Tue 100330 千葉県土気に向かう 内田百閒「阿房列車」 チバリーヒルズ青春白書 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 100330 千葉県土気に向かう 内田百閒「阿房列車」 チバリーヒルズ青春白書

 3月21日日曜日、千葉県の土気で講演会。17時開始だが、なんと言っても遠いので、14時にはもう代々木上原を出て、東京駅から総武線快速に乗る。総武線快速には「君津ゆき」とか「上総一ノ宮ゆき」とか、ずいぶん遠くまで行くらしいのがある。横浜や横須賀の人から見れば、その行き先の電車はよく利用するけれども、その終点がどのあたりかはサッパリ見当もつかないかもしれない。「籠原ゆき」「小金井ゆき」の湘南新宿ラインといっしょで、「おそらく一生の間に終点まで行くことはないだろう」という電車である。
 土気に行くには、その「上総一ノ宮ゆき」に乗れば、東京駅から乗り換えなしの直通で行ける。おカネさえチャンと払えば、グリーン車にふんぞり返ったままで行くこともできる。今井カニ蔵が選択したのはこのルート。「グリーン車」という選択は何だか成金ぽくてイヤらしいが、東京から1時間近く乗っているのだ。グリーン車料金1000円を奮発しても、車内で少しぐらい仕事をしながら行ったほうがいい。
 それ以外に、京葉線の終点「蘇我(そが)」まで行って、蘇我で内房線だか外房線に乗り換えるルートもある。総武線を千葉で乗り換えて、やっぱり内房線だか外房線だかに乗ってもいい。しかし、そのどちらにしても、途中から6両編成のローカル線にのんびり揺られることになる。どのぐらいローカルかと言えば、内田百閒「阿房列車」のうち「第三阿房列車」の中に「房総鼻眼鏡」という一編があって、日本全国をのんきに鉄道旅行する随筆の一編としてこのあたりが登場する。そのぐらいのローカルぶりである。
 「内房線だか外房線だか」という表現も、何もウワバミ閣下が房総半島をバカにしているとかいうことではなくて、内田百閒がこの鉄道旅行記を書く時につかった表現のマネである。「房総鼻眼鏡」というタイトルは、千葉から内房線と外房線を回ってクルリと一周し、次に総武線と成田線でクルリと一周すると、千葉県の中を2回まあるく回ることになる、千葉駅の鼻柱にして鼻眼鏡をかけたようになる、そういうおどけたタイトルである。
阿房列車1
(内田百閒「阿房列車」。旺文社文庫1979年)

 「阿房列車」を書いた頃の内田百閒は、飼うともなしに飼っていた野良猫ノラが失踪し、やがてそのノラの化身のように現れたクル(シッポがノラより短いだけだったので、ドイツ語の教授だった百閒先生は「クルツ(kurz:短い)」と名付け、それがつまってクルになった)も同じように失踪して、まさに失意のどん底。泣いてばかりでご飯もノドを通らない老先生を慰めようと、昔の学生たちが出版社と話し合って進めた企画である。汽車で旅行さえしていれば、それでいくらか心が慰められるヒトだったのだ。「阿房列車」の冒頭の一節は余りにも有名。いまどこで手に入るかわからないが、ぜひ図書館で借りてでも読んでいただきたい1ページである。
 おやおや、土気で講演会というだけで、年老いた内田百閒の失意を思って泣きそうになってしまう。ノラはお寿司屋のタマゴ焼きが大好き、お風呂のフタの上で寝るのが大好き。そういう野良猫のためにお風呂のフタの上に小さな座布団を置いて目を細め、寿司屋のタマゴ焼きは必ずノラのためにとっておく。そういう野良猫とおじいちゃんの関係は、別にネコが失踪しなくても泣きそうである。ウワバミ将軍もネコ2匹飼っているうちにどんどん涙もろくなってしまった。生まれてちょっとの子猫だったニャゴロワもナデシコも、いつの間にかもう7歳である。最近のネコは20年近く生きるのだからまだまだ大丈夫ではあるけれども、ウワバミ将軍にはイザというとき阿房列車の企画を立ててくれるほどの弟子たちはまだいない。
阿房列車2
(内田百閒「第二阿房列車」。旺文社文庫1979年)

 さて、そういうことを考えて感慨に耽っている間に、わが総武線快速は千葉を過ぎ、土気に近づいた。土気と書いて「トケ」と読む。オジサンギャグの得意なオジサンたちなら、つまり日本中のすべてのオジサン集団なら、「そんな遠くにいくのはやめトケ」と誰かが口走り、「そんなことは言わんトケ」と誰かが返し、「いいから笑っトケ」「うるさいことは言わんトケ」「トケトケしい発言はヤメにしトケ」「下らんギャグは言わんトケ」その他、限りない泥沼に足を取られて、オジサン集団に向けられるOLたちの冷ややかな目はすでにツンドラ状態。有楽町の焼き鳥屋でも、三軒茶屋の飲み屋でも、ツンドラはすっかり凍てついて、どうしようもない状況になっツンドラ。おっと、すみません。
 知らないヒトは知らないだろうが、知ってるヒトは知っている、土気とは千葉の誇る高級住宅街であって、むかしここを住宅地として分譲したときは「チバリーヒルズ」と呼んだものである。チバリーヒルズ、恐るべし。弁護士、医師、大学教授が広壮な邸宅を構え、教育水準は千葉県でトップクラス。成績優秀者も多い。ここを舞台にしたドラマ「チバリーヒルズ♡青春白書」、略して「チバ♡ヒル」は海外でも人気が高い♨。
 余談であるが、「ビバヒル」(チバヒルはさすがに存在しないから)を見ながら英語のリスニング力やコミュニケーション能力を鍛えるのは悪くない。ただし、まあちょっと恥ずかしい。あんまりマジメに見たことはないが、バレリーとかいう名前の激しいアメリカン・ジョシコーセーだったかアメリカン・ジョシダイセイが、友人のパパと、あれま、ホントに友人のパパと、いけないことをしちゃう場面があったような記憶がある(間違いだったらスミマセン。ファンじゃないもので)。日本の首相が宮澤喜一だった大昔のことである(偶然見たのは再放送だった)。今井どんは昨日書いた南浦和の塾の校長先生だった。居眠りしながらそういう唖然とする場面を見て、恥ずかしさにガバとはねおきたものである。
阿房列車3
(内田百閒「第三阿房列車」。旺文社文庫1979年)

 さて、土気での講演会の話になる前に、すでに相当な長さになってしまった。話したいことがたくさんあるので、このまま続けるより、公開授業関連のことはスッキリ明日の記事に任せて、今夜はせっかく本棚から出してきた内田百閒の阿房列車3冊をペラペラめくりながら、のんびり夜更かしすることにしたい。

1E(Cd) Harnoncourt:BACH/WEIHNACHTSORATORIUM 2/2
2E(Cd) Eduardo Egüez:THE LUTE MUSIC OF J.S.BACH vol.1
3E(Cd) Brendel:BACH/ITALIENISCHES KONZERT
6D(DMv) HOW TO MAKE AN AMERICAN QUILT
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