Fri 091211 下北沢の歩き方 泥酔して寝込んでいたキミよ、下北沢はキミを待っている | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 091211 下北沢の歩き方 泥酔して寝込んでいたキミよ、下北沢はキミを待っている

 昨日の続きで書きたかったのは、要するに下北沢の楽しみ方についてである。わざわざ下北沢にやってきて、忘年会でもクリスマス会でも何でもいい、新宿でも渋谷でも六本木でもなく、あえて若者たちがシモキタを選択してそこで酒を飲もうというなら、シモキタのベテランであるこのオジサンの言うことをチャンと聞いてほしい。キミたちは、酔うのが早すぎる。盛り上がるのも早すぎる。酔って盛り上がるのが早すぎるから、帰るのも早すぎる。わざわざ下北沢で飲み会をやって、それなのに安全優先で終電で帰るなんて、最悪なのである。


 シモキタを選んだのなら、終電ではなくて始発で帰るべきである。というか、始発までジックリしみじみ飲むのがシモキタの流儀なので、他の客がみんな迷惑するデカイ声で怒鳴りまくったあげく、終電で埼玉や千葉や神奈川に帰るのは、若者の聖地・下北沢を汚す行為である。いいから、とにかく朝までシモキタに残っていてみたまえ。

 

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(市川カニ蔵 1)


 南口を降りて三軒茶屋方向に5分も歩けば、朝までやっている老舗ジャズ喫茶もある。酒があまり強くなければ、こういうジャズ喫茶でコーヒーを飲みながら、朝まで座っていればいいのだ。ただし、ここのオバサンはコワいので、店の名前は教えてあげない。自分で探したまえ。静かなジャズがかかっているのに、下品な大声で盛り上がったりしていれば、他に客が1人もいなくても外に追い出されるから注意したまえ。下北沢の奥深さとは、そういうことである。


 今もまだ残っているかどうかわからないが、下北沢の奥の奥に「45°」という店があった。おお、今井君がいまネットで調べたら、この店は今でも残っていて、昔と同じように今も評判は悪いようである。何故評判がよくないか、行ってみればすぐにわかる。「下北沢で飲んでみよう」というほどの人なら、ぜひ懸命に努力して、探しあてて行ってみればいい。下北沢から歩いて15分も20分もかかって、必死で探し求めて、それでも容易には見つからない店である。


 誰かが「もう帰ろうよ」と言い出して、みんながそれに同意しはじめる頃やっと「もしかして、あれじゃん?」というヤツが1人いて、それが45°である。ほっとして店に入ろうとすると、何と「ケンもホロロに追い出される」。ボソボソ遠慮がちに言っている店の人の言葉を、誰でもわかるように翻訳すれば「ああ、あなたがたみたいなヒトたちに来られたら、正直言って迷惑です」なのである。

 

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(下北沢「土間土間」で発見した小林麻央のサイン色紙。こんな店に、来てたんですかね。暗すぎます?)


 下北沢というのは、そういうところである。奥に入り込めば入り込むほど、世田谷区と渋谷区のこの上なくイヤラシく洗練された人たちが支配する街なので、そういう人たちにやんわりいじめられるのがコワかったら、町田とか大宮とか柏とか、そういう栄えた街のチェーン店で満足していたほうがいい。


 例えば、今夜の今井君みたいに23時から飲み会に参加して「もうヘトヘト」という人もいる。「もうヘトヘト」だから、地元民でもとりあえず「土間土間」みたいなチェーン店で日付が変わる頃まで大人しく座っている。「座っている」というより、正確には「しゃがんでいる」である。24時までのシモキタは、要するに町田と相模原の高校生&大学生のタマリバに過ぎない。昨日書いたファーストキッチンの前のライブだって、実は下北沢FMの定期ライブである。そういうものに集まってくるのは、残念ながらシモキタ地元民ではない。シモキタ地元民は、日付が変わって、地元民でない人々が終電に乗って帰ってくれるのを我慢してひたすら待ち受けているのである。

 

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(市川カニ蔵 2)


 23時半、土間土間みたいな店でさえ、そろそろ静けさが支配しはじめる。23時までは「飲み放題コース」で大騒ぎしていたグループが、23時半には一斉に帰りはじめるのだ。我々が座っていたテーブルの右側のテーブルなんか、まさに動物園状態。10人いるグループの全員が一人一人声を限りに意味のないことを口々に叫んでいて、聞いている人は誰もいない。中に一人、英語に自信のあるらしいヤツがいて、盛んに「Yes, we can do it!!」と叫んでいる。今井どんが店に入った23時から、彼らが帰った23時半までのわずか30分の間に、彼はそのセリフを6回叫んだのである。それを数えていた人物のヒマさ加減にも脱帽だが、我々としては、それを数えるぐらいしか耐え忍ぶ方法がないぐらいの大騒ぎだったのだ。


 我々の左側にも動物園があって、彼らが終電に乗るために帰ったのは、その10分後、23時40分頃。こんなふうに10分刻みで帰って行くのは、乗るべき終電の時間のせいである。どうも、何だか、可哀想。いいから、終電なんか気にしないで、せっかくシモキタに来たんだ、朝まで飲みたまえ。この時期なら、4時半の始発まで座っていても、外はまだまだ真っ暗だ。「朝帰り」などという罪悪感を感じることも、全然ないでげすよ。

 

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(市川カニ蔵 3)


 シモキタが新宿や渋谷と違うのは、そういうところである。ジャズ喫茶POSY(ありゃありゃ、店の名前を言ってしまいましたが)でも、45°でも、静かな声で延々と議論する若者たちなら、朝までチャンと受け入れてくれるのである。動物園のサルみたいに酔っ払ってデカイ声で怒鳴ってばかりいるなら、シモキタはヤメといた方がいい。ミジメになるだけである。午前2時でも3時でもコーヒーを飲みながら、ミルトン・ナシメントやヴァン・ダイク・パークスについて語れるなら、ぜひ下北沢に来たまえ。そこで会ったオジさんは、きっとそういう若者が大好きで、昼近くまでキミ以上に熱心に語って、最後に「珉亭」のラーメンをおごってくれるだろう。


 午前1時、「土間土間」でさえ静まり返って、残った人々はそういうタイプの人たちばかりである。こうなれば、たとえチェーン店でも「POSY」「45°」と雰囲気は同じ。雰囲気が同じなら、何も店を代える必要はない。朝4時まで営業の店で、みんな安い酒を飲みながら、何を語っているのかわからないけれども、演劇関係の人、音楽関係の人、芸能関係の人、それぞれが小さなサークルの中で静かに熱く語り合って、どんどん夜は更けていくのであった。

 

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(市川カニ蔵 4)


 午前1時半、お勘定をしていると、我々のテーブルの右側、23時半に帰ったはずの「飲み放題」グループのテーブルで、30歳そこそこの若者が泥酔して一人眠りほうけている。明らかに、仲間たちに呆れられ、放置され、彼一人このまま始発までテーブルにヨダレを垂らし放題垂らしながら過ごすのである。


 よしよし、眠れ、眠れ。何にも心配しないで、いいから、そのまま、眠れ、眠れ。キミをここに放置して終電で帰ったような冷たいヤツらに、今後一切義理を感じる必要はない。すべてを忘れて、眠れ、ひたすら眠れ。こんなになるまで酒を飲むなんて、キミは大したヤツだ。目が覚めたら、これからは飲み方をもっと訓練して、少しだけ大人になりたまえ。シモキタは、キミのような人間をいつでも受け入れるのである。眠れ、眠れ。眠って、疲れを癒して、明日からまた仕事に全力を尽くして、また疲れたらシモキタに来たまえ。ただし、一人で。下北沢とは、そういう場所である。