Wed 100303 3月7日、長崎で講演会 龍馬ブームで混雑 龍馬の魅力が園児にわかるか | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 100303 3月7日、長崎で講演会 龍馬ブームで混雑 龍馬の魅力が園児にわかるか

 3月7日、福岡は午前中まだ雨模様で風も強い。まとめて「荒れ模様」という表現があるが、生暖かい風といい、黒雲が次々と西から東に走る様子といい、荒れ模様を絵に描いたようなお天気なのであった。
 こんな天気では外に出て観光する気にもならないから、昼過ぎまで博多駅前の全日空ホテルで過ごし、窓の外にでっかく迫る代々木ゼミナールを眺めながら(昨日の写真参照)15階「筑紫野」でちょっと贅沢な昼食を楽しんだ。もっとも、せっかく贅沢な昼食を注文しても、夕方から長崎で講演会があるという状況では、アブクの出る黄金色の液体も、お米のエキスを豊かに発酵させたオー・ド・ヴィーも、どちらも御法度である。
 こんな中途半端な食事で、目の前は何が何でも「代ゼミ」。後ろの席は博多弁の中年男女4人組だったが、彼らの話題も「代ゼミ」の看板に刺激されたのか、大学受験に関する誠にとりとめのない会話。1時間もかけてのんびり食事したけれども、ちっとも楽しくなかった。午後1時にはホテルを出て博多駅へ。特急「かもめ」で約2時間かけて長崎に向かった。
長崎1
(3月7日、長崎での講演会。広い会場が完全に満員になった)

 「かもめ」は指定席すべて満員、グリーン車も完全に満員で、大した繁盛ぶりである。おめでたいことはおめでたいが、何だか暑苦しい。坂本龍馬ブームのせいらしい。政治家も学者もサラリーマンも、みんな龍馬になりたいらしくて、最近は飲み屋で隣りのオヤジ連の会話が盛り上がっていたら、まず間違いなく話題は龍馬である。
 「先週の龍馬、見たか?」という話題への入り方は、30年前なら「昨日のスタ誕、見た?」「昨日のナッキー、見た?」という女子中学生の会話と同じ(榊原郁恵「ナッキーはつむじ風」)。40年前なら「チャコちゃんケンちゃん、見た?」「全員集合、見た?」「巨泉・前武、見たか?」の小学生と同じ。25年前なら「今週のスクール・ウォーズ、見たか?」の高校生と同じ。何だか中年の年齢に似合わない軽薄な盛り上がり方に思えるが、冷静に考えてみれば、これはみんな今40代半ばから後半の全く同じヒトたち、テレビ至上の昭和後半を生きてきたヒトたちである。たとえ話題が坂本龍馬であっても、同じ反応になってしまうのはむしろ当然なのだ。
長崎2
(長崎講演会で。盛り上がり、語るクマどん)

 今井カニ蔵くんは、坂本龍馬とは知り合いではないし、日本の歴史小説はあまり読まない。戦国武将や幕末の志士が、みんなファーストネームで呼びあう世界には滑稽すぎて耐えられないのだ。「信玄、待っておれ!!」「信長め、今に見よ!!」「思い知ったか、家康!!」「小五郎、ついてまいれ」、おお、なんとも仲の良いことである。「むふふふ、意次め、腹黒いヤツじゃ」「ナニい!? 直弼どのが桜田門で斬られなすっただと!?」などというセリフを読んだら、深夜だろうと早朝だろうと悲鳴を上げて町内を駆け回りそうになる。
 こんなふうだから、龍馬については無知もいいところである。学部時代のゼミに坂本龍馬かぶれの男がいたが、彼は今や早稲田大学教授になっていて、政経学部で飛ぶ鳥落とす勢いである。ルックスもよくて、有名な学者一族で(つまりたいへん毛並みもよくて)、今井どんからみたら羨ましいかぎりである。龍馬本人でさえ、いい気分ではないかもしれない。
 しかしそういう男が近くにいたおかげで、何となく今井君は坂本龍馬を敬遠して生きてきた。あんなに評判が良くて、あんなに頻繁にドラマや映画に描かれて、カブレる人は山ほどいても悪く言う人なんか誰もいないということは、まず間違いなく超一流の人物なのであるが、アホなウワバミか乱暴な黒クマのような今井君にはどうもよくわからないというか、「で、一体どんなことをしたヒトなの?」と幼稚園児に聞かれたら、完全に言葉につまってしまう。
 「日本をキレイに洗濯したんだよ」では、園児はよくわからないだろう。「仲の悪い者どうしを仲良くさせて、江戸幕府を倒すことに尽力したんだ」では「じゃ、そのエド・バクフって、そんなに悪い人だったの? あと、エド・ハルミはどこに消えたの?」と来られてしまう。「生き方が爽快だったんだ」「いろんな女の人にもてたんだ」では、そのへんの乱暴なイケメンと同じで、園児にはますますわからない。もちろん、園児にわかってもらえるような単純な魅力ではないのだ。
長崎3
(長崎講演会。終了後、花束をもらう)

 ま、そんなクダランことを考えてデレデレデロデロしているうちに長崎に着いた。車窓右側に有明海が広がるあたりから空が明るくなって、「かもめ」が長崎に着くと、駅前には明るい陽がさしはじめていた。風が急に冷たくなったところをみると、前線が通過して気圧配置が冬型になったということだろう。
 講演は長崎ロワジールホテルで開催。19時開始、20時半終了、出席者250名。最初に会場を見たときは、余りの派手さに驚き(だって、でっかいミラーボールつきの巨大結婚式場だったのだ)、かつ「本当にこの会場がいっぱいになるのか」が大いに不安になった。3年前だったか4年前だったか、長崎原爆記念館の中にある大きな会場で講演会を催し、予定の人数の半分ちょっとしか集まらず、ガラガラの会場で恥ずかしい思いをした記憶が消えないのである。
長崎4
(今井どんを一瞬不安にさせた、ミラーボール付のド派手な会場。講演開始約2時間前)

 ところが、始まってみると会場は完全に満員。しかも九州の若者らしいたいへん明るい反応が90分にわたって途切れることなく続いて、気持ちいいことこの上ない。こうなると講師の盛り上がりも最高潮に達し、思わず20分も30分も延長してしまうところであるが、坂本龍馬ほどに偉くなくても、時間厳守を忘れない程度の自制心は今井どんにはキチンと身についている。「15分以上延長すると、最終バスに間に合わなくなる生徒が十数名存在する」と事前に聞かされていたから、あれほど盛り上がっていたのに、延長はキチンと10分に留めた。
 こういうふうで、長崎の講演も大成功。前回の恥ずかしさを全て晴らすことができた。スタッフの皆さんに大いに感謝する。楽しいお食事会のあと、宿泊先のホテルに帰る。「ベストウェスタンプレミアホテル長崎」という恐ろしく勿体ぶった長ったらしい名前の割りには、ロビーに修学旅行の高校生がタムロしている。フロントで尋ねてみると、埼玉の私立高校ご一行様とのこと。ロビーの豪華さ、静かな雰囲気、フロントの対応の優しさ、部屋からの眺望、多くの点で文句のないホテルなのだが、タムロくんたちをもう少しチャンと指導しないと、ホテルの評判を下げることになってしまいそうだ。