Sat 100619 ブダペストを出てプラハに向かう 発車前の大混乱 2位ではいけないんですか? | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sat 100619 ブダペストを出てプラハに向かう 発車前の大混乱 2位ではいけないんですか?

 12月23日のコグマくんには、そういう蒸し暑さに関する悩み(昨日の記事参照)は一切なかった。「蒸し暑い」などというのはコグマくんにとっては地獄絵図に近いので、大寒波のブダペストでの5日間は夢のようであった。
 ブダペストを去る朝はとうとう大寒波が去って、街は冬の冷たい雨に濡れていた。ホテルからケレティ駅までタクシーに乗り、5日前あんなにおっかなびっくり足を踏み入れた駅前にしばし佇んだ。恐ろしげな治安情報が飛び交っていたけれども、そんな情報とは全く異質の、安心して滞在できるいい街であった。
 ハンガリー国鉄のECに乗って、いよいよプラハに向かう。ハンガリーからしばらくドナウ河に沿って北上。スロバキアに入って、首都ブラチスラバやブルノを経由し、7時間ほどでプラハに到着の予定。プラハで今井君が降りたあと、列車はそのままドレスデン経由でベルリンに向かう。1等車のチケットをブダペスト到着の日に駅で予約しておいた。
ベルリン行き
(ドアに貼られた行き先表示。ブダペスト→ブラチスラバ→プラハ→ドレスデン→ベルリン。たいへんな国際列車である。テープ2枚で止められたこの乱雑さは注目に値する)

 ところが、である。ヨーロッパでの鉄道移動で、問題が持ち上がらないことのほうがむしろ珍しいのだ。ローマからジェノバへの移動で「あれれ、予約した13号車がない」という経験についても、すでにこのブログで書いた。車掌に聞くと「ノンチェ(その車両はありません)」で終わってしまったという話である。今回も旅行でも、ウィーンからブダペストの移動で同じようなことがあった。
 この日、プラハまで予約したチケットは12号車。ところが、ブダペスト出発前15分に入線してきた特急列車は、なんと4両編成である。4両とは、1号車から4号車。12号車などというのは、「いったい何のこと?」というぐらい遥かな遥かな夢の世界である。12号車はおろか、5号車も6号車も7号車も8号車も一切見当たらないのだ。
 右往左往するうちに、「まもなく発車」というアナウンスがあって、いきなりそこいら中が慌ただしくなる。そういうところは全く容赦がないので、発車したくなったら、意地でも発車する。困っているヒトがいようがいまいが、「とにかくオレは発車したいのだ」と列車はダダをこねるし、「私たちは発車させたいのだ」と駅員は権柄ずくになる。「権柄ずく」は「ケンペイズク」と発音する。死語になりかけているが、知らないヒトは広辞苑で調べること。
ドナウ
(ブダペスト発車30分後の車窓に現れたドナウ河)

 駅員にチケットを見せて尋ねてみても、一切ラチはあかない。「どの車両でもいいから空いている席に座ればいいじゃないか」「何でそんなに困っているんだ、チケットもある、空席もある、座ればいいじゃないか」「発車時間が迫っているのに、何を下らんことで質問なんかするんだ」という態度である。
 キューカニちゃんはこういう世界にもうすっかり慣れてしまった。いちおう慌てはするが、腹を立てることはなくなった。腹を立ててみても、ちっとも前進は望めない。どうしようもないことは、どうしようもない。やむを得ないことは、やむを得ない。どうやら、列車の旅の世界基準はこれのようなのだ。
 確かに定員6人の1等車コンパートメントがチャンと1室空いている。この6人用コンパートメントを独占して、プラハまで7時間、息をひそめていればいい。もしも途中の駅からの闖入者がなければ、7時間ずっと静かにハンガリーとスロバキアとチェコの冬の車窓風景を満喫していられるのだ。それならそれで悪くない。いちいち予約したチケットの座席番号などに固執してつまらない意地を張っているのは、世界基準とは言えないのだ。
コンパートメント
(意地でも確保した6人用コンパートメント。1等車、ただし喫煙室。リュックとニット帽をおいて所有権を主張する)

 空いている席があるんだからサッサとそこで済ませればいいし、予約した客がほとんどいないのに、誰も乗っていないカラッポの車両を連結するなどというのはムダもいいところ。12両連結を予定していても、予約した客が4両に収まるなら4両で短くシュッと走ればいい。そういうことである。
 「なぜ1位じゃなきゃいけないんでしょうか、2位じゃいけないんでしょうか」という発言に喝采をおくる国民なら、12両目に席を予約した客として、4両しか連結されていなくても文句は一つもないはずだ。「なぜ12号車じゃなきゃいけないんでしょうか、4号車じゃダメなんですか?」である。
 仕方なく、4号車の無人のコンパートメントに入って、ピタリとカーテンを閉め、他の客の闖入をシャットアウトした。他の客もみんな同じ行動をとり、じっと息を潜めて他者の闖入を固い沈黙で抑え込んでいる。
カーテン
(カーテンを閉ざして逼塞。みんな息を殺して発車を待つ)

 特に今井君のコンパートメントは喫煙室である。万が一煙突みたいな喫煙者が闖入してきて、喫煙室における喫煙者の権利を主張しはじめたら、7時間の旅のあげくにぜんそくの発作に襲われかねない。この10年、ぜんそくの症状は影を潜めているが、7時間喫煙者と向かい合ったら、「海外でぜんそく復活」という悲劇になりかねないのだ。
 みんなピタリと占めたカーテンの陰で息を潜め、通路を通る人影やスーツケースを引きずる気配にいちいち緊張が走る。「こっちへくるな」「あっちへ行ってくれ」と祈っているのがわかる。どの乗客も同じ気持ちである。
 みんなチケットに印刷された車両や席が見つからずに、やむを得ずこの車両のコンパートメントに身を潜めたのだ。
「ホントにここでいいんだろうか」
「この車両で間違いないんだろうか」
「もしも7時間立っていかなければならなくなったらどうしよう」
「喫煙者と一緒だったら、7時間(もしもドレスデンなら9時間、ベルリンなら12時間)もタバコのケムと同居しなきゃならない」
そういう不安が渦巻く中で、いよいよ発車時間が迫ってきた。少なくとも、「乗り合わせた乗客どうし、国境を越えたコミュニケーションを楽しむチャンス」などというキレイゴトの通用する雰囲気ではないのである。

1E(Cd) Joe Sample & Lalah Hathaway:THE SONG LIVES ON
2E(Cd) Madredeus:ANTOLOGIA
3E(Cd) Madredeus:ANTOLOGIA
4E(Cd) Reiner & Wien:VERDI/REQUIEM 1/2
5E(Cd) Reiner & Wien:VERDI/REQUIEM 2/2
total m71 y993 d5092