Mon 100215 ソフトクリームが食べたくなる 企業戦士という絶滅危惧種の取り扱い | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 100215 ソフトクリームが食べたくなる 企業戦士という絶滅危惧種の取り扱い

 人間も中年になると、ときどき「自分は何をしてるんだ?」と問いかけたくなるほどバカバカしい行動をとっていることがある。2週間前に観た「土偶展」のDOGU・Tシャツがどうしてもほしくなって、ショップだけを目当てに上野の博物館に入ったり(その場合は「ショップ利用のみ」と断れば無料、窓口で無料券をくれる)、そのまま上野広小路に降りていったら有名な甘味処「みはし」をみかけ、凍えるほど冷たい風が吹き荒れているのに、どうしてもソフトクリームが食べたくなったりするのである。

(DOGUのTシャツ)

 ソフトクリームを意地でも食べたくなったのは、おそらく理由のないことではなくて、2月中旬に秋田に講演会で出かけ、小学生時代の日曜日に親に連れられて入ったデパートの写真を撮ってきたことが原因なのである。大好物・金萬も食べた。木内デパートにも本金デパートにも入った。濱之家の高級きりたんぽ鍋も食べた。ショッツル鍋も食べた。それなのに「デパートのソフトクリーム」だけが空白のままに残されて、無意識の深く暗い底のほうから「オレを食べてないじゃないか」「アタシのこと、忘れちゃったの?」「おれを、食えー!! おれを、食うんだあ!!」と重低音で訴えかけていたのである。
 しかし、それだけではない。ソフトクリームならどんなソフトクリームでもいいと言うわけではないのである。必要な要素は3つあって、(1)クリームの濃厚さ(2)よく乾燥したパリパリのコーン(昔は「カラ」と呼んだ)、それに(3)それを支えるアルミの容器。特に(3)のくすんだ輝きがなければ、無意識の呼び声を満足させることは不可能である。

(上野広小路「みはし」、3拍子そろったソフトクリーム)

 夜が更けて、講演が終了した後なら、もう酒をたしなむことも許されるわけだから「自分は何をやってるんだ」というバカバカしい行動もエスカレートしがちになる。千葉方面からでも、横浜方面からでも、代々木上原まで帰るのには必ず東京駅を通るから、深夜の新丸ビルはアホな行動には絶好のロケーションである。
 「えっ!? 千葉や横浜から代々木上原なら、東京駅を通るよりもっと効率的に帰れるんじゃないの?」と疑問に思ったヒトは、まだまだ東京の事情に通じていないのだ。東京駅と千代田線の二重橋駅は、「駅探」その他のPCソフトでは認識されないけれども、がらがらの通路を使ってスムーズな乗り換えが可能であり、ヒトに揉まれることも突き飛ばされることも罵声を浴びることもなしに、気持ちよく電車の旅を楽しむことができる。

(秋田で買ったナマハゲTシャツ)

 で、深夜の新丸ビルの「リゴレット」と「ソバキチ」に入り浸る結果になる。まだ「浸る」というほど浸りきってはいないが、まあよく訪れる。「朝4時まで」という設定は、23時近くから入店する客にとっては安心感が大きい。禁煙席のソファにのんびり座って、蕎麦屋でソバを一切食べることなく、日本酒2合徳利を3本、名物「串天」を6~7本、辛みコンニャク3本、そういうものですっかり満腹する。

(幡ヶ谷で発見した、ナデシコににたオジサン野良猫)

 しかし、それだけではない。「最後のシメに生ビール」、これは欠かせない。「ええっ、シメが生ビール?」というご意見は、やっぱりあんまり食通ではないので、天ぷらでも寿司でもカレーでも、最後のシメに生ビールをグイッとやるから、ノドの渇きもおさまり、翌日にも酔いが全く残らない。
 もっとも、この「ソバキチ」を始め、新丸ビルの店舗が「朝4時まで」の営業をヤメつつあるようなのが、いかにも残念である。全てのオジサマたちのために、余りにも残念。23時の段階で店員たちが焦った顔で「ラストオーダーです」と叫びはじめる。驚くほどイライラしたお姉さまが「とにかくラストオーダー、お願いします」とオジサマたちを叱りつける。その様子は、見るに忍びないものである。

(本物のナデシコ)

 しかし、それだけではない。23時半、まだこれから入店して「シメのソバ、食いたいんだけど」という客は絶えないのだが、もう、「絶対にダメ」なのである。手を合わせて拝んでも「あああー、ラストオーダー、終わっちゃいましたア」で追い出される。
 おお、頑張って残業したオジサマたちのお腹はどうなってしまうのだろう。終電で帰って、1時や2時になって田舎の駅前の寒風に吹かれたら、空腹でどこかに飛ばされてしまうだろう。黄昏の日本経済を支える企業戦士という絶滅危惧種を、もう少しだけ優しく扱ってあげてほしいのだ。今井のシメの生ビールでさえ、結局「帰ってから」にされてしまうのだから、寂しくて涙が出そうになる。