Fri 101105 意地でも意地でも・ウワバミの速攻闘病記 若い医師たちの健闘ぶりを眺める
毎朝7時半から、入院患者全員が呼ばれて「朝の診察」がある。諸君、医師というのはたいへんな職業である。「朝7時半から仕事」などという職業は、世の中にそんなにたくさんあるものではない。漁業従事者で「もう30年も、毎朝3時から漁に出とるバイ」とか、築地魚河岸の職員で「朝4時からセリがはじまるんだ」とか、朝のワイドショー担当で「もう2年も毎朝3時出勤なんですぅ♡」という女性キャスターとか、まあ要するに相当に特殊な職域でない限り、「朝7時半から仕事」などということは考えられない。
今井君なんか、駿台お茶の水で授業の日には「朝8時20分から授業」というだけで文句があった。代ゼミに移籍して「毎朝9時から」に変わったとき、駿台との40分の始業時間の違いが天国のように感じられたものだった。しかし人間というのはダラしないもので、2年3年と経過するうちに、その嬉しさもいつの間にか忘れてしまった。
今やスタジオ収録が中心の東進講師であるから、始業時間は午後1時が普通。お医者さまたちみたいに「朝7時半に入院患者の診療開始」などというのは、怠け者の今井君にはもう信じがたい。いつもなら二日酔いと戦っている時間帯。「うーん、じっくり風呂につかって昨日のアルコールを流しちゃわなきゃ。でも、せめてあと30分寝ていたい」と、寝ぼけたことを寝ぼけマナコで考えている頃。酒臭い息を吐き、昨夜の泥酔と泥酔の果ての言動を、深く後悔している時間帯である。
(1日4回の点眼以外、することは何もない)
さすがにお医者さまたちは、若いにも関わらずそんなダラしないヒトは皆無である。今井君は、診察を受けながら「酒臭い息の人物はいないか」を細心の注意で探したのであるが、さすがにそんな不品行なヒトとは、1週間の入院中一人も出会わなかった。おお、立派。余りにも立派。立派すぎて少し寂しいぐらい。たまには酒仙みたいな医者がいてもいいような気がするが、それこそ患者のワガママであって、万が一自分の目の前に酒仙医師が酒臭い息で座ったりすれば、もちろん患者として烈火のように怒り、怒り心頭に発して辞職に追い込む勢いになるのは当然である。
お医者さまたちの仕事は、こうして早朝から一気に最高潮に達する。朝7時半に診察開始ということは、最低でも5時半には目を覚まして、朝食、シャワー、髭剃り、患者たちとはいえ一応人前に出るのだから、少しはオシャレにも気をつけなけれならない。女医さんなら、少しぐらいコスメティックにも手を出したり、お顔のコンディションなども整えなければならないだろう。
7時半、入院患者がうなだれながら診察室前の廊下に列を作る。みんなヨレヨレのパジャマを着てうなだれている様子は、ふと映画でも見る強制収容所を思い浮かべる類いのものだが、お医者さまたちはどんなワガママな患者にも限りなく優しく、赤ちゃんコトバか園児コトバで語りかけつづける。今井君がニャゴロワやナデシコをかまう時とほぼ同質のネコ可愛がりコトバである。
(入院5日目。曇りがちの日が続いた)
ふと思うのは、入院患者のほとんどが今井君と同様の毎日を送っているということである。延々とシーツにうつぶせ寝のヒトも多いだろう。今井君はリセッシュを使用しているが、そういうことに無頓着で、ヨダレの匂いを顔中にプンプンさせているヒトも少なくないはずだ。「シャワーは厳禁」「入浴は厳禁」のまま1週間も2週間も経過した患者。今井君もそうだが「シャワーは肩から下のみ」「頭を洗うのは厳禁」「もし目に水が入ったら、限りなく失明に近くなりますよ」と警告されて、みんなたいへん素直に警告に従い続けている。間近で接すれば、いろいろな匂いも立ちこめるはずだ。
そういう患者さんが1列になってうなだれている様子を想像してみたまえ。眼科でも、ホントに患者の至近距離まで行かないと診察も治療も不可能である。医師というものは、だからこそ尊敬に値するヒトビトなのだ。この状況で、イヤな顔一つせずに一人一人キチンと診察をこなしていく。入院患者の診察が8時半まで。8時半にはもう外来の患者さんが窓口に押し寄せて、午後2時3時までテンヤワンヤの診察が続く。しかし彼らも彼女らも見たところ沈着冷静、嫌がる様子も慌てる様子も一切見せない。
よく見れば、30歳になるかならないかの若々しいヒトばかりである。つい10年前に、駿台なり代ゼミなりの教室で今井君の授業を懸命に受講していたようなヒトたちが、こんなふうに成長して毎日の治療に当たっている。来る日も来る日も文句たらたらで、予備校講師の授業にケチをつけることが趣味だったような生徒たちが、いったん医師として医療現場に配属されれば、ここまで立派な医師に変貌するのである。
うにゃにゃ、それに対して今井君は、診察を受け終えて病室に帰れば、残った1日の仕事はひたすら「うつぶせ寝」。途中9時半頃に病室の掃除が入る以外は、ひたすらうつぶせで音楽を聴き続けるだけの毎日である。おお、怠惰である。若い医師たちがあれほど奮闘しているのに、今井君は「うつぶせ」以外は無為の日々を続けなければならない。
焦ってはならないが、医師たちの健闘ぶりを目の当たりにすると、うつぶせだけの日々があまりにも空しく感じられて、年甲斐もなく「情けない」という呻きが漏れる。こうして入院3日目あたりからは、うつぶせの口から流れ出るヨダレの量ばかりが焦りに比例して多くなっていくのであった。
1E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 3/9
2E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 4/9
3E(Cd) Billy Joel:Greatest Hits vol.1
4E(Cd) Billy Joel:Greatest Hits vol.2
5E(Cd) Madredeus:ANTOLOGIA
total m22 y1663 d5762
今井君なんか、駿台お茶の水で授業の日には「朝8時20分から授業」というだけで文句があった。代ゼミに移籍して「毎朝9時から」に変わったとき、駿台との40分の始業時間の違いが天国のように感じられたものだった。しかし人間というのはダラしないもので、2年3年と経過するうちに、その嬉しさもいつの間にか忘れてしまった。
今やスタジオ収録が中心の東進講師であるから、始業時間は午後1時が普通。お医者さまたちみたいに「朝7時半に入院患者の診療開始」などというのは、怠け者の今井君にはもう信じがたい。いつもなら二日酔いと戦っている時間帯。「うーん、じっくり風呂につかって昨日のアルコールを流しちゃわなきゃ。でも、せめてあと30分寝ていたい」と、寝ぼけたことを寝ぼけマナコで考えている頃。酒臭い息を吐き、昨夜の泥酔と泥酔の果ての言動を、深く後悔している時間帯である。
(1日4回の点眼以外、することは何もない)
さすがにお医者さまたちは、若いにも関わらずそんなダラしないヒトは皆無である。今井君は、診察を受けながら「酒臭い息の人物はいないか」を細心の注意で探したのであるが、さすがにそんな不品行なヒトとは、1週間の入院中一人も出会わなかった。おお、立派。余りにも立派。立派すぎて少し寂しいぐらい。たまには酒仙みたいな医者がいてもいいような気がするが、それこそ患者のワガママであって、万が一自分の目の前に酒仙医師が酒臭い息で座ったりすれば、もちろん患者として烈火のように怒り、怒り心頭に発して辞職に追い込む勢いになるのは当然である。
お医者さまたちの仕事は、こうして早朝から一気に最高潮に達する。朝7時半に診察開始ということは、最低でも5時半には目を覚まして、朝食、シャワー、髭剃り、患者たちとはいえ一応人前に出るのだから、少しはオシャレにも気をつけなけれならない。女医さんなら、少しぐらいコスメティックにも手を出したり、お顔のコンディションなども整えなければならないだろう。
7時半、入院患者がうなだれながら診察室前の廊下に列を作る。みんなヨレヨレのパジャマを着てうなだれている様子は、ふと映画でも見る強制収容所を思い浮かべる類いのものだが、お医者さまたちはどんなワガママな患者にも限りなく優しく、赤ちゃんコトバか園児コトバで語りかけつづける。今井君がニャゴロワやナデシコをかまう時とほぼ同質のネコ可愛がりコトバである。
(入院5日目。曇りがちの日が続いた)
ふと思うのは、入院患者のほとんどが今井君と同様の毎日を送っているということである。延々とシーツにうつぶせ寝のヒトも多いだろう。今井君はリセッシュを使用しているが、そういうことに無頓着で、ヨダレの匂いを顔中にプンプンさせているヒトも少なくないはずだ。「シャワーは厳禁」「入浴は厳禁」のまま1週間も2週間も経過した患者。今井君もそうだが「シャワーは肩から下のみ」「頭を洗うのは厳禁」「もし目に水が入ったら、限りなく失明に近くなりますよ」と警告されて、みんなたいへん素直に警告に従い続けている。間近で接すれば、いろいろな匂いも立ちこめるはずだ。
そういう患者さんが1列になってうなだれている様子を想像してみたまえ。眼科でも、ホントに患者の至近距離まで行かないと診察も治療も不可能である。医師というものは、だからこそ尊敬に値するヒトビトなのだ。この状況で、イヤな顔一つせずに一人一人キチンと診察をこなしていく。入院患者の診察が8時半まで。8時半にはもう外来の患者さんが窓口に押し寄せて、午後2時3時までテンヤワンヤの診察が続く。しかし彼らも彼女らも見たところ沈着冷静、嫌がる様子も慌てる様子も一切見せない。
(会社のヒトがお見舞いにきてくれて、いただいたドラヤキ。食べきれないので、ナースステーションに持参、ナースの皆さんにも食べていただいた)
よく見れば、30歳になるかならないかの若々しいヒトばかりである。つい10年前に、駿台なり代ゼミなりの教室で今井君の授業を懸命に受講していたようなヒトたちが、こんなふうに成長して毎日の治療に当たっている。来る日も来る日も文句たらたらで、予備校講師の授業にケチをつけることが趣味だったような生徒たちが、いったん医師として医療現場に配属されれば、ここまで立派な医師に変貌するのである。
うにゃにゃ、それに対して今井君は、診察を受け終えて病室に帰れば、残った1日の仕事はひたすら「うつぶせ寝」。途中9時半頃に病室の掃除が入る以外は、ひたすらうつぶせで音楽を聴き続けるだけの毎日である。おお、怠惰である。若い医師たちがあれほど奮闘しているのに、今井君は「うつぶせ」以外は無為の日々を続けなければならない。
焦ってはならないが、医師たちの健闘ぶりを目の当たりにすると、うつぶせだけの日々があまりにも空しく感じられて、年甲斐もなく「情けない」という呻きが漏れる。こうして入院3日目あたりからは、うつぶせの口から流れ出るヨダレの量ばかりが焦りに比例して多くなっていくのであった。
1E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 3/9
2E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 4/9
3E(Cd) Billy Joel:Greatest Hits vol.1
4E(Cd) Billy Joel:Greatest Hits vol.2
5E(Cd) Madredeus:ANTOLOGIA
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