断する可能性だってある。ありゃりゃ、子供たちのことを心配しているうちに、いつの間にか講師である今井君の旗色が悪くなってきたではないか。
 しかし少なくとも東進では、単なる大学学部合格を夢の実現であるとは決して言わないことになっている。そこがゴールと錯覚すれば、合格したその日に成長は止まる。生徒たちの成長を止めないためには、合格してもそれをゴールと誤解しないようにさせること。職員一同それを共通認識にして日々の指導にあたる。そういう学校だからこそ、マジメなクマどんも安心して授業や講演会に没頭できる。もう、すぐに土曜日から講演会が始まるのだ。
おかえり
(おや、退院してきましたか)

 今井君はまだ若いので、あからさまなウソはつきたくない。志望を実現させた程度で「ほーら、夢が実現したよ」「ボクに感謝して、クチコミよろしくね」などと卑屈に笑うのはイヤである。「夢の入り口までなら、連れて行ってあげられる」というフレーズまでしか、予備校講師には許されない。しかも最後に「そこから先は、君たちの愚直な努力の継続にかかっている」「しかもその愚直な努力は20年30年のたいへん長いスパンで継続せざるを得ないものだ」と付け加えるのは、まあ彼ら彼女らと1年をともに過ごした大人の責任である。
 「さてと、入り口まで来ましたねえ。ここから長いですが、愚直に努力する姿勢は今までと同じです。単語や文法を愚直にやった受験生時代と同じ態度でどんどん進んでいってください」と、彼ら彼女らがが合格した日には、自分の頭を恥ずかしそうに掻きながら最後のアドバイスをしてあげたいのである。

1E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 5/9
2E(Cd) 芥川也寸志&東京交響楽団:エローラ交響曲など
3E(Cd) Akiko Suwanai:SOUVENIR
4E(Cd) Holly Cole Trio:BLAME IT ON MY YOUTH
5E(Cd) Earl Klugh:FINGER PAINTINGS
total m37 y1678 d5777