Mon 100201 秋田・川反の「濱乃家」できりたんぽ鍋 「中華でいいべ」の思い出 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 100201 秋田・川反の「濱乃家」できりたんぽ鍋 「中華でいいべ」の思い出

 2月12日夕方、以上のような経過を経て、横手から秋田駅前に帰還。ここからしばらくは淡々と事実のみ記していく。とにかくいくらでも寄り道するのが大好きなので、寄り道クマどんは、せっかくウィーンの3日目にクマどんの分身を置き去りにして、身を切られるような思いで2月の講演会ラッシュの様子を書きはじめたというのに、今度は秋田での寄り道を詳述しはじめ、たった2日の秋田滞在の話ですでに1週間も経過してしまった。 
 ありあまる才能(もちろん冗談ですが)をもてあまして雑談にふけっている姿は、デカイ肉体を冬眠の穴の中でもてあましているクマどんを思わせてなかなか可愛い(もちろん冗談ですって)が、読まされるほうは「こんなヤツと付き合いつづけることに果たして価値があるのだろうか」と、だんだん不安なり怒りなりが込み上げてきてしかるべきである。ただし、ブログやtwitterのフォローに「価値」というモノサシを持ち込むこと自体に間違いがあるように思うのだが、そのことは問わないでおく。
 おお、いかんいかん。何しろtwitter全盛の時代である。140字、激しい感情を正直に正面に押し出したツブヤキや、面倒な自省ぬきのサエズリが世論(せろん)を支配する世の中で、こんなに長々と駄弁を弄していると、それだけで批判の対象になりかねない。秋田から京都に移動する一晩のことを、せいぜい簡潔に呟いて、事実のみサエズって、気の短い人たちにゴマをすることにしたい。
 横手から秋田まで羽後交通の「特急バス」で1時間半。秋田駅に戻ると、すでに夕暮れである。「夕暮れには夕食」というのが人間社会の決まりなので、さっそく「濱乃家(はまのや)」に移動、きりたんぽ鍋と日本酒でよく暖まることにする。「吹雪の夜はきりたんぽ鍋と日本酒」、これは秋田の人間社会の決まりで、誰がどんなにがさえずっても、この決まりを変えることは困難である。

(秋田・川反の名店「濱乃家」のきりたんぽ鍋と、カラにした徳利5本)

 秋田駅から名店「濱乃家」のある川反までは、タクシーに乗れば2~3分。しかしそういう乗り方はタクシーの運転手さんにとって「そりゃ、お客ハン、殺生でっせ」である。なぜ関西言葉なのかよくわからないが、客に正面からお説教調で不平を言えるのは関西の運転手さんぐらいだから、まあそうさせてもらいたい。秋田駅前には長いタクシーの列ができていて、しかし長いのはクルマの列ばかり、客の方は滅多にやってこない。こんな吹雪の中で2時間も3時間も待っていて、やっと乗ってきたツキノワさんにワンメーターの場所を命じられては、そりゃ「殺生でっせ」である。
 そこで、何しろ「勝手知ったる秋田」である。十数年ほとんど訪れていない街であっても、高校生まで18年生活していたのだから「勝手知ったる」であること自体は全く変化がない。駅前にいくらでもやってくるバスのうちの1台、ちょうどそこにいた「新屋行き」に乗り込めば、確実に川反に連れていってくれるはずだ。
 で、自信たっぷりでバスに乗り込んだのであるが、残念ながらこれが間違いであった。「木内前」を過ぎたところで、予想しなかった方向に急カーブ、気がつくと川反とは正反対の方向へ。慌てて次のバス停で降りることになった。
 もっとも、だからこの選択が失敗だったかと言えば、旭川をわたった「通町」のバス停付近を、懐かしい店々を覗きながら散歩することができて、ま、不幸中の幸いだったのである。秋田は、腐ってもさすがに城下町である。城下の老舗には、由緒でも情緒でも、新興のベッドタウンなど絶対に追いつけない風情が残っている。その一つが、写真の金物屋「通町山下」。店構えは変わっても、看板だけはこんなふうにキチンと残したものと見える。

(金物の老舗「通町山下」の看板。カニ蔵が小学生の頃から、古びたこの看板がかかっていた)

 おお、またまた話がそれていく。で、川沿いの道を夕暮れの吹雪を避けながら10分ほど歩き、ようやく「濱乃家」にたどりついた。「濱乃家」は、いかにも地元の名士が集まりそうな由緒ある料亭であるが、気楽に入れるレストラン風の店舗を併設していて、今井どんが選んだのはこっちである。午後5時半、まだ他の客が誰1人いない店舗に入って、久しぶりの本格的きりたんぽ鍋を注文した。まだ暖房がサッパリ効いていなくて、いくら何でも寒すぎるのが難点だが、まあそのぶん鍋物と熱燗の日本酒が引き立てられる。そういう演出だと思えば、寒いのも悪くない。
 最近は六本木や銀座に秋田料理の専門店「なまはげ」が展開して、東京でもきりたんぽ鍋を楽しめないことはないが、どうもあれはメニューから推測して青森県か岩手県のヒトがやっているらしい。秋田料理としてはニセモノ臭いところが拭えないのだ。
 「濱乃家」は秋田の店の中でも群を抜く有名店であって、秋田の地元のおばさまがテーブルで煮込んでくれるきりたんぽ鍋はさすが。出汁が余りに旨いので、きりたんぽ2本さらに追加。気がつくとテーブルには日本酒の空徳利が5本キレイに並んでいた。銘酒「新政」3本と「高清水」2本、すべて熱燗で、旨かった。

(新政3本、高清水2本。熱燗でたっぷり暖まった)

 秋田人としては、「濱乃家」で食事をするのは1つの人生の晴れ舞台。ましてや子供や中学生高校生の入れるような店ではない。小学生の今井クンは「そういう名店が存在するらしい」というウワサを両親から聞き、実物としてより現象として認識していたに過ぎない。日曜日や祝日の晴れの食事は、デパートの3階にある食堂がせいぜい。「木内デパート」か、まだ大町にあった「本金デパート」の食堂で、ホットドッグにソフトクリームが定番であった。
 両親は「中華でいいべ」「中華でいいわ」という合言葉で、「中華そば」つまりデパートの食堂独特のラーメンをすすった。昔の外食は、その程度のものだったし、今のようにどこにでもラーメンのうまい店が見つかったわけではない。「コヨイのヒトシナは、肉汁たっぷりのチャーシューと、あまーいモヤシが特徴のチヂレ麺。開店以来注ぎ足してきた秘伝のスープがよくからんで、のどごしは意外にサッパリ」みたいなめんどくさいことは一切言わずに、「中華でいいべ」「中華でいいわ」が最高の幸せだった。単純で、カンタンで、涙が出るほど楽しかった。

1E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS(1)
2E(Cd) Haydon Trio Eisenstadt:JOSEPH HAYDN:SCOTTISH SONGS(2)
3E(Cd) Norah Jones:COME AWAY WITH ME
6D(DOp) ライプツィヒ市立歌劇場:MOZART/DIE ZAUBERFLÖTE
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