Sat 090704 ふくねこタクシー 東急セルリアンタワーのメインバー ドラマの舞台が整う | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sat 090704 ふくねこタクシー 東急セルリアンタワーのメインバー ドラマの舞台が整う

 まだまだ昨日の続きなのであるが、ゴルフクラブを握っていた右手のマメが潰れ、「おお、痛い」の右手にバンドエイドを巻いて、雨のゴルフ場を後にすると、外は夜の神宮外苑である。神宮球場の野球も国立競技場のサッカーもない夜の神宮外苑は、夜9時を回れば人影は少ない。まして、断続的に雨は強くなり、暗闇を活用してデートにいそしもうというカップルの姿はない。都会の真ん中にポッカリ浮かんだ離れ島の闇の中を走りすぎるタクシーも少ない。しかしゴルフのせいですっかり酔いが醒めてしまったのだから、これからもう1度改めて飲みなおさなければならないことは間違いない。


 「金曜日の夜だけれども、あえて渋谷で酒を飲もう」というのが今夜の決意だったのだ。酒を飲みに出て酒に酔わずに終わるのは、夏期講習を申し込んで実力がつかずに終わってしまうのと同じことである(実は全く別のことである)。酒を飲みに出て筋肉痛とバンドエイドがその思い出になるのでは、夏期講習代をシコタマ払ったのに予備校の教室で出会ったカレシやカノジョの写真がケータイの待ち受けになって残るのと同じ空しさである(実は全く別のことである)。そういう空しさを許してはならないとすれば、これからでももう1度渋谷に出て、しっかり飲みなおさなければならないのは自明の理である(実は全く自明の理ではない)。


 なかなか通らないタクシーを傘をさして待ち、大手タクシー会社の1台が乗車拒否をして悠然と走り去り(というより、真っ暗すぎて気がつかなかったのだと思いたいが)、雨の中もう2~3分待たされて、やっとのことで止めたタクシーが「ふくねこタクシー」。聞いたこともないタクシー会社だが、とにかく「タクシー飢饉」というか「タクシー日照り」というか、喉から手が出るほどタクシーを求めていたところだったから、その会社がどこだろうと構わずに乗り込んだ。

 

1452
(ネコの配線屋さん)


 ところが、「ふくねこ」チャンは、「いくら何でもそりゃないだろう」というぐらい何も知らない運転手さんの運転だった。「新人なもので」という言い訳が通じる場合と通じない場合があって、神宮外苑でつかまえたタクシーに「渋谷駅前、東急セルリアンタワー」と言って「何ですか、それは?」と聞き返されたのでは、度肝を抜かれる。大阪で「道頓堀」、名古屋で「栄」、福岡で「長浜の屋台村の入り口」、そういう場所を告げて「そりゃ、どこですか?」と真顔で聞き返されたようなものである。ますます酔いが醒めて、飲みなおすことにますます気合いが入っていくのだった。


 で、苦労して行き着いた「東急セルリアンタワー」だが、メインバーは40階である。セルリアンとはceruleanであって、「ジーニアス英和辞典」を引くと「青空色」、「ロングマン現代英英辞典」ならa deep blue colour like a clear skyである。青空色のタワーは、昼間見てみてもちっとも青空色ではないが、まだ新しいから、中身は綺麗である。入り口が地下と1階と2階の3カ所にあって、一見便利なように見えるのだが、逆に、私のように空間図形に弱い人間(そのせいで東大入試の数学は1問も解けなかったのであるが)にとっては、いったいどこがどうなっているのか記憶しにくい難点がある。しかしまあ、とにかく最上階のメインバーならば、地下の入り口から入ってエレベーターに乗りさえすればいいのだから、間違いようがない。東京から博多行きの新幹線に乗って、「終点までじっとしてなさい」というようなものである。そういう「お子様一人旅」もどきの探し方で、雨の降る世田谷の夜景がキレイなメインバーに向かった。

 

1453
(よくわからない)


 どこのバーでも、バーでは必ずカウンター席に座りたい。そういう趣味なのだからしかたがない。「カウンターが空いているか」と聞くと、「10分待ってほしい」と言われ、早くも筋肉痛が始まった腕と、マメのやぶれた傷跡からバンドエイドに血液だかリンパ液だかが滲みている右手とをさすりながら、外のソファに座って大人しく待ってみることにした。


 「大人しく待つ」という行動自体がクマどんとしては大いに珍しいのであるが、何せ首都圏のターミナルというターミナルにデカデカと指名手配写真みたいなのを大量に貼り出され、テレビを見ても電車の車内広告でもたくさんのCMフィルムが流れている身である。そういう状況でいつものように強引に席に割り込んだりすれば、「世間さま」に何を言われるか分かったものではない。行動を慎み、控えめな生き方をするのにも、広告ポスターやCMフィルムはプラスに働いてくれるものである。


 ところが、10分経過して自慢げに通された席は、なんとテーブル席である。「カウンターが空かないから10分待て」と言われて、素直に10分待って、それで通された席がテーブル席では、いくら「控えめな生き方を心がけて10分が経過したばかり」とは言っても、黙っていられるはずがない。しかも「アイスワインはありますか」の問いに対して「グラスワインならあります」などと答えるフザケタ従業員を雇っている。「では、アウスレーゼは?」と聞いてはじめて「ちょっとベテラン」が横から顔を出し「アウスレーゼはボトルでしかお出ししていない」という。これはもう仕方がないだろう、いつもの強引さを復活させることにして、大いに強引にカウンター席をあけさせ、押し入るように席を占めて、「その、ボトルでしかお出ししていないとかいうアウスレーゼを出してください」ということになった。

 

1454
(ねむる配線屋さん)


 この時点で、私の左側の席が1席だけ空いていて、その向こうはカップル。カップルのいちゃつきかた(これはすでに死語かねえ)が余りにもダラしなく、ブザマに濃厚で、見ていて情けない。バーのカウンターだというのに、大量の料理を注文して、しかもそれをほとんど食べ残して、おそらく2時間も前から(料理の変色ぶりと乾燥の仕方から判断)いちゃついて(使いながら感じんですけど、やはりこれは完全に死語ですね)いたらしい。男子も女子もメッタヤタラにタバコを吸い、男子が女子にしなだれかかって(逆にしたほうがいいと思うんですけど)、延々と仕事の自慢話を続けている。


 このカップルと私の間にポッカリ空いた1人分の空席が、これから語るドラマの舞台なのだが、ドラマを語るにはすでに今日は長く書きすぎた。この後3時間余りにわたって続くドラマについて語るのは明日にしたい。

1E(Cd) Preston:BACH/ORGELWERKE 2/6
2E(Cd) Preston:BACH/ORGELWERKE 3/6
3E(Cd) Preston:BACH/ORGELWERKE 4/6
4E(Cd) Preston:BACH/ORGELWERKE 5/6
5E(Cd) Preston:BACH/ORGELWERKE 6/6
8D(DvMv) MULHOLLAND DRIVE
13A(α) 倉橋由美子全作品4:新潮社
total m26 y1074 d3317