Mon 100517 ブダペスト人の早足 サッサカ大阪 エスカレーターの恐るべきスピード
駅前をちょっと歩いてみて、「すこぶる安全な街」という実感にウソはないとしても、やはりブダペストは東ヨーロッパである。この街には西ヨーロッパにはない独特な雰囲気があって、よく考えてみると、ヒトビトの歩く速度が異様に速いのである。
そのスピードたるや、もはやタダゴトではない。まるで背後から何者かに追われているような、ムチか警棒を振るう警官か官吏にでもせかされているような、そういう速さである。
「東京のヒトは歩くのが速い。いつもせかせかしていて、何だか冷たい。人間性を感じない」とか、
「大阪のヒトはセッカチやでえ。歩くのがゴッツ速いでえ」
「ゴッツ速いから、昔は『サッサカ大阪』ゆうたもんや。エヌエチケーの『みんなのうた』にも、『ホンマにサッサカ大阪、エエ街ヤー』ゆう歌があったもんや」
とか、そういう自発的な急ぎ方ではないのだ。
夕暮れのブダペストを無言で歩むヒトビトには、社会主義の亡霊に追われている、暴君とその手下に対する恐怖に脅されている、そういう悲壮感が現れている。
![地下鉄広告](https://stat.ameba.jp/user_images/20100606/14/imai-hiroshi/b0/5c/j/o0360027010577539683.jpg?caw=800)
(ブダペスト地下鉄構内のよくわからん広告)
なお、昭和40年代の「みんなのうた」について今井くんが知っているのは、小学生時代の今井くんが放送委員だったからである。今井くんの通っていた秋田市立土崎小学校では、お昼の給食時間中、放送委員会が頑張ってラジオDJ風の娯楽番組を放送。給食も放送室で食べた。昼休みになると大急ぎで放送室に走っていって、まず「手を洗いましょ」という恐るべき曲を全校に流さなければならない。
「手ーをあーらいましょっ。
ほーら、汚い手!!
セッケンでー、手を洗お、
セッケンで、手を、あーら、うぉー!!」
と女性歌手が感動的に歌い上げるレコードがあった。
今井くんがレコードの回転数を間違えて、33回転を45回転で放送し、そんなことで一躍人気者になったこともあったが、まあそういう時代である。
「手を洗いましょ」が終わると、女子の放送委員が「お昼の校内放送が始まります」と宣言し、ホントにDJ風に曲を紹介したり、物語を朗読したり、ポエムのコーナーがあったり、誰がくれた手紙かよくわからないが、お便りだかハガキだかを紹介したり、とにかく20分にわたって何だかインチキな全校放送を垂れ流した。
その中で「みんなのうた」から必ず1曲放送しなければならないシキタリがあって、それが今井くんが放送委員のとき「サッサカ大阪」だったのである。
他にスペインの闘牛士がテーマの「トレロカモミロ」とか、高山祭りがテーマの「高山にカンカコカン」(いくらなんだって「カンカコカン」で「閑暇股間」という恐るべき変換にはさすがにひっくりかえる)とか、思い出は尽きない。「たーかやまに、カンカコカン。冬がくるー、雪がくる」である。「トレロカモミロ、とても寝坊助、闘いよりも昼寝が好き」である。今でもほとんどちゃんと歌えるぐらいだ。
「サッサカ大阪」のフィルムは、実写版シロクロ映像。歌詞は以下の通り。
「サッサカ、サッサカ、サッサカ大阪、ええ街やー。
梅新、上六、何やろか?
梅田新道、梅新で
上六、つまりは、上本町の六丁目。
ばたばたバイクのおっちゃんは、
あれはシャツイチ、シャツ1枚。
ホンマにサッサカ、サッサカ、サッサカ大阪、ええ街やー」
「梅田新道」の部分のみ記憶が明確でなくて、もしかすると梅田新町かもしれないが、白黒のフィルムには間違いなく薄汚れたランニングシャツで大阪の街を走り回る「ばたばたバイク」のオッチャンの笑顔が映っていたのである。
![ドナドナ1](https://stat.ameba.jp/user_images/20100606/14/imai-hiroshi/cf/7b/j/o0360027010577540043.jpg?caw=800)
おお、さすがの記憶力であるが、問題なのは話題のヒドい逸脱ぶりだろう。何しろ今井くんが書こうとしていたのは、ブダペストのヒトたちの恐るべき早足についてだったのである。
うーん、牧羊犬に追われるヒツジの群れの雰囲気。みんなうつむいて、無言で、常軌を逸した前屈み。ほとんど前のめりに突っ込んでいくような姿勢で、ツンノメってしまわないように次の1歩を踏み出す、そういう種類の早足である。
![エスカ1](https://stat.ameba.jp/user_images/20100606/14/imai-hiroshi/25/a2/j/o0360027010577540333.jpg?caw=800)
この早足の集団は「ドナドナ」を想起させる。口蹄疫の拡大は、何よりも今井くんにドナドナの悲しさを思い出させたが、そうは言ってもリスボンで深夜まで闘牛に打ち興じてきたばかり。おや、もしかするとこれからしばらくの間、スペインやポルトガルの日本人旅行者は「闘牛場入場お断り」ということになるのかもしれない。トレロカモミロもビックリして昼寝から覚めそうだ。
![エスカ2](https://stat.ameba.jp/user_images/20100606/14/imai-hiroshi/6b/6a/j/o0269036010577541220.jpg?caw=800)
(頑丈すぎるほど頑丈な地下鉄エスカレーター)
ハンガリー人の早足を何より象徴的に表しているのが、地下鉄のエスカレーターである。ちょっとやそっとの速さではないから、あれだけは一度経験してみたほうがいい。その速さ、東京のエスカレーターの2倍は下らない。
普通に手ぶらで乗るにしても、ちょっと向こうのほうから助走をとって、「は!」とか「えい!!」とか、牛若丸みたいな掛け声をかけて跳び乗らなければ、無事に乗り込むことは困難。ましてや20kgのスーツケースなんか引きずりながらでは、正直言ってエスカレーター利用は不可能である。
![ドナドナ2](https://stat.ameba.jp/user_images/20100606/14/imai-hiroshi/2c/00/j/o0360027010577542063.jpg?caw=800)
(ドナドナ)
しかも、そのエスカレーターは明らかに旧ソ連時代独特、旧社会主義政権時代独特の、いかにも重くて頑丈そうな、絶対にコワれない、絶対に譲らない、そういう頑固きわまりないシロモノである。
万が一人間の足を挟み込んだりしたら、それをメチャメチャに砕いてしまわないかぎり停止しない。赤く黒く錆つきながら、「おそらく永遠に動きつづけるだろう」と思わせ、しかしその実1日に何度でも突如として停止し、その頑固な停止ぶりでたくさんのヒトビトを払い落として、しかも平然と「全責任は相手方にある」「事故はデッチアゲである」、そう言ってビクともしない、たいへん懐かしいシロモノなのであった。
1E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré
:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 4/9
2E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré
:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 5/9
3E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré
:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 6/9
4E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré
:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 7/9
total m78 y709 d4808
そのスピードたるや、もはやタダゴトではない。まるで背後から何者かに追われているような、ムチか警棒を振るう警官か官吏にでもせかされているような、そういう速さである。
「東京のヒトは歩くのが速い。いつもせかせかしていて、何だか冷たい。人間性を感じない」とか、
「大阪のヒトはセッカチやでえ。歩くのがゴッツ速いでえ」
「ゴッツ速いから、昔は『サッサカ大阪』ゆうたもんや。エヌエチケーの『みんなのうた』にも、『ホンマにサッサカ大阪、エエ街ヤー』ゆう歌があったもんや」
とか、そういう自発的な急ぎ方ではないのだ。
夕暮れのブダペストを無言で歩むヒトビトには、社会主義の亡霊に追われている、暴君とその手下に対する恐怖に脅されている、そういう悲壮感が現れている。
![地下鉄広告](https://stat.ameba.jp/user_images/20100606/14/imai-hiroshi/b0/5c/j/o0360027010577539683.jpg?caw=800)
(ブダペスト地下鉄構内のよくわからん広告)
なお、昭和40年代の「みんなのうた」について今井くんが知っているのは、小学生時代の今井くんが放送委員だったからである。今井くんの通っていた秋田市立土崎小学校では、お昼の給食時間中、放送委員会が頑張ってラジオDJ風の娯楽番組を放送。給食も放送室で食べた。昼休みになると大急ぎで放送室に走っていって、まず「手を洗いましょ」という恐るべき曲を全校に流さなければならない。
「手ーをあーらいましょっ。
ほーら、汚い手!!
セッケンでー、手を洗お、
セッケンで、手を、あーら、うぉー!!」
と女性歌手が感動的に歌い上げるレコードがあった。
今井くんがレコードの回転数を間違えて、33回転を45回転で放送し、そんなことで一躍人気者になったこともあったが、まあそういう時代である。
「手を洗いましょ」が終わると、女子の放送委員が「お昼の校内放送が始まります」と宣言し、ホントにDJ風に曲を紹介したり、物語を朗読したり、ポエムのコーナーがあったり、誰がくれた手紙かよくわからないが、お便りだかハガキだかを紹介したり、とにかく20分にわたって何だかインチキな全校放送を垂れ流した。
その中で「みんなのうた」から必ず1曲放送しなければならないシキタリがあって、それが今井くんが放送委員のとき「サッサカ大阪」だったのである。
他にスペインの闘牛士がテーマの「トレロカモミロ」とか、高山祭りがテーマの「高山にカンカコカン」(いくらなんだって「カンカコカン」で「閑暇股間」という恐るべき変換にはさすがにひっくりかえる)とか、思い出は尽きない。「たーかやまに、カンカコカン。冬がくるー、雪がくる」である。「トレロカモミロ、とても寝坊助、闘いよりも昼寝が好き」である。今でもほとんどちゃんと歌えるぐらいだ。
「サッサカ大阪」のフィルムは、実写版シロクロ映像。歌詞は以下の通り。
「サッサカ、サッサカ、サッサカ大阪、ええ街やー。
梅新、上六、何やろか?
梅田新道、梅新で
上六、つまりは、上本町の六丁目。
ばたばたバイクのおっちゃんは、
あれはシャツイチ、シャツ1枚。
ホンマにサッサカ、サッサカ、サッサカ大阪、ええ街やー」
「梅田新道」の部分のみ記憶が明確でなくて、もしかすると梅田新町かもしれないが、白黒のフィルムには間違いなく薄汚れたランニングシャツで大阪の街を走り回る「ばたばたバイク」のオッチャンの笑顔が映っていたのである。
![ドナドナ1](https://stat.ameba.jp/user_images/20100606/14/imai-hiroshi/cf/7b/j/o0360027010577540043.jpg?caw=800)
(ブダペスト地下鉄。「ドナドナ」の悲しさを思い起こさせる。天井のシャンデリアが意外に豪華なのも何だか悲しい)
おお、さすがの記憶力であるが、問題なのは話題のヒドい逸脱ぶりだろう。何しろ今井くんが書こうとしていたのは、ブダペストのヒトたちの恐るべき早足についてだったのである。
うーん、牧羊犬に追われるヒツジの群れの雰囲気。みんなうつむいて、無言で、常軌を逸した前屈み。ほとんど前のめりに突っ込んでいくような姿勢で、ツンノメってしまわないように次の1歩を踏み出す、そういう種類の早足である。
![エスカ1](https://stat.ameba.jp/user_images/20100606/14/imai-hiroshi/25/a2/j/o0360027010577540333.jpg?caw=800)
(異常なスピードのブダペスト地下鉄エスカレーター。カメラの焦点さえうまく合わない、恐るべきスピードである)
この早足の集団は「ドナドナ」を想起させる。口蹄疫の拡大は、何よりも今井くんにドナドナの悲しさを思い出させたが、そうは言ってもリスボンで深夜まで闘牛に打ち興じてきたばかり。おや、もしかするとこれからしばらくの間、スペインやポルトガルの日本人旅行者は「闘牛場入場お断り」ということになるのかもしれない。トレロカモミロもビックリして昼寝から覚めそうだ。
![エスカ2](https://stat.ameba.jp/user_images/20100606/14/imai-hiroshi/6b/6a/j/o0269036010577541220.jpg?caw=800)
(頑丈すぎるほど頑丈な地下鉄エスカレーター)
ハンガリー人の早足を何より象徴的に表しているのが、地下鉄のエスカレーターである。ちょっとやそっとの速さではないから、あれだけは一度経験してみたほうがいい。その速さ、東京のエスカレーターの2倍は下らない。
普通に手ぶらで乗るにしても、ちょっと向こうのほうから助走をとって、「は!」とか「えい!!」とか、牛若丸みたいな掛け声をかけて跳び乗らなければ、無事に乗り込むことは困難。ましてや20kgのスーツケースなんか引きずりながらでは、正直言ってエスカレーター利用は不可能である。
![ドナドナ2](https://stat.ameba.jp/user_images/20100606/14/imai-hiroshi/2c/00/j/o0360027010577542063.jpg?caw=800)
(ドナドナ)
しかも、そのエスカレーターは明らかに旧ソ連時代独特、旧社会主義政権時代独特の、いかにも重くて頑丈そうな、絶対にコワれない、絶対に譲らない、そういう頑固きわまりないシロモノである。
万が一人間の足を挟み込んだりしたら、それをメチャメチャに砕いてしまわないかぎり停止しない。赤く黒く錆つきながら、「おそらく永遠に動きつづけるだろう」と思わせ、しかしその実1日に何度でも突如として停止し、その頑固な停止ぶりでたくさんのヒトビトを払い落として、しかも平然と「全責任は相手方にある」「事故はデッチアゲである」、そう言ってビクともしない、たいへん懐かしいシロモノなのであった。
1E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré
:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 4/9
2E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré
:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 5/9
3E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré
:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 6/9
4E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du Pré
:BEETHOVEN/PIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 7/9
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