Thu 101104 意地でも・ウワバミの速攻闘病記 視力回復をめぐる絶望と、自信の復活 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 101104 意地でも・ウワバミの速攻闘病記 視力回復をめぐる絶望と、自信の復活

 こういうふうで、食事時間以外は延々とうつぶせ寝の状況が続くうちに、必然的に「よだれ」の問題が発生した。どんなに上品ぶったお嬢様であろうとも、1週間続けてうつぶせ寝を続けてみれば、絶対に避けられないのがヨダレの処理の問題だ。何しろ睡眠中もうつぶせなのだから、必然的にシーツはヨダレのシミでいっぱいになっていく。ヨダレにはヨダレの匂いがあり、うつぶせの姿勢では、そのシーツに鼻を押し付けて1日24時間を過ごすことは避けられない。おお、おぞましい戦いが始まった。
 最初に試みたのは「口の当たりにタオルを敷く」という解決法。ヨダレがついたらタオルを取り替えればいいわけだ。しかし諸君、闘病の苦しさは、実際にしてみたヒトでなければわからない。タオルは、痛いのだ。ずっと顔をタオルに押し付けて寝ていてみたまえ。2時間も経過すれば、その痛さは堪え難くなってくる。タオルだなんて、実は机上の空論にすぎないのだ。うつぶせ寝の日々にはシーツのやわらかさ&優しさはやっぱり不可欠である。
 で、頼ったのが「リセッシュ」。ファブリーズでももちろん構わないが、どうしたものかリセッシュのほうがコンビニで見つかる可能性が高い。食事の時間が来たら、食事に箸をつける前に、まずシーツにリセッシュする。どんぶり飯と格闘し、野菜の山を平らげ、ツキンカチを飲み込んで幸福の絶頂をかみしめる頃、シーツからヨダレの匂いも消えている。めでたし、めでたしである。
りせっしゅ
(今井君を救ったリセッシュと、2011年版くまカレンダー)

 こうして再び清潔な匂いのシーツに顔と口と鼻を押しつけ、「うつぶせ」再開である。我々の世代には「まちぶせ」という大ヒット曲があって、アイドル三木聖子が歌い、プリンプリン物語の石川ひとみが歌い、もちろん松任谷由実も歌った。「好きだったのよ、あなた。胸の奥でずっと」である。「いつかは私きっと、あなたを振り向かせる」である。ところが今、今井君は「まちぶせ」ではなくて「うつぶせ」だ。「怖かったのよ、あなた。右眼の奥がずっと」「いつかは私きっと、自分で振り向くわよ」である。
 こうして、ヨダレの匂いとの戦い、肩と首と背中の凝りとの戦いが、延々と続いた。マクラの角にぶつかっては外れるイヤフォンをひたすら耳に押しつけ、それ以外することは何もなく、押し寄せる退屈と戦いながら、どんぶり飯だけが唯一の救い。闘病ということの本質は、こういうことにあるのではないか。
点眼
(点眼薬による治療は続く)

 視力の回復については、手術の翌日にはいったんガッカリし、翌々日の朝には絶望的な気分に陥った。期待が高すぎたのかもしれない。レーシック手術の宣伝とか、アメリカの映画やドラマを見過ぎなのかもしれないが、イメージとしては「翌日にはスッキリ、ウソのように視力回復」を夢見ていたのだ。眼帯を外せば、濁りも飛蚊症も強度の近視のボヤけた視界も、みんな綺麗サッパリ過去のものになって、輝かしい未来が目の前に広がるような夢をいだいていた。
 ところが、翌日になっても、翌々日になっても、右眼の視力はなかなか改善しない。出来るだけ正確に描写すれば、プールの底に潜って、1m30 cmのプールの水を透して夏の青空を仰いだ感じである。夏休みのどこまでも青い空が水面の向こうに広がっている。校舎の黒々とした影もわかる。プールを監視している先生の姿もわかるし、はしゃぎ回るクラスメートの姿もわかる。しかしそのすべてが水面の向こうにボンヤリとろけて、わかるのはその存在だけである。その影のすべてが、水面の揺らぎとともにユラユラ、またはプルプル、頼りなげに絶えず小さく震えているのだ。
 「視力は必ず回復します、期待ほどではないにしても、手許30cmぐらいに焦点があって、読書なんかは前より楽になるかもしれません」。そう言われて、甘すぎる期待をいだいてしまったのかもしれない。しかしどうやら、このまま水の底でユラユラ&プルプル影が揺れるのを感じる程度の視力で終わってしまうのだ。オペ2日後3日後まで、ウワバミどんはヨダレ臭いシーツに顔を押し付けながら、何度かそういう絶望の溜め息をついたものだった。
よくある間違い
(よくある名前の間違い。諸君、「宏」の横線が1本足りないことにお気づきか?)

 しかし諸君。物事はあんまり早く諦めたり、溜め息をついたりしてはいけないのである。事態が圧倒的な勢いで改善し始めたのは、オペから4日目である。水の底から青空を振り仰ぐ頼りない感覚、小学生のむかし、学研の「科学」か「学習」の付録についてきた水レンズを透して見たユラユラ感覚は、実はオペの最後に眼球内に注入したガスの泡のせいに過ぎないことがわかった。
 そのガスが少しずつ眼球から抜けるにつれて、水の底のユラユラ感&プールの底のプルプル感は少しずつ消え始めた。1週間後、ガスは黒いコンタクトレンズ状に丸く視界を遮るだけになってきた。すると、確かにまだ白っぽく滲んではいるが、レンズ以外の部分の視界はしっかり固体として定着、頼りなげな水ヨーカンみたいに揺れることはなくなったのである。
 こうして夢と希望が力強く復活した。夢と希望が復活した今井君は、医師に「赤ちゃんコトバ」ないし「幼稚園児コトバ」で話しかけられる屈辱を一切拒絶。どんな質問にも鋭く切り返して「タダモノではない」と痛感させることに快感を覚える、誠にイヤな患者に変身した。だって、教授以外の若いお医者様はみんな、おそらくかつて駿台なり代ゼミなりで今井の授業を通過したことのある「もと生徒」ばかりなのである。まさか「おメメ、オッキク開いてくださーい」じゃないだろう。

1E(Cd) Madredeus:ANTOLOGIA
2E(Cd) Midori & McDonald:ELGAR & FRANCK/VIOLIN SONATAS
3E(Cd) 芥川也寸志&東京交響楽団:エローラ交響曲など
4E(Cd) Billy Joel:Greatest Hits vol.1
5E(Cd) Billy Joel:Greatest Hits vol.2
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