Thu 100114 ガイドブックなどに見かける「冷ややかな姿勢」と「治安情報中毒」 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 100114 ガイドブックなどに見かける「冷ややかな姿勢」と「治安情報中毒」

 話はどこまでもそれていったけれども(すみません、一昨日と昨日の続きです)、だから今井くんは「自分の生徒は自分で集める」という若者の姿勢は大好きである。ウィーンの若いミュージシャンが「自分たちの観客は自分で集める」という姿勢で夢中になるのも、また結構だと思う。むしろ「おお、頑張ってるな」「冷たい視線を浴びても、めげずに努力を続けたまえ」と、いかにも偉そうに「ナニサマのつもりだ」みたいな声をかけたくなったりする。もちろんナニサマ?と聞かれたら「オレサマ!!」と答えるまでのことである。
 ただし、いつの世の中でも、こういう活動は最初のピュアな志をいつの間にか忘れ、間違った方向に逸脱したり、逸脱するメンバーが発生したりしがちなものである。ウィーンの彼らも、熱心にチケットを捌き、熱心に観客を集めることに夢中になるあまり、ふと寂しくなった一瞬、ナンパ的な言辞を弄し、ナンパ的行動に走り、「女性をカフェにしつこく誘った」「会場の出口でまちぶせしていた」事例が見られるようである。「要するにナンパ目的?」のような声がガイドブックに掲載され、だから「ご用心を」「相手にしないほうがいいです」「声をかけられても返事をしてはいけません」その他、誠に残念な冷たい忠告の洪水につながってしまう。

(ブダペスト、確かにちょっとショッキングな地下鉄)

 こういう「冷たい」というか「冷ややかな」姿勢は、旅行用ガイドブックに溢れているばかりでなく、日本人の世論全体の傾向になりつつあって、オジサン=オレサマどんはちょっと心配である。今回の旅行で立ち寄ったブダペストやプラハについて、ガイドブックでは、
「タクシーの運転手の3割が何らかの犯罪に関わっているとのこと。空港やターミナル駅には悪質なタクシーの客引きがいてしつこく誘ってきますが、決してダマされてはいけません」
「ボクは客引きにダマされて相場の2倍ぐらいの料金を請求されました。」
「駅で客待ちしているタクシーに乗ってはいけません。ニセ警官と結託して日本人のパスポートを狙っている人たちもいます」
など、たいへん評判が悪いのである。

(ブダペスト到着前1分、ちょっとコワそうな風景)

 そういう「治安情報」を事前にネットでいろいろ検索したり、ガイドブックを飛行機の中で拾い読みしていったおかげで、何だかひどく「おっかなびっくり」になってしまうヒトは少なくないだろう。しかし、あんまりそういう情報ばかり集めていくと、結局ツアーバスに頼り、ツアーバスと日本人のガイドから片時も離れずに、多摩動物公園や富士サファリパークのライオンバスで「ホントにライオンだ、おっかねえ」とか騒いでいる園児たちよろしく「ホントに、ホントに、ホントに、チェコ人だあ」「ホントに、ホントに、ホントに、ハンガリー人だあ」とか叫びながら、ビクビクして旅行する羽目になる。
 カフェでケーキを注文するにもガイドさん任せという若い集団をブダペストで目撃したが、ああいうのが「治安情報中毒」の典型的症状。治安情報は、伝える側も受ける側も、ぜひホドホドにして、海外ではもっとおおらかに過ごしたい。悪人なんかそんなにいないものである。駅や空港がそんな悪人ばっかりで「3割は犯罪関係者とのこと」などというのは、相手国をバカにしているとしか思えない。

(カフェ「ジェルボー」ブダペスト本店のお砂糖)

 「相場の2倍も請求されました」と言っても、何も身ぐるみ剥がされたわけじゃなし、1000円の2倍で2000円払ったって、別に死にはしない。地下鉄の中で強盗にあってコワい目にあったならまだしも、「タクシー」などというたいへんなぜいたくをしておいて、そんなイヤなことを後から日本人の仲間内でコッソリ言わなくてもいいんじゃないか。
 「相場の2倍」の「相場」なるものが、いったいどこから出た情報なのかもよくわからないし、駅や空港から乗れば運転手の待ち時間分が上乗せ、大きなスーツケースを持っていればそれも上乗せ、そういう料金システムでいろいろ上乗せすれば(特にそれが近距離なら)「相場の2倍」ぐらいになっても大した不思議はない。治安治安とうるさく言うけれども、自分で危ないところや怪しい店に足を踏み込まないかぎり、そんなに治安ばかり心配する必要はないのである。

(治安情報のあふれるブダペスト・ケレティ駅)

 カニ蔵どんがブダペスト駅からホテルまで乗ったタクシーの運転手は、どうも仲間たちから少しバカにされているタイプ。客待ち中に居眠りしていて、後ろの運転手に窓をたたかれ、デカイ声で怒鳴られ、寝ぼけマナコでふらふら運転を始めた。英語は話せない。それでもどうしてもカニ蔵くんにシナゴーグを見せたかったらしいのだ。
 途中に他の名所旧跡もたくさんあったのに、そこは無言で通過。しかしシナゴーグが近づくと身体半分こちらを振り向いて、シナゴーグだ、シナゴーグだ、と嬉しそうに笑うのである。要するにその宗教のたいへん熱心な信者なのだが、その熱心さは決して「ダマされてはいけません」「3割が犯罪に関わっています」で片づけてしまってはいけない暖かさを感じさせるものだった。

(ブダペスト・ケレティ駅、特に治安情報の集中しているあたり)

 あれだけ死にそうに爆笑したモモヒキ・パントマイムだって、スタンダードなクラシック演奏とともに、あんなに少人数で間近にエンタテインメントを楽しめたのだから、やはり素晴らしいことなのである。外国人観光客としては、「ご用心」「ダマされてはいけません」「無視するにかぎります」と言ってメッタヤタラに警戒するより、暖かく見守り、暖かく楽しみ、暖かく笑って、エンタテインメントを楽しめばいい。もちろん演ずるほうも、むろん最初の志を忘れてはならないのは当たり前のことである。
 塾の若い先生方も同じことで、逸脱しないように常に厳しく自戒しつつ、どんどん頑張って自分の生徒を増やしていけばいい。自信があるなら、営業したまえ。営業こそ、もっともクリエイティブな活動である。授業の上手な先生は、営業活動も上手なはず。自分の長所と短所を知り尽くし、それをわかりやすく説明できる先生が、いい先生でないはずはないのだ。そういう先生方なら、たとえ大学生のアルバイト講師でも、クマどんは大いに応援したいと思うのである。

1E(Cd) S.フランソワ& クリュイタンス・パリ音楽院:ラヴェル/ピアノ協奏曲
2E(Cd) Paco de Lucia:ANTOLOGIA
3E(Cd) 寺井尚子:THINKING OF YOU
4E(Cd) Billy Joel Greatest Hits 1/2
7D(DMv) STAND BY ME
12A(α) 倉橋由美子全作品8:新潮社
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