Tue 101102 それでも・ウワバミの速攻闘病記 うつぶせ寝の生活を1週間続ける | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 101102 それでも・ウワバミの速攻闘病記 うつぶせ寝の生活を1週間続ける

 右眼以外に病気のところは一つもないのに、とにかく1週間うつぶせの姿勢でいなければいけない。入院に備えて血液検査その他の面倒な検査をすべて通過したけれども、本来なら網膜の病気なら真っ先に疑ってかからなければいけない糖尿病も、その徴候はゼロであった。
 血液以外にも、心電図を見てもレントゲンを見ても、「ちょっと気になる影が映った」などということは一切なし。内科的に診断すれば「驚くほどの健康体」がそこに横たわっている。20年も30年も暴飲暴食の限りを尽くした成れの果てなのに、「野菜を食べないとカラダをこわすよ」と言われ続け、それでも「野菜はキライだ」と吐き捨て続けた幼児的性格の権化なのに、とにかく右眼以外の一切が、ヒトも羨むハガネの健康体である。
 しかし、そういう健康体をもってしても、右眼の網膜がいったん剥がれたとなれば、手術後の1週間はただひたすら「うつぶせ寝♡」「うつぶせ寝♨」「うつぶせ寝!!!」である。諸君、3時間か4時間でいいから、一度体験してみたまえ。肩も凝り、首も凝り、背中も凝り、やがて後頭部から頭痛が始まって、「余りにも退屈」ということをヌキにしても、半日も経過しないうちに「これは手術よりツラい難行苦行だ」と叫びだす。闘病の本質はここにあるのだ。
うつぶせ
(うつぶせ寝のクマどん。それでも自ら写真を撮った執念を見よ)

 何故そういうことをしなければならないかというに、全ては網膜の定着のためである。甘栗の渋皮のようにペロリと剥がれた網膜を、眼のレンズを取り払ってレーザー光線を当て、とりあえず貼り付けただけなのだ。若い主治医は「ハンダ付け」と表現したし、執刀した教授は「だから油断するとまたベロンとハゲてきますよ」と疲れた声で低く言い放った。諸君「べろん」であるよ。今井君のような中年オヤジが最も気にする「ハゲる」という動詞をつかったあたりも、なかなか心憎い作戦であるね。
 万が一「またベロンと」「ハゲる」ようなことがあれば、再びあの手術の苦痛に立ち向かわなければならない。眼球に迫る金属の輝きを見つめながら「キョロキョロしないで」と言われなければならない。眼の奥に細い棒のようなモノを突っ込んでのホジホジ感覚に1時間半も耐えなければならない。そして何よりも「今度こそ深刻な失明の危機」が訪れる。
 そういうワケだから、1週間のうつぶせ寝生活にはどうしても耐えなければならない。つまり、うつぶせで寝ることによって、ホジホジ治療した眼底を上にするのである。眼球の中にはガスを注入してあって、そのガスが重力に逆らって上に上がろうとするから、ガスの圧力は眼底に貼り付けた網膜を圧迫する。その圧迫力で網膜を定着させようというわけだ。今井君のような文型人間にも大変よくわかるアナログな理屈である。アナログ人間の強いところは、アナログな理屈をいったん理解してアナログな努力を要求されれば、その要求には自分でも感心するほど立派に従うということである。
まくら
(うつぶせ寝用のマクラ)

 つらそうに息をついていたら、ナースが写真のような「うつぶせ寝用の枕」というのをもってきてくれた。それからは、いくらか楽になった。Uの字に窪んでいるところに首を入れて、ひたすら耐えるのである。両腕をカラダにそってダラリとさせるのもよし。ただしそれだ口は塞がれ鼻はつぶれて息が出来ないから、苦しくなったら枕の下に両手を入れてしばらく息継ぎをする。するとまもなく両手が痺れてくるから、再び息継ぎは2の次にして痺れ解消に努める。1週間、その繰り返しで終始した。
 最初はテレビをつけて、テレビの音声だけを聞いていた。うつぶせ寝では画面を見るのは不可能。それでも画面を見ようとすれば「べろんと」「ハゲる」という取り返しのつかない結果が待っている。しかし、午後のNHKはずっと国会中継である。閣僚の他人事のような答弁を終日聞いていれば、腹が立ってイライラして、その結果が「ベロン」につながりかねない。
 では民放は? グルメ番組とタレントの直撃取材!!ばかりである。「肉汁がジュワー」「プリップリの食感」「まず香りがフワッと来て、それから豚の脂の甘みが広がりますね」を1日中繰り返して恥じるところがない。これもまた「べろんと」「ハゲる」の引き金になりかねないのである。
マクラと
(うつぶせ寝用マクラと、愛用のiPod)

 というわけで、この1週間はずっとiPodに頼り続けた。2年前に購入した16MBのiPodに、いったい何枚のCDが入っているかわからないが、とにかく「音楽聞き放題のうつぶせグマ君」。首と肩と背中はパンパンに凝って、その不幸を天に向かって叫びだしたいほどであったが、そういう投げ槍な行動は再び「べろんと」「ハゲる」のきっかけを作る。音楽好きのヒトにはある意味で天国のような日々に、ひたすら耐えることにした。
 一つ付け加えておけば、うつぶせ寝用マクラは、イヤフォンで音楽を聴くのにはたいへん不便であった。Uの字に首を埋めて両耳にイヤフォンをつけた状況を想像してみたまえ。首の両側のマクラの出っ張りが、ちょうど両耳にあたって、姿勢を変えるたびにイヤフォンが耳から外れるのである。この1週間、いったい何度イヤフォンを耳に入れ直しただろう。諸君が万が一このマクラを使用するようなハメになったら、今井君はイヤフォンをお勧めしない。イヤフォンに関する苛立ちもまた「べろんと」「ハゲる」を誘発しかねないからである。

1E(Cd) Holliger & Brendel:SCHUMANN/WORKS FOR OBOE AND PIANO
2E(Cd) Akiko Suwanai:SOUVENIR
3E(Cd) Midori & McDonald:ELGAR & FRANCK/VIOLIN SONATAS
4E(Cd) 芥川也寸志&東京交響楽団:エローラ交響曲など
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