Tue 090616 講演会で春日部へ 渕岡さんのファンである「準備万端など、くだらんのだよ」 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 090616 講演会で春日部へ 渕岡さんのファンである「準備万端など、くだらんのだよ」

 19時から春日部で講演会。15時、少し早めの千代田線で代々木上原を出て、北千住で東武線に乗り換え、春日部には16時半についた。天気予報によれば、夕方から関東南部は激しい雷雨の可能性があるということで、朝からNHKニュースでは天気予報士の渕岡さんが小さな声を震わせ、真剣な顔を真っ青にして「しっかりした傘が必要でしょう」と訴えかけていた。予報通り、夕方の春日部は厚い雲に覆われてすっかり暗くなり、今にも雨が降り出しそうである。というか、東武伊勢崎線が草加や越谷を走っている頃にはすでにポツポツ降り出したらしくて、高架を走る電車の車窓から見ると、自転車をこいで走るオバサンもオジサンも傘をさしはじめていたし、川面にもたくさんの小さな波紋がたくさん見えていた。春日部駅を出て西口の寂しい商店街に出ると、今日の雨粒は大きくて冷たいようである。


 渕岡さんの予報は、見事に的中したのだ。私は渕岡さんの大ファンである。朝6時台のNHKニュース(ただし「おはよう日本」というタイトルはいただけないが)を見ていて、キャスターが「渕岡さーん!!」と呼びかける声が聞こえると、何はともあれテレビの前に駆けつける。今朝の渕岡さんは、どんな危険を、どれほど心を込めて、どんな表情で訴えるのか、それに真剣に聞きいるのが日課である。この間の風の強い雨の朝には、ビニール傘を吹き飛ばされそうになりながら、懸命に「今日の雨がどれほど警戒を必要とするか」を訴えていたし、マイクにも(全く動きがないのに、何故かヘッドセットなのだ)強風が吹きつけてゴーゴー音を立てていた。

 

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(逼塞)


 渕岡さんの真骨頂は、冬の寒い朝である。12月、1月、朝6時台はまだ真っ暗である。日の出前が一番暗く、日の出前が一番寒い。物音さえ凍りついた静かな寒さの中、NHK前に立ち尽くした渕岡さんが、真っ青と真っ白の中間の痛々しい顔をこわばらせながら、今朝がどれほど寒い朝なのかを訴えかける時、その様子を見て思わず涙を誘われない人が存在するとは思えない。誰だって、身につけられる防寒具は残らず身につけて外出しようと決意するはずだ。だから、すっかり蒸し暑い季節になって、少なからず残念である。渕岡さんから痛々しさが消えてしまったのだ。余裕たっぷりの渕岡さんは、決して真の意味の渕岡さんではない。


 しかし、それでもさすがに渕岡さんである。少しでも寒ければ「羽織るものを1枚もっていくと安心でしょう」、少しでも雨の可能性があれば「折りたたみの傘をもてば安心でしょう」、5月の連休が終わってツツジの花が満開になっても、濃いピンクのコートを着てマフラーを巻いた姿で「昼は暖かくても、朝晩は急に冷え込みますから、注意が必要です」。そういう万が一の警告を意地でも怠らない。「急に暗くなったら、洗濯物は早めに取り込みましょう」。「遠くで雷が鳴ったら、落雷に注意しましょう」。おお、当たり前すぎて、余りにも面白い。ファンにならずにいられる人が、信じられないぐらいである。


 問題は、彼女の言うことをいちいち真に受けていたら、荷物がどんどん増えてしまうことぐらいである。鞄が1個余計に必要かもしれない。これから気温が上がってくれば、ひたすら「こまめな水分補給をこころがけること」「熱中症にならないように外出を控えること」、とにかく徹底的に用心を呼びかけてくれる。その大袈裟な用心の呼びかけが、冷静に考えると面白すぎる。

 

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(手ぐらい出しても大丈夫だ)


 朝のニュースは「JR」や「日本道路交通情報センター」のお姉さんたちも、文句も言わずに毎日毎朝同じセリフを言いつづける誠実そうな人ばかりで大好きだ。特に「JR」は「○時●分現在、首都圏のJR各線は平常通りの運転です」しか言わないのに、いちいち名前まで画面に出してもらって、得意そうな表情が健気である。しかしその中でも、渕岡さんの誠実さは、まさに特筆に値する。


 あの誠実さに応えるのに、鞄1個増えるぐらいで文句を言っているのはワガママである。ぜひ、折り畳みガサ、しっかりした傘、羽織るもの、レインコート、水分補給のためのお茶に水、暴漢に襲われた場合の非常ブザー、突然の食糧危機に備えてカンパンに缶詰、道がぬかるんだら大変なので長靴か登山靴、路面凍結に備えて靴の滑り止め、そういう避難用品みたいなものをキャスターバッグに残らず詰め込んで、毎日ゴロゴロ転がして歩くべきであり、それを良心的な国民の義務とすべきである。


 ただし、私自身はワガママの権化だから、警告は警告として誠実に聞くけれども、オススメの傘も水も羽織るものも持たず、鞄さえ持たずに外出する。雨が降れば、濡れればいい。濡れるのにも風情がある。Tシャツ1枚で寒ければ、寒さを訴えて震えるか、寒さ凌ぎに走り回ればいい。寒くて震えるのにも趣きがある。腹が減れば、お腹がグーグーいう音を聞いて苦笑すればいいし、路面が凍結すれば、滑って転んでみんなで笑えばいい。そんなに用心ばかりして固まっていないで、「at your own risk」ということにして手ぶらで出るほうが楽である。ありゃりゃ、警告を聞かない自分が悪かったねえ、と言って大笑いするほうが楽しいし、ストレスゼロの人生を送れるはずだ。「何でもかんでも準備万端、などというのは、下らんのだよ」というのが、熊を喰らうオジサンの人生観である。

 

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(自分でも、よくわからない)


 そういうわけで、春日部での講演会の話になるかと思ったのに、天気予報とJRと日本道路交通情報センターの話で終わってしまうのも、また楽しいことで、いちいち反省するにはあたらない。話がそれれば、それたことを楽しめばいいだけのことである。1990年代の河合塾「講師マニュアル」には「授業中の脱線も、大いに結構です」とあった。そのぐらいの余裕がないなら、予備校なんかで教えてはイケナイし、生徒だって脱線を楽しむぐらいでなければ成績はあがらない。切羽詰まった表情は渕岡さんに任せて、こっちはワガママに楽しく生きるほうがよさそうである。


 なお、「道路交通情報センター」という名称は、何故か「伸ばす音」が多い。「どーろこーつーじょーほーせんたー」とひらがなで書けばよくわかる。テレビやラジオのニュースで、ただでさえ早口のアナウンサーが大急ぎで読むと「どろこつじょほせんた」にしか聞こえない。実に楽に生きている私は、朝のニュースを見ながらでも、この「どろこつじょほせんた」が出てくるたびに手を叩いて爆笑する。受験生諸君だって、マジメな顔でノートをとっているばかりでは苦しいはずだ。脱線しても、「どろこつじょほせんた」でも、爆笑するゆとりがカギになる季節に入ってきたように思う。

1E(Cd) Zagrosek & Berin:SCHREKER/DIE GEZEICHNETEN 2/3
2E(Cd) Zagrosek & Berin:SCHREKER/DIE GEZEICHNETEN 3/3
5D(DvMv) THE BOURNE ULTIMATUM
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15G(α) 塩野七生:ルネサンスの女たち:中公文庫
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