Sun 101107 まだまだ終わりになりません・ウワバミの速攻闘病記 若い医師たちを思う | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 101107 まだまだ終わりになりません・ウワバミの速攻闘病記 若い医師たちを思う

 一方(スミマセン、昨日の続きです)、若い医師たちの奮闘は今井君の退院が決まったこの日も延々と続いていた。労働条件は、正直言って良好とは思えない。「劣悪」の形容の方が適切と言っていい。診察室のブースは間口2m×奥行き2m。約4平方メートルに少し足りないぐらいの面積に、おそらく昭和の時代から面々と使用しているコクヨかイトーキの片袖事務机。眼科の診療は照明が明るいと出来ないから、薄暗闇の中にパソコンを置き、それぞれのブースをカーテンだかスクリーンだかで区切っただけである。カルテを書くのに必須なのは、赤と青の色鉛筆、ヤマトのアラビックのり、はさみ、ホッチキス、そういうアナログ時代のシロモノばかりである。
 そういう狭いブースが5つ並んで、5人の医師が同時に診察に当たるから、診察室内は常に騒然としている。予約制とはいえ、外来の患者は次から次へと押し寄せる。診察室の外には常に50人以上の患者がイライラしながら順番を待ち、受付では「まだですか」「順番ですから」の押し問答が頻発する。
すてる1
(今回の入院を機に断捨離が決定したラルフ・ローレンのシャツ。この激しい擦り切れぶりは、手術前の今井君の右眼網膜に匹敵するものである)

 診察室の中も、10人近いナースと、眼科技工士たちと、眼科検査技師たちと、とにかくたいへんな数のヒトビトが右往左往する。まさに騒然とごった返したまま午前が過ぎ、午後も過ぎ、秋の早い日は暮れて、おそらく毎日が嵐のようなのである。
 その騒然とした嵐の中で、診察するのはデリケートきわまりない人間の眼である。この環境の中で、医師一人一人がいったい1日に何個の眼球を覗き込むのか、考えるだけで苦しくなってくる。もし万が一、今井君みたいな忍耐力に欠ける人間が医師にでもなったら、なった初日に既に怒りと苛立ちの叫びをあげる。
「少しは静かにしてくれませんか」
「こんなに騒然としていたら、集中できないじゃありませんか」
「集中させてくれないと、ちゃんと診察できません」
「こっちだってスケジュールが詰まってるんですから、文句ばかり言わないでください」
「説明を一回聞いたら、チャンと理解してください。同じことを何度も聞き返さないでください」
「超タメグチ、ヤメてください。勝手なことばっかり言わないでください」
ま、今井君は医師にならなくてホントによかったのだ。
すてる2
(再び、擦り切れた網膜のイメージ)

 高校3年のとき、今井君は「医学部進学志望者がほとんど」という賢いクラスにいた。理科系で、物理と化学選択、しかも社会科科目は日本史と世界史。理科系でも最もハードな選択で、地理にも生物にも倫理社会にも政経にも逃げなかった田舎の公立高校の猛者たちが、北大や東北大の医学部を目指してシノギを削るのが「秋田高校3年I組」だったわけで、実際に多くの級友たちが現役で国立医学部に進学した。
 そういう仲間に囲まれて「こりゃ、自分ニャ無理ですな」と判断、高校3年10月にはドロップアウトして文系に転向。敵前逃亡と冷やかされながら、物理と化学と数学Ⅲを捨て、中2の頃から憧れていた医師の夢も捨てた。おお、日本のため&世界のため、軟弱クマどんが「単なる見栄での医学部進学」をあの時放棄したのは、実に正しい選択だったのかもしれない。
すてるTシャツ"
(これも断捨離が決まったTシャツ。着始めて3年あまり、まだ擦り切れてはいないが、2010年河口湖夏合宿の夏風邪の時、大汗をかきすぎて汗臭いのが抜けなくなった)

 狭い診察室を見渡しながら、この若い医師たちがかつて受験生だった頃には、みんなヒトも羨む優秀な生徒たちだったことを思う。努力が実り、夢が実現して、晴れて「お医者さま」にはなれたワケだが、果たして今その心中はどうだろう。これほど騒然とした「hustle and bustle」の毎日、「落ち着いてじっくり治療する」などという理想からは程遠い日々が、いったいいつまで続くのか、見当もつかない。
 今回の今井君みたいな難しいオペの患者がくると、彼らの頭越しにストレートで教授に回ってしまう。彼らはあくまで見習いかアシスタント扱いで、術後の経過を画面で見て溜め息をつくだけである。ふと「徒弟制度?」の疑問が一言、口をついて出ないことはないだろう。いつか、自分が理想とする治療を実践したい。いつか、自分でなければ出来ないと胸を張れる治療やオペに当たる日が来るかもしれない。しかしそれはあくまで「いつか」の話であって、ホントにその日が来るのかどうか、その保証は全くないのである。

1E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 6/9
2E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 7/9
3E(Cd) Billy Joel:Greatest Hits vol.1
4E(Cd) Billy Joel:Greatest Hits vol.2
5E(Cd) 芥川也寸志&東京交響楽団:エローラ交響曲など
total m32 y1673 d5772