Thu 100311 「世界一の朝食」はホントに世界一か 多様な選択肢を排除するということ | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 100311 「世界一の朝食」はホントに世界一か 多様な選択肢を排除するということ

 昨日の記事では神戸北野ホテルがどう素晴らしいかを力説したのであるが、どんなにいいホテルでも改善点がゼロということはない。北野ホテルに改善点があるとすれば、次の2点である。
(1)部屋が少し狭いかねえ。デスクがないから、デスクワークは無理。
(2)「世界一の朝食」と銘打った朝食が、果たしてホントに世界一と呼べるか、たいへん心もとない。
 (1)は、まあいいことにしよう。部屋の狭さについては言っても仕方がないし、部屋と部屋の間の壁をぶち抜いて2部屋を1つにまとめるような乱暴なことはしないほうがいい。ネットに接続は出来てもデスクというものがないのは困るが、こんなところまで来て仕事をしようと言うほうが悪いのかもしれない。
ねむりニャゴ
(眠るニャゴロワ。もちろん本文とは関係にゃい)

 (2)は、ぜひ改善してほしいと熱望する。たとえば、タマゴ料理にもハムやベーコンにも選択の余地が全くないのである。ゆでタマゴをキレイに割る仕掛けは確かに面白いが、だからといって目玉焼きやスクランブルエッグの選択肢がないのでは、世界一とは言いがたい。「どうしてもゆでタマゴ、それがホテルのコダワリだ」を貫くとしても、それならせめて「ゆで加減」を選びたい人は多いはずだ。
 ハムにしても「何とか産の生ハムでございます」と言って運ばれてきた2枚のハム以外には選べない。チーズとなると、影も形もない。これでは塩気が不足する。そこへ生ジュース4種類が運ばれ、試験管立てのように並べられる。4種のうち2つしかいらないと言うと「変なヒトやわ」という目で不思議そうに眺められてしまった。
 ジャムばかり4種類あって、バター系が見当たらない。似たような甘いパンが「こんなに食べたらパンでパンパンだ」と心配になるほど大量にテーブルにのっけられる。「こんなにたくさんのパンを他の人はどうするのかな?」と思って周囲を観察すると、みんな残ったパンをおっきな紙袋に詰めてもらって持ち帰るようだ。
 しかし今井どんのニラんだところ、持ち帰ったあのパンをホントに食べるかどうか怪しいと思うのである。朝9時の朝食にパンパンになるほどパンを食べて、12時か13時の昼食にまた同じ甘いパンを出されたら、コドモのお腹がパンパンパンになって、パンパン音を立てるじゃないか。ぱん。ぱぱんぱん。
ねむりナデ
(眠るナデシコ。本文とは無関係ニャ)

 こういう「選択肢の少なさ」は、ヒトが自慢に思う部分に生じがちなものである。「こんなに素晴らしいのだ、わかってもらえないはずはない」と独り合点し、独り合点はやがて「こんなに素晴らしいものを理解できないのは、理解できないほうが悪い」「理解できないのは変人だ」と変化していく。確かに「私はパンは持ち帰りません」とカニ蔵くんが告げたとき、ウェイトレスの顔の奥深くに以下のような表情を見て取れた。
「このクマさんは、ちょっと普通じゃないんだ。こんなにおいしい生ジュースも4つのうち2つしか手に取らなかった。パンにもあまり手を付けず、持ち帰りもしない。おいしいジャムにもほとんど手をつけていない。何しにこの北野ホテルに宿泊したんだろう」
 つまりこのときウェイトレスにはわからないのだ。「塩気がほしい」「ハムやタマゴに多様な選択肢がほしい」「パンにはバター系も塗りたい」「固めの丸パンをナイフで切って、いろんなハムやチーズをはさんでムシャムシャ食べたい」「水はスパークリングもほしい」「フルーツに豪快にかぶりつきたい」など、宿泊客のワガママを理解する力を欠いているのである。
龍馬と中岡
(ネコ界の坂本龍馬と中岡慎太郎。太平洋を見つめ世界を思う)

 「自然食がウリ」という店にありがちな、自信たっぷりの店員さんの表情。ウェイトレスに徹するほうが好ましいのに、「普通のウェイトレスとは違います、サービスアテンダントと呼んでほしい」と言いたげな表情。ユニフォームもウェイトレスウェイトレスしていなくて、「今朝とれたばかりの新鮮な野菜を召し上がれ」「レタスって、あまーいでしょ?」みたいなちょっと押しつけがましい態度。その全てが「客は多様な選択肢を求めている」という基本を忘れたサービス過剰であり、「満足してもらいたい」より「教えてあげたい」を重視するようになってしまった錯誤の印なのである。
 理解力の欠如は、自信過剰に起因する。ホテルが「世界一の朝食」を宣伝文句にした瞬間、「ワガママ言うのは変なヒト」「世界一なんだから、客がそれ以上を望むはずはない」という錯誤に陥ってしまう。自信過剰が恐ろしいのは、「慢心が怠慢を招くから」という側面以上に「それ以外の選択肢を無意識に排除してしまう」ということであり、これを昔の言葉では高慢と呼んだ。これほど素晴らしいホテルでも、そういう危険になかなか気づかないものである。
 ネットで予約するとき、チャンと予約が出来ていた新神戸ANAホテルをキャンセルしてまで北野ホテルを選んだ理由も、普段は朝食なんか食べないくせに「世界一の朝食と豪語するなら、食べてみてもいいか」という気になったからである。次に泊まる時までに、ぜひ朝食について、多様な選択肢を提供してくれる方向性に変化していることを期待する。
眠る2匹
(世界を思うのは面倒ニャので、寝ちゃうことにする)

 12日昼頃にチェックアウト。神戸から大阪伊丹へ、伊丹空港から羽田に向かう。伊丹空港の蕎麦屋で「びっくりそば」というのを食べたが、何がどうびっくりなのかよくわからない。まあそれでも朝食に塩気がなかったせいで、びっくりはしなくとも、満足はした。羽田14時着、羽田から新宿までバスに乗って、15時半には代々木上原に帰った。
 ただし、帰ってもまたすぐに出かけなければならない過密なスケジュールである。この過密さが大好きなので、むしろもっと過密であってほしいのであるが、考えてみればここから3月22日まで講演会が連続し、2週間にわたって完全な休みは一日もない。この日も、9日から広島・大阪・神戸と回って久しぶりに帰宅したわけで、ダレスバッグ1つで旅して回る身としては、ここで帰宅して下着なりワイシャツなりを入れ替えないと「これ以上は無理」だったのである。