Sun 090830 ニューヨーク滞在記13 ハーレムに出かける 橘外男 ハーレムとは何か | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 090830 ニューヨーク滞在記13 ハーレムに出かける 橘外男 ハーレムとは何か

 「ハーレム」というと、トルコのスルタンが支配する「とってもいけない場所」で、スルタンのいけない欲望の犠牲になる美女たちが、やたらお風呂に入ったり目一杯お化粧をしたり、けだるい格好で横たわったまま召し使いにでっかいウチワであおいでもらっていたり、そういう場所と勘違いするヒトもいるかもしれない。東京の北青山に「HAREM」というトルコ料理店があって、欠点といえば「ワインの値段が高すぎないか?」と首を傾げることぐらい。雰囲気も味もサービスなかなかいいのだが、うっかり「きのうハーレムに行ってきた」とか雑談のついでに口走ったりすると、バカな友人なら「うわ、今井~~♨、そんな店に出入りしちゃ♨~、ダメだろ♨~」とイヤらしい顔でニヤニヤしてみせる。「うひっひっひっ!!」とか、死語的笑い声をさえもらしかねない。


 バカなヒトはホントに困る。30年もつきあった友人でも、「今井はその手のことに全く興味を持たない奇妙な聖人君子である」ということを、未だに認識できていない。うーん。ただし、むかしむかしスルタンの支配する「いけない場所」でどんなことが起こっていたか知りたければ、中公文庫「コンスタンチノープル」(橘外男)を読むといい。橘外男。あまり知っているヒトはいないだろうが、明治生まれ、工員とか店員とか、いろいろな職を点々としながら腕を磨いた、叩き上げの作家である。昭和13年に直木賞を受賞している。おお、大昔の人である。

 

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(中公文庫「コンスタンチノープル」)

 

 「コンスタンチノープル」はこの作家の代表作、なかなか面白い小説である。もう絶版になってしまったかもしれないが、海賊にさらわれたイギリス人女性が、どんなふうにスルタンの犠牲になり、どんなふうに絶望し、どんなふうに脱出を試み、どんなふうにハーレムでのし上がっていくか、たいへん濃厚に書いてあって、「いけない場所の様子を覗き見してみたい」という読者のちょっといけない興味をちゃんと満たしてくれる。今井君は前の段落で明記した通りの「聖人君子」だから、もちろん「いけない興味」などゼロどころかマイナスなのだが、純粋に勉強のために読みふけった♨。 

 

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(「コンスタンチノープル」表紙に描かれたスルタン。聖徳太子にも似ているが、今井君にも似ているような ... )

 

 ニューヨークのハーレムは、もちろんそういう話とは全く無縁の場所である。チューリップの栽培で有名なオランダのハーレム市という街があって、そこからニューヨークにやってきた移民たちが住んだ場所だから、ハーレムと呼ばれるようになった。かつて「園芸都市」「農芸都市」を目指したオランダのハーレム市の様子は、アレクサンドル・デュマ「黒いチューリップ」を読むとよくわかる。「三銃士」「モンテ・クリスト伯」の作者デュマは、祖母がアフリカ系という19世紀フランス動乱の時代の国際人。「椿姫」の作者デュマ・フィスのお父さん。「フィス」とは「息子」のことである。

 

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(タイムズスクエアの地下鉄入り口)

 

 ありゃりゃ、なかなか話が進まない。もっとマジメにニューヨーク滞在記を書かなければならない。で、ある雨の朝、「冷たい雨の降る、クリスマスのハーレムを見てこよう」と思い立った。「~い~ま~い~、オマエもなかなかやるな~。いけないヤツ♨。」とヨダレを垂らしているニヤけたバカバカしい友人は、東京の片隅に捨てて、置き去りにしておくほうがいい。滞在先のホテルから、地下鉄4/5/6号線に乗って、30分余りひたすら北上し、125丁目で降りればそこがハーレム。ハーレムはAPOLLO THEATERとかレノックス・ラウンジで有名なジャズとアフリカ系音楽の街、まあ「言わずと知れた」である。

 

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(地下鉄4号線、125th STREET駅)

 

 地下鉄A/B/Cラインか1/2/3号線の急行に乗れば、59丁目の駅で停車したあとは、全ての駅を通過していきなり125丁目に到着するのだが、それでは乗り換えが面倒だ。これも後で述べる機会があると思うが、宿泊していたのは「キタノ・ニューヨーク」。ここからだと、レキシントン・アベニューの下を走る4/5/6号線に乗ったほうが遥かに便利なのである。出かけたのが27日だったか28日だったかの午前10時。リンカーン・センターのお上品な娯楽にすっかり飽き飽きして、ちょっと危険でエネルギッシュな街を走り抜けてきたい、そう思っていた。