Sun 100328 東大生は留学したがらない 若殿サマは江戸止まり 焼き鳥屋の龍馬待望論 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 100328 東大生は留学したがらない 若殿サマは江戸止まり 焼き鳥屋の龍馬待望論

 昨日の記事で紹介した「オシム 勝つ日本」の著者・田村修一氏は、今も日本より海外で過ごすことのほうがずっと多いらしい。以前はカタールと日本の頻繁な往復で過ごしていたが、今もトルシエとオシムを追って世界中を飛び回る。カニ蔵君だって、負けずにブダペストだプラハだリスボンだバルセロナだと世界中を飛び回っているが、それはあくまで観光旅行の域を出ない。いくら「好きなことをそのまま仕事にした」とはいえ、田村氏のバイタリティには脱帽せざるを得ない。
 ところが、日本の現役大学生たちには、どうもその種の活力が欠けているようである。なかなか海外に出ようとしない。せめてカニ蔵くん程度に旅行でもすればいいのに、ちょっと大学生と話してみても「だって、カネありませんから」と答える。大学生どうしでも「カネねくね?」「めんどくね?」「カネばっか、かかんじゃね?」と疲れた顔でつつきあっているばかりで、その「カネ」なるものを捻出しにアルバイトに励むこともなかなかない。そのうちに「ケッコ、日本にもいい場所あんじゃね?」「それより温泉でのんびりしたくね?」「平城京1300年。1300年も昔は、もしかして未来!?」とか、オジーサマ&オバーサマみたいな落ち着き払った発言をなさる。
おでん1
(東京駅前、丸ビルの中の「湘南おでん」。こういう店で今夜も「坂本龍馬待望論」に花が咲く)

 東京大学の入学式が武道館で行われ、テレビでも新聞でもそのニュースが大きなスペースを占めていたが、画面に映った彼ら彼女らの中に、「秋田高校の16名」や「東進の461名」も間違いなく入っていたのだ。おお、おめでたい。「これがゴールだ」と勘違いして一気にペースダウンするのではなく、東京大学でもおおいに活躍してほしいものだが、新入生へのインタビューを聞いていると、どうもすでにすっかり老成して、早くもペースダウンしはじめているようで心配である。
 朝日新聞4月13日夕刊の「窓/論説委員室から」によれば、東大生は、留学したがらないのだそうである。孫引きで申し訳ないが、東大が発表したデータで、東大生の留学経験率は、文系4.1%、理系4.6%。他大学の平均が文系14%、理系8.1%。文系なんか、東大生の留学経験率は他大学平均のたった3分の1程度である。いかにも朝日新聞らしく、最後の結論は「受験戦争の歪み」とか「一方通行の教育はいけない」のほうにもっていきたがっているのであるが、これはそうやって「塾・予備校のせい」にして終わりにしてはつまらない。
おでん2
(丸ビル「湘南おでん」。店の前の酒樽で立ち飲みもできる)

 東大生なら、海外なんかいってイジメられるより、日本国内にいてチヤホヤされつづけたほうが楽しいに決まっている。もともと「チヤホヤされる地位」を求めて受験勉強に励んだヒトは少なくない。多くの親や教師が「将来チヤホヤされるために、いま頑張りなさい」と6年も9年も子供を激励し続けただろう。それが実ってやっとチヤホヤの絶頂にたどりついた今、何も言葉もマトモに通じない海外に出て、イヤな思いやツラい思いをオカネを払ってまでする必要はない。そう思うのは当然である。
 札幌の北大生や、仙台の東北大生や、福岡の九州大生、彼らの中にも同じような「プチ東大生」が少なくない。札幌で「ボクは北大生!!」という一言が言えれば、あら不思議、東大生よりチヤホヤされる(大袈裟ですか?)。福岡で「オイラは九州大生!!」なら、どんな望みも叶わぬことはない(大袈裟ですか)。要するに封建時代のお殿様みたいなものである。
 そういう封建領主の若殿サマたちが、「江戸に出て、苦労を味わいたい」などと言い出せば、ご家来衆、臣下一同みな涙を流し、領民もズラリと土下座して「若サマ、乱心あそばされたか。決してこの城下をお離れになってはなりませぬぞ」と切腹覚悟で諌言に相務める。そういう精神構造なら、若殿サマは江戸には出ない。福岡や仙台や札幌で我が世の春を4年謳歌するほうがいいと思うヒトが多いとしても仕方のない状況である。
 その「プチ若殿」を東京に平行移動させれば、
「徳川の若殿ともあろうおカタが、巴里や倫敦や羅馬に勉学に行かれるとは。さてはご乱心あそばされたか」
「若殿サマ、紐育や伯林に何を求められる。何としても江戸に留まられよ。江戸で得られぬものなど、何もございませぬ」
ということになる。留学なんかして余計な時間を過ごすのは「けしからぬご乱心」にすぎないということになってしまうのだ。
とりビア
(三軒茶屋と太子堂の中間にある焼き鳥屋「とりビア」。ここでも龍馬待望論の花が咲く。鶏刺しに自信があるらしく、よく焼けたのが好きな今井君はちょいと困る。そのぶん「ウワバミどんが野菜をたくさん食べる」という奇跡が起こる)

 それが2010年の東大生であるとすれば、問題はすでに、優秀な青年たちの精神にある自主的鎖国と言っていい。そんな時代遅れなことはさっさとヤメにして、最初は観光旅行でいいのだから、どんどん海外に出るべきである。しっかりした留学経験があれば、大学3年の春からネズミ色のスーツでシューカツに大汗かかなくても、むしろ社会の側から夢中で求められる人財になれるはずである。
 そういうことを飲み屋で深夜まで話し合っていると、中年サラリーマンの集団と同じようにいつの間にか「坂本龍馬待望論」「勝海舟待望論」になっていく。今年は大河ドラマのせいで、ヒーロー待望論は少なからず専門性を帯びている。「吉田東洋待望論」から「武市半平太待望論」まで、聞き耳を立てているとたいへん幅広い。
 塾講師や予備校講師たちにも「つもり組」や「なりきり組」が激増して、「オレは吉田松陰になる」「ボクは緒方洪庵だ」とか、塾の世界のヒーローになりきったつもりで、こっちでは焼き鳥をムシャムシャ、あっちではおでんをモグモグ、盛り上がることこの上ない。
売店
(モノレール浜松町駅の「売店」という名の売店。ここで缶ビールに缶チューハイを買い込めば、羽田に着くまで車内は「龍馬論」の天下である)

 ところが、東大生もプチ東大生も、みんな賢くて冷静。というより自分の限界をよく知っていて、「そんな夢みたいなこと」とお年寄りみたいな達観を平気で口にする。ウワバミ閣下としてはまさに切歯扼腕である。彼ら彼女らがもっともっと大口をたたいて、海外で痛めつけられて成長してほしいのに、「国家公務員」でも「司法試験」でも「医師」でも、日本で一番優秀な若者たちの目は、「とりあえず国内トップ」「まずは国内での安定した地位の確保」を最大の目標に掲げて入学式を終える。こうして、焼き鳥屋やおでん屋のヒーロー待望論は、オジサマたちのツマヨージの先であえなく死に絶えていくのである。

1E(Cd) Krause:BACH/DIE LAUTENWERKE・PRELUDES&FUGEN 1/2
2E(Cd) Krause:BACH/DIE LAUTENWERKE・PRELUDES&FUGEN 2/2
3E(Cd) Karajan & Berliner:BACH/MATTHÄUS-PASSION 1/3
6D(DMv) BASIC INSTINCT
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