Sat 100522 ヨーロッパに大寒波襲来 大雪のブダペスト 鼻息でヒゲに塩辛いツララが | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sat 100522 ヨーロッパに大寒波襲来 大雪のブダペスト 鼻息でヒゲに塩辛いツララが

 雪国出身の人間には、「こりゃ、もうすぐ雪が降る」と本能的に感じる能力があって、幼年時に培われたこの能力は、ずっと雪国を離れたまま18歳から中年になっても損なわれることはない。12月18日の夜、カルパーチアで飲んだトカイワインの酔いを引きずりつつ、再びホテル近くのクリスマス市をブラブラ歩き回ったのであるが、その段階から「どうもこの直後に大雪になりそうだ」という直観があった。
 こういう直観につながるのは、おそらく(1)空気の匂い(2)風に感じる湿度(3)灯りの滲みぐあい、その3つである。もちろんよく考えてみれば以上の3つは結局同じものであって、空気がよく湿って、かつその湿り気を「ただでは済まさない」という気合いの入った寒気の流入があれば、必ず大雪になるのだ。この夜のハンガリーの寒気はそれこそタダゴトではなくて、キレイに飾られたクリスマスツリーの電飾が目に沁みるほど美しかった。「大寒波がくる」という予報も、とっくに出ていたのである。
寒波直前
(旧カニ蔵が大雪を予感した、鮮やかなクリスマスツリーの輝き)

 この夜、グッスリ眠っているうちから「しんしんと」という副詞にいかにも相応しい、秘かに秘かに深い雪が積もっていく気配があって、目覚めたのも予定より1時間ほど早い午前8時。今井どんの(もう「カニ蔵くん」という呼び方が出来ないのがホントに寂しいけれども)部屋はホテルの最上階である。窓の上半分が天窓になっていたが、その天窓が降り積もった雪に完全に覆われて、朝が来ているのに部屋はまだ薄暗いほどだった。
トラムちゃん"
(大寒波の中のブダペスト市電2号線。正午近くだが、薄暗い)

 たとえ大雪に覆われた大寒波の朝であろうと、せっかくのブダペストの朝である。早速(と言っても、風呂に入って、酔いを醒まして、持参の玉子スープと薄焼きセンベイで朝食を済ませて、以上に2時間近く費やしたのであるが)ブダペストの街に出ることにした。「東ヨーロッパの冬の寒さは半端ではない」、それはいろいろな本で読んでわかっていたから、この大雪は大歓迎である。せっかく寒いなら、とことん寒いほうがいい。この1日のブダペストは、そういう期待に実に真っ直ぐに応えてくれた。
市電の内部
(凍えそうな市電の車内。さすがにガラガラである)

 ホテルから出るとき、すでにフロントクラークの男女が肩をすくめてみせた。「今日ホテルの外に出るのは、あまりお勧めできません」「ロビーでホットワインでも楽しんでいるほうが得策では?」という表情である。しかし、せっかく東洋のヒョーロクダマがブダペストに来て、今日はその最初の朝、無理に引き止めるのもまた武士の情けに合わない。肩をすくめながらも、「まあ放っておくか」ということになったようである。
雪のドナウ
(市電から見た大寒波のドナウ河)

 ホテルから外に出ると、まず雪の深さに驚嘆する。昨夜10時ごろまでその辺をうろつき回っていたのだから、あれからわずか12時間の間にこんなに深い雪が降り積もったわけだ。それでも雪の深さについては、秋田出身のツキノワグマとして、それほど驚くに当たらない。秋田県横手市とか湯沢市とか、今井君の母方のルーツである秋田市上新城五十丁地区(地域で一番のヨロズヤだったという)だって、この程度の豪雪なら珍しいことではない。クマどんが中2だった冬は歴史上有名な豪雪の年で、秋田では滅多にない屋根の雪おろしだって経験した。はっは。経験豊かなクマどんは、そんなにカンタンにドギモを抜かれたりしないのだ。
くさり橋1
(ドナウ河、ブダペストのくさり橋)

 問題は、ブダペスト市民でさえ外出を躊躇うほどのこの寒さである。寒さというより、痛さである。地図を見るために手袋をはずすと、約10秒で冷たさに音を上げる。鼻呼吸を続けていると、鼻の下のヒゲが呼吸のためにアッという間に凍りはじめる。しかもその凍り方が半端ではなくて、放置すればデカイツララが鼻ヒゲにぶら下がり、ヒゲはツララの重力に引っぱられて激痛が走る。試しにそのツララをなめてみると、悲しいことに少し塩辛い。うーん、クマどんはやっぱり神ならぬ身なのである。
 こういう寒さの中では「ニット」というものの無力を痛感する。ウィーンではいくらか役に立った紫のニット帽の使用は、この時点で諦めなければならなかった。ニット帽ではすぐに耳がちぎれそうなほど痛みはじめるのだ。ニットの手袋もほぼ無力である。黒々とした映画のナチス将校風カワ手袋までいかなくても、せめて空気を通さないタイプの手袋を持参すべきだったのだが、後悔先に立たずである。
くさり橋2
(くさり橋)

 むしろ裸のままの手をコートのポケットに突っ込んだほうが暖かい。耳も頭もニット帽で守ることは放棄して、コートのフードで守ったほうが身のためだ。ホントに「そうするほうが身のためだ」「油断すれば死んでしまう」と考えたのは、徒歩でドナウ河を渡りはじめたときである。
 ホテル近くのクリスマス市を横切り、河のほとりの停留所から市電2号線に乗り込んだ頃までは、「何だ、秋田出身者を甘く見ちゃダメだな」ぐらいの意気軒昂なクマどんだったのだが、さすがに大寒波襲来のドナウ河を徒歩で渡りきるほど頑丈でも頑固でもなかったということである。寒さのあまり涙目になり、その涙目が風に吹かれて凍りはじめる。子供の頃からスキーに慣れた今井君だが、これほどの寒さは、吹雪の蔵王山頂でも、大寒波の真っただ中のニセコヒラフでも、経験したことがない。
ドナウにゃご
(大寒波でもビクともしない、くさり橋の上のニャゴ)

 ドナウ河を渡ったのは、ブダペストのお土産の絵葉書やカレンダーには意地でも登場する「くさり橋」。古代ローマ時代から、「暗黒の」と呼ばれる中世、オスマントルコ侵攻時代、ヨーロッパ世界とイスラム世界の攻防を延々と見守ってきたドナウ河の最も有名な橋である。ライトアップされたその姿の美しさは世界中の旅行好きを引きつける。
 しかし2009年12月19日、ドナウ河はそんな愛想のよさは微塵も見せない。土壁に激突してから6日後の「旧・カニ蔵くん」のヒタイのリンパ液を一気に急速冷凍するに十分な、常軌を逸した強風を容赦なく吹きつける。つまり、東洋のクマなんか寄せつけない、冷たく激しい気力を示してくれたのであった。

1E(Cd) Barenboim/Zukerman/Du Pré:BEETHOVEN/PIANOTRIOS 3/9
2E(Cd) Peabo Bryson:UNCONDITIONAL LOVE
3E(Cd) Richard Marx:GREATEST HITS
6D(DMv) AMERICAN GANGSTER
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