Tue 091208 受験生も「勝ち4、負け1」で勝ちグセをつけよ 応援のマナーを徹底させよ | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 091208 受験生も「勝ち4、負け1」で勝ちグセをつけよ 応援のマナーを徹底させよ

 6日の早稲田vs明治戦は(スミマセン、昨日の続きです)14時キックオフ、15時40分ノーサイド。前半は圧倒的に明治優位で試合が進み、14対3。後半早稲田が追い上げて、残り10分を切ったところで逆転、最終スコア16対14。早稲田は薄氷の勝利で、それでも対抗戦優勝が決まった。前半の明治優位から、結果としての早稲田勝利まで、ほぼ想定通りである。「主力をケガで欠いていた」というより「無理をさせずに温存した」のではないかと思われる早稲田の前半の動きは緩慢。一方の明治は気合い十分で、モールを30m近く押し込んでとった1本目のトライも、大きく横に展開してとった2本目のトライも、文句のつけようのないものだった。


 翌日のスポーツ新聞各紙をみると「明治、予想外の善戦」という書き方がほとんどだったが、本当のところは「今まで隠れていた選手個々の力が見事に引き出された」のである。もともと1人1人を見れば、元高校日本代表級の選手が揃っている。高校時代の実績を比較しても、早稲田の選手たちに少しも見劣りしないラグビーエリートばかり。明治大学進学後にどういう理由でその芽が伸びなかったのか、むしろ不思議なほどである。昨年に続いて今年も、その力が11月末までうまく引き出されず、12月の早稲田戦になってやっと個々の華やかな素質が実を結んだ。2年前、早稲田71点、明治7点で惨敗した姿はウソのようであった。

 

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(試合終了後、優勝を祝う選手たちと、中高年の目立つスタンド)


 こういう姿を見ていると、育て方の問題を感じざるを得ない。「主力を出さなかった早稲田を見て大いに発奮した」ということはあるだろう。しかし同時に「これなら、いけるぞ」と相手をのんでかかったときの人間の強さも、考えてみた方がいい。すっかり自信をなくしていたかつてのエリートたちが、久しぶりにすっかり相手をのんでかかって、いかにものびのびとプレーしたときに、どれほど自信が戻るものか。しかもいったん自信を取り戻しさえすれば、どれほど力強くなれるか。圧倒的に不利なはずのモールを押し込む彼らの笑顔や、圧倒的に不利なはずのバックスに展開してボールを回す彼らの笑顔や、少なくとも前半終了までの明治のプレーヤーの迫力から、「とにかく自信を取り戻させてやる」ということの重要性を痛感したのだった。


 かつて自分が名プレーヤーだった人ほど、自信を喪失した人間がどれほど萎縮してしまうか、なかなか感じ取れないものである。実力以上のチームと練習試合を繰り返し、そのたびに惨敗し、しかもそのたびに激しい叱責や罵声を浴び、そうやってどこまでも萎縮すれば、かつてのエリート集団もあっという間に縮み上がって普通の集団になってしまう。萎縮させるより、どんどん勝ちグセをつけて、いい気になるところはどんどんいい気にさせて、どんな相手でものんでかかれるようにしていけば、もともと大きな素質をもっているのだ、その素質は周囲の期待以上に大きく膨らんでいくだろう。

 

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(ノーサイド10分後の、あまり嬉しくなさそうな早稲田の選手たち)


 まあ、予備校講師であるから、ついつい何でも受験に結びつけてしまうのは申し訳ないが、「勝ち4に、負け1」という割合が、若い人間が最も育ちやすいのではないかと思う。数字には何の根拠もないが、とにかく「勝ち4に、負け1」。私大模試とかセンター模試とか、比較的ラクな模試を4つ受けて、相当いい気になって、模試も仲間ものんでかかれるようになったところで、油断の芽を抑えるために難関大模試を1コだけ挟む。


 こういうのは、受験生もその指導者も心がけてほしいことである。受験生はぜひ大いに自分を甘やかして、勝てる模試4、負けるかもしれない模試1、そうやって、自分が傷つきすぎないように注意深く選択するようにすること。指導者も同じである。難問集、難関大模試、大学「で」の数学、無理とわかっている英語速読、そういうものをやらせて苦しむ生徒を眺め、自分だけ自己満足に浸っているのは、あまりいい趣味とは思えない。


 受験と離れた自由時間にそういうものに取り組むのは問題ないが、受験などというものは、もっと地味に、勝てる見込みのある相手を注意深く選んで、着実に勝つ練習を日々積んでいけば、最強の相手にも安定して勝てるようになるものである。受験の世界の「最強」なんか、だってせいぜいで東京大学でしょ? 3000人も合格するわけよ、あれ。甲子園でPL学園と横浜高校と中京大中京を連破して優勝しなきゃいけないわけじゃないんだから、もっともっと肩の力を抜いた方がいいですね。


 勝ちグセがついて、「勝つのが当たり前」と思っているところにガツンと1回だけ惨敗するから、惨敗からでも学ぶところが多い。明治のラグビーを見ていると、難敵とばかり練習していて、スクラムは押せない、接点でも勝てない、キック合戦ですら負ける、負けて当たり前、どうせダメ、いくらやっても罵声、「お前たちなんか、昔の明治に比べたらクズだ」とコーチにもマスコミにもたたかれ、ネットでも冷やかされる。そういう集団が常勝軍団になれないのは当たり前である。


 一方、今回は何とか勝ちはしたが、10年続いた早稲田の黄金時代がほぼ終わりを告げたのもまず間違いない。清宮監督の遺産は、ここまででほぼ使い果たしたようである。ほんの2年前、フォワードの圧倒的有利の前提で大活躍した選手たちはほぼ卒業してしまった。畠山、豊田、矢富、曽我部、首藤、今村、五郎丸、あのころの日本代表級の選手を揃えた華やかさは、もう昔話である。2007年1月大学選手権決勝で、圧倒的有利の下馬評だった早稲田を破って意気上がる関東学院大学・春口監督は「スターはいらない」と断言したが、いや、そんなことはない、スターは必要である。ぜひ来年に向けてスターの育成とスターの発掘に努めてほしい。

 

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(ノーサイド15分後のスタンド、すでに陽が翳りはじめている)


 最後に2つ。
(1)早稲田の星野の活躍がうれしかった。星野のお父さんは、かつて早稲田SOとして、特に「ドロップゴールの名手」として有名だった人。ゴール前のスクラムで、星野がちょっと下がって構えると、「おお、ドロップゴール行くぞ」と、大歓声になったものである。その息子が4年生になって、控え選手としてではあるが、後半目覚ましい活躍を見せてくれた。おおいに嬉しいとともに、予備校講師として20年近くなってくると、昔の生徒の「息子世代」「娘世代」の登場を覚悟しなければならないことを自覚。精進、精進。そういうことである


(2)学生応援に修正点があると思う。どちらとはあえて言わないでおくが、相手側のペナルティゴールに対して「はずせ!! はずせ!!」の大喚声が上がったのである。応援団がプレッシャーをかけて、キックをはずさせようということであるが、そういう応援は、ラグビーではNGである。確かにキレイゴトではあるが、相手チームのプレーにネガティブに反応してはいけないのがラグビーである。


 サッカーなら、相手PKに対して、ブーイングや応援旗を振っての妨害、罵声、ヤジ、まあそれもOKであって、「選手とサポーターが一体になっての勝利」も悪くない。しかしそれはあくまでサッカーの話。ラグビーは違う。レフェリーの判定に不服のジェスチャーもNG。相手のファウルを派手なポーズでアピールするのもNG。まして観客がそういう行動をとるのは許されない。


 ぜひ大学サイドからそういう指導をしてほしい。社会人チームもそういう努力をしてほしい。鳴りモノをつかったり、応援団全員で声をそろえての応援などは、ラグビーの世界に持ち込まない方がいい。我々は2019年にワールドカップを開催する国の国民であって、ラグビーのマナーをしっかりわきまえたフェアな観客を育てるのは、ラグビーチームをもつ団体の責務でもあると信じる。ま、古くさいことは、確かに古くさいんですがね。