Sun 090920 慌てふためいた速読は、何の役にも立たない じっくり繰り返し味読すること | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 090920 慌てふためいた速読は、何の役にも立たない じっくり繰り返し味読すること

 さて、書く約束になっていたものは書き終えて、やっとのことで書店に並ぶことになる。いったい「書く約束」をいつしたのかと言えば、代ゼミから東進に移籍する相談をしていた2004年12月中頃である。あれから5年近くが経過している。だいたい私は「書く約束」をしてから先が長いという悪いクセがあって、今回などはまだまだいいほう、最悪だったのは研究社に「書く約束」をしたまま、とうとう約束を踏み倒した形で終わってしまった「時事英語の速読法」である。


 あの企画は、世界史の大事件を英字新聞風の記事の形式で書き、その記事の速読法を解説しようというもの。「シーザー、ついにルビコンを渡る」とか「東ローマ帝国、トルコに屈する」とか、まあそういう大見出しに続けて、その翌日の朝刊記事のつもりのオリジナル英文を50ほど書き、その記事の速読法を自ら解説するという企画であった。平成8年に約束して、翌年には出版の運びになる予定だったのが、5年経過しても6年経過しても一向に原稿は進まず、10年後、ついに出版社からサジを投げられた。

 

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(勉強熱心だ 1)

 

 ただ、あれは無責任に執筆を放棄したのではなくて、「速読法」というものに極端に懐疑的になったのが原因。私が駿台や代ゼミで大きな顔をするようになったキッカケがパラグラフリーディングで、「今井と言えば、パラグラフリーディング」「今井と言えば、速読」という感じの代名詞的存在になった時代があり、一部のごく優秀な生徒たちの中では大人気を博したものだった。代ゼミから出したパラグラフリーディングの解説書も合計10万部が売れ、「鼻高々」もいいところ。上に書いた「時事英語速読」企画にしたところで、出版社としては「速読人気にあやかろう」という考えだったのである。


 ところが、その私自身が2000年を過ぎる頃から速読やパラグラフリーディングについてすこぶる懐疑的になってしまう。少なくとも高校生の段階で、英語を学びはじめてわずか4~5年しか経過していない生徒たちが、速読とか何とかリーディングとか言ってスピードばかりを重視し、理解度100%という理想を捨ててしまうのは間違いなのではないか。いや、大学生になったって、社会人になったって、「半分わかればいい」「何となくわかればいい」というダラしない発想(というか、実際には一種のあきらめ)に支配されて、「テキトーに読みとばす」という態度に堕してしまうのはいいことではないのではないか。そういう懐疑である。

 

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(勉強熱心だ 2)

 

 少なくとも、ものを書く立場に立つと、「とにかく読みとばせ」「わかってもわからなくてもいい」「だいたいわかればいい」「大切なのはスピードだ」と言い含められて、いつでも落ち着かない目つきでキョロキョロ大慌てになっている読者というものは、ありがたい存在ではない。1行1行あれだけ丁寧に四苦八苦して書いたのだから、丁寧に四苦八苦して読んでほしい。ものを書く人の本音はだいたいのところ同じだろうと思う。アメリカ人のライターなどで「スローな読者はキライだ」と発言するヒトがいないことはないが、おそらくそれは四苦八苦して書いていないせいである。


 いよいよ書店に並ぶことになる「英文法教室」上下巻を撫で回しながら感じたのは、「これは近来稀にみる良書だ」ということである♨ 自分で読み返して、随所で感嘆の声を上げる♨
「comeとgoの判別」
「speak/tell/talk/sayの判別」
「付帯状況with X+Yについて」
「連鎖関係代名詞VV’タイプ」
「stillとyetとalreadyの区別」
「onとaboutとwithの区別」
「withoutとinstead ofの区別」
などは、感嘆の声が隣町まで響くほどである。今井君は1日中代々木上原で感嘆の声を上げたのだから、きっと今頃、下北沢でも渋谷でも表参道でも雷鳴が鳴り響くような有り様だろう。

 

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(新聞も、全て読破)

 

 まあ、冗談はさておき、この本は絶対に読みとばしてほしくないし、速読なんか絶対やめてほしい。高2や高1なら、1日1章ずつでいいから、1行1行味読すべきである。それでも11月末に英文法が一通り完成するのだ。受験が近い人でも、すぐに購入して毎日2章ずつ味読すれば、10月末には読了する。その後は、バスの中や電車の中や休み時間や、あらゆる時間を利用して二読三読すれば、受験は間近に迫っていても、まだまだいくらでも実力はつくのである。

 

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(キャッチコピー「きっと試験会場に持参する」の帯つきで)

 

 「英文法教室」の帯には「きっと試験会場に持参することになる」というキャッチコピーがついている。さすが、元広告代理店社員の今井君。キャッチコピーも自分で考えた。しかし、これは冗談でも何でもないのだ。超長文が出題される早稲田でも慶応でも、問題量がどんどん増えているセンター試験でも、東大をはじめとする国公立大でも、必要なのは「じっくり勉強すること」。そうやってじっくりつけた実力でなければ、勝負にならない。タケミツばかり100本もっていても、1本の名刀の前では勝負にならないのと同じことである。


 スピードばかり追い求めて理解度が低いままでは、どうせ大したことにはならない。高校でも予備校でも、じっくり解説してくれる授業をじっくり予習しじっくり復習する。参考書で勉強するならじっくり繰り返し味読する。そういうしっかりした実力をつけるということが勝負の要であって、キョロキョロ落ち着かない避難訓練みたいな勉強は、傍で見ていて滑稽なだけである。