Wed 091110 祇園おかだ 常連さん 京都タクシーのカフカ的世界1(度を超した不機嫌) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 091110 祇園おかだ 常連さん 京都タクシーのカフカ的世界1(度を超した不機嫌)

 11月6日、大和西大寺での講演終了後、京都に戻って、ウェスティン都ホテルのコンシェルジュから予約してもらった「祇園おかだ」で食事。「祇園で、22時すぎでも食事できる店を」とコンシェルジュに頼んだら、20件ぐらいの店のリストを示された。「らんぶる」「間」「隠」「浜松屋」「おかめ」など、すでにこのブログで紹介した店もリストに入っていたが、「おかだ」は初めてだったので、ここを選んだ。詳しいことは知らないが、おそらくつい最近まで「いちげんさん、お断り」の店だったのが、コンセプトをかえて一般向けにしたという、まあ流行の店である。


 祇園南側、花見小路から3本目の通りに左に入るが、なかなか見つからない。電話をして、店の人に出てきてもらった。1階のカウンターに10席ほど、寿司を中心にした懐石風の店である。カウンターの真ん中に座る。焼き物、蒸し物、その他料理は豊富で、「居酒屋なら任せておけ」という今井グマには嬉しいメニューである。左に4人、ズラッと並んでいた中年女性のグループは、旅行に行くならイタリアかギリシャかポルトガルかをきわめて乱暴に論じあった挙げ句(「ギリシャは野蛮な国だ」と主張する人が議論の中心だった)、あっというまに帰ってしまった。彼女たちはシャンペンを飲んでいた様子であった。

 

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(「祇園おかだ」のコースター)


 店に残ったのは、カウンター右奥に席を占めた中年男である。常連らしい。常連が、常連らしく、常連であることを他の客に隠さずに、常連として店主とベタベタするのは、何だかイヤなものである。店は悪くないし、ぬる燗の日本酒も、揚げ銀杏も、土瓶蒸しも、みんな美味。「のどぐろの煮物」などは、いかにも京都らしい薄味で、東京の濃すぎる真っ黒い味付けに辟易している私などには絶品に思えるのだが、この常連のおじサンの存在が、とにかく残念。料理が旨いぶん、そのぶんだけ残念である。


 話を聞いたところでは、というより聞かされたところでは、どうも食べ物関係のライターさんらしい。「京都&大阪ミシュランのライターは実は自分だったのだ」「アルファロメオに乗るのはヘンタイだ」「京都のウェスティンホテルは、最近落ち目かもしれない」「また半年したら来ます」とか、まあそういう感じのおカタ。「こんど本を出すことになった」と、いかにも嬉しそうに盛んに自慢し、店主とその助手に4杯でも5杯でも酒をおごって飲ませ、「ありゃりゃ、そんなに飲ませたら包丁が握れなくなるんじゃないの?」とこちらが心配になる頃、店の人みんなに見送られ、意気揚々とタクシーを呼んで引き上げていった。もって他山の石とすべきおカタである。

 

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(祇園おかだ、23時半頃 1)


 11月7日、朝は6時半に起床して、京都駅に向かう。早稲田祭への出演があって、11時半には早稲田大学の16号館控え室に着いていなければならない。昨夜「祇園おかだ」で飲んだ5合の酒の酔いが、この早起きのせいで復活して、多少頭が重いけれども、それはそれで自業自得である。文句を言うなら自分に言うしかないのだが、せっかくだから昨日の「常連であることを隠さない常連おじさん」にも不平不満の矛先を向けることにした。だいたい、ああいう面倒な常連さんがいるから、こっちまで日本酒を短時間でがぶ飲みせずにはいられなくなるのである。
 

 新幹線の時間が迫っていたから、ホテルから京都駅までタクシーに乗る。京都でタクシーに乗るのは、運転手さんとの会話が煩わしいことが多いが、それは十分覚悟の上である。この煩わしさには、ほぼ正反対を向いた2種類のベクトルがある。

(1)やたらに機嫌の悪い無口な運転手さんを、これ以上怒らせないように、危険な沈黙をひたすら耐え続けなければならないケース
(2)やたらに話し好きな運転手さんを怒らせないように、あくまでご機嫌をとりつつ、ヘラヘラしながら話をあわせなければならないケース

 

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(祇園おかだ、23時半頃 2)


 このうち、今井君は(1)のほうが得意。京都駅前や夜の祇園界隈で、長い時間客待ちをしていたタクシーに、短距離の行き先を告げるような場合に多いケースである。京都駅で「ブライトンホテルまで」「四条河原町まで」「祇園、花見小路」などと言ってみたまえ。一切無言で激しくドアが閉まり、カーブでは後ろの座席で真横に倒れそうになるほど力強くハンドルを切り、他のクルマが少しでも気に障れば、これ以上ないぐらい大きな音で舌打ちを繰り返し、舌打ちのせいで奥歯でも抜けないか、虫歯の赤黄色い膿がジュルっと吸い出されないか、そんなことまで心配になるほどである。


 ただし、何があろうと頑固に沈黙を守るのは、むしろこっちの得意ワザである。これだけ相手の機嫌が悪いと、思わず気が弱くなって「おつりはいりません」などと口走ってしまうところであるが、京都駅から祇園まで、960円のところ1000円札を出して、運転手の機嫌が悪ければ、そのぶんこちらも意地になって釣り銭40円を確保する。2時間も3時間もじっと客待ちをして、「祇園」と言われたショックは分かるけれども、そこはちゃんとプロ意識を持つべきなのである。今井君は、こういうときには冬眠中のツキノワグマの本領を発揮して、完全に無神経に行動できるのだ。むしろ特技と言っていいほどである。


 さて、今日はすでに長くなりすぎた。自分で決めた「A4版で2枚まで」は守らないとまずい。「長過ぎる」と文句を言われるのもまた、大いに面倒である。タイプ(2)については明日詳述することにしますか。