Wed 100421 家政婦は見た(1) 先々代と先代 婿入りダンナサマの没落への道 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 100421 家政婦は見た(1) 先々代と先代 婿入りダンナサマの没落への道

 はいはい、そうでございます。家政婦のわたくしが申し上げるのも変でございますが、今やこのお宅の中はもうたいへんなことになっているんでございますよ。
 もともと山のかなただか海のかなただか、とにかく世界の東の端っこで、2千年近くも地道に続いてきたお宅でございましてね、マジメで優秀、大人しくて勉強熱心、優しいおカタの多い、素晴らしいご家庭だったんでございますよ。
 お話に聞きましたところでは、今から100年も前のこと、先々代のそのまた先代の頃に、外国で2度も大バクチを打ちまして大成功。それをキッカケに、ずいぶん乱暴に外国にうってでるようになりましたそうで、先々代の頃には朝鮮半島から中国に入って、ますます乱暴がつのりました。
 ドイツとイタリアにたいへん悪いお友達が出来ましてね、その乱暴ぶりに、すっかり世界中から嫌われ、のけ者にされてしまったそうでございます。最後は八方ふさがりの八方破れ、あの、ビルマって言うんですか、は、今ではミャンマー? ええ、時代遅れのおばあさんですから、詳しいことはよくわからないんでございますが、東南アジアやインドにまで手を広げましてねえ。で、世界中のお偉いカタガタからキツいお灸をすえられ、先々代はすっかりションボリしてしまい、そこで終わりにしてスゴスゴ帰って参りました。
理想の女神
(理想の女神「舞いおりる」の図)

 そこで、その息子さん(先代のダンナサマ)が、またゼロからお宅の立て直しに努力を重ねられました。先代は、マジメな努力家でもあり、それに「肉食系」って言うんでございますか? それはそれは精力的なおカタでございましたよ。そのころから家政婦としてお宅で働かせていただいているんですから、わたくしもこのお宅ですっかり長くなりましたねえ。
 で、先代のお働きのおかげで、こんな大邸宅が復活したんでございます。お屋敷がご立派なら、家具調度、家電製品からお台所まで、何でも超一流でございましょう? わたくしのような古い家政婦には使いこなせないような高級品ばかりで、外国の方には「ガラパゴス」とか悪口をたたかれるほど。確かにこれほど機能タップリでは、外国のお客様には、トイレだって使いこなすのはちょっと無理でございましょうねえ。ホントに素晴らしいカタでございましたよ、先代は。
 今のオクサマが、先代のお嬢様でございましてね、あの、少子化と言うんでございますか? あれほど肉食系のダンナサマでしたのに、お子様は一人娘のお嬢様おひとり、それが今のオクサマでございますよ。やっぱり外で働きすぎでございますかねえ。わたくしなど、昔の女でございますから、やっぱり古いんでございますかね、何より寂しいのは「跡取り息子」がいらっしゃらなかったこと。お宅の勢いがなくなったそもそもの原因に思えてならないんでございますよ。
 先代の残された財産は、さすがにたいへんなものでございましてね。もうかれこれ30年も「世界で2番目」と言われるほど。先代が元気でいらっしゃったころには「as No.1」と持ち上げられるぐらいでございました。わたくしは横文字は苦手でございますが、まあ、とにかく世界中から褒められたりおだてられたりするのは、家政婦の立場からもうれしいものでございましたよ。
女神の実像
(実際の女神。「どう降りればいいのかしら? ナデシコや、ワタクシ、迷ってしまいますわ。教えてくださらないこと?」)

 いよいよ家運が傾きはじめましたのは、20年ほど前でございましたでしょうか。その直前に、何かのハズミでアブクのようにオカネがたくさん入って参りましてね。わたくしは陰で「アブク景気」と悪口を言っておりましたが、「実力やホントの働きのないところに変にオカネだけ入ってくるのは、家運が下降線になる前触れだ」ぐらいは、年寄りの知恵というのか、ムシの知らせというのか、そのころから思わず鳥肌がたつようなコワい思いでおりました。
 お嬢様がご結婚なさって、「オクサマ」と呼ばれるようになりましたのは、もうずいぶん昔でございます。「前のダンナサマ」はお嬢様のところに婿入りなさったカタでございますが。うーん、最初あった馬力がどんどんなくなって、見る間にヤセ衰えていったという感じでございますかね。若い頃は「昭和の妖怪」「人間ブルドーザー」とか言われたものでしたが、いつの間にかすっかりダラシがなくなって「ウーアー総理」とか「風見鶏」とか「ヨーダ」とか。
 とうとう去年、オクサマも愛想尽かしをなさって離婚。すぐに再婚なさいましたが、新しいダンナサマは前のダンナサマに輪をかけたぐらいダメな方で、そのことについては、後でまた申し上げます。
家庭教師
(お嬢様、舞いおりるときには、こういうふうにいたします by ナデシコ)

 前のダンナサマの悪いクセは、オクサマからの借金でございましてね。それも、とにかく大邸宅の維持とか、驚くほどの贅沢や大盤振る舞いをなさりたくて、まあ見栄っ張りなんでございますね。何でも世界で一番いいものを揃えたくて、おかげでご邸宅がどれほど素晴らしいものになったか、もう確かにピカピカ、キラキラ、「ギンギラギンにさりげなく」。あらわたくしもこんなところで近藤真彦だなんて、おばーちゃんなのにハシタナイですねえ、まったく。あら、ごぞんじない? まだお若いですものねえ。
 こんな年になりましたから、冥途の土産と思って(何で「メイドの土産」って変換されるのかしらねえ。「あら、お帰りなさいませ、ボッチャマ。またオタゲーの練習でございますか? 冷蔵庫にマンゴープリンがございますよ」)外国旅行もいたしますが、そのたびにこのご邸宅の素晴らしさを実感いたしますよ。ヨーロッパのトイレなんか、ここのお宅のトイレには比較にもなりません。インフラっていうんでしたっけ? とにかくお宅のインフラは、今や世界のどこにも負けないぐらいです。
 あらま、長話が過ぎましたか? わたくしが一番心配していることはまだ他にあって、「家政婦ふぜいが何を言うか」と笑われそうですけど、お宅を立て直す処方箋ももっているつもりでございますよ。でも、もう遅くなりましたから、それはまた明日申し上げることにいたしましょう。

1E(Cd) Menuhin:SCHUBERT/Symphony No.1&4
2E(Cd) Menuhin:SCHUBERT/Symphony No.2&6
3E(Cd) Menuhin:SCHUBERT/Symphony No.2&6
4E(Cd) Akiko Suwanai, Dutoit & N響:武満徹/遠い呼び声の彼方へ 他
5E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN 5/5
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