Fri 090529 自称「鳥のエサ」 ひき肉・モヤシ・ミックスベジタブル 醤油の香りに救われる | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 090529 自称「鳥のエサ」 ひき肉・モヤシ・ミックスベジタブル 醤油の香りに救われる

 自称「鳥のエサ」についても、書いておかなければならない。ただし、呼び方は控えめでも自分では最も気に入っていて、松和荘での4年間で何十回となくこれを作り、何十回となく命を救われた。比較の対象が対象だから、「一番気に入っていた」と言ってももちろん程度は知れているが、当時のふてくされた精神状態と、ふてくされた生活実態の中では、裸電球の灯る台所で、プロパンガスが切れて使えなくなったガス台を横目に、冷蔵庫の上に置いた電熱器で作る「鳥のエサ」が、肉体と精神の拠り所になっていたと言ってもいいかもしれない。ずっとブログを読んでくれた人なら、すでに場面が手にとるようにわかるはずである。新聞屋が来るたびにグラグラ揺れる2階の部屋、裸電球、すぐ横には汲み取り式トイレ、蝶番が外れガムテープで補強したトイレのドア、隣りの住人の嬌声と怒鳴り声、失望してほぼ出席をヤメてしまった大学の授業、全力を尽くさなかった受験勉強に対する後悔、迫ってくる大学の試験。そういう追いつめられた精神状態で、「鳥のエサ」ほど温かい食べ物はなかった。

 

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(まぶしいって言ってんじゃん)


 戦友は、真っ黒いフライパン、ちょっとやそっとでは熱くならない電熱器、どんなに工夫してもうまく飯の炊けない炊飯器(当時は「電気釜」と呼んだ)。製氷室でかちんかちんに固まった豚ひき肉を、フライパンにのせて、それが融けるまでに15分以上かかる。融けたら、マーガリンを少々。不承不承にジュージュー言いながら肉の色が変わってきたら、モヤシ一袋と、とかしておいた冷凍食品のミックスベジタブルをフライパンに入れて、炒める。

 

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(しつこいね、おっさん)


 「炒める」と言っても、そう簡単なことではない。600Wの電熱器は、とにかく働くのがイヤ。「せっかく肉をジュージュー言わせてやったのに、何でそんな変な野菜みたいなのを入れてジャマをするんだ。妨害するなら、働いてやらない」といってムクれてしまう。野菜クンたちにとっては「ちょうどいい湯加減」になって、炒めたいのに炒められない。やがてモヤシからも「ベジタブル」からも大量の水が出始める。ほんわか湯気も立ち上って、気がつけば「炒める」変じて「茹でる」という世界。それでも、立ち上る湯気が源泉の熱湯よろしくもうもうと上がって地獄の風情なら悪くないのだが、残念ながら、あくまで「ほんわか」である。甚だ意気上がらない。

 

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(しつこいって、言ってんじゃん)


 こうして30分、出来上がったものを皿にあけて食す。塩、コショウ、いろいろ試してみたが、一番温かみを感じるのは、醤油だった。「茹で上がった」湯気がまだ上がっている皿に醤油を注ぐと、醤油の香りが湯気に混じって、食欲をそそらないこともないのである。
 最後にタマゴをからめることもあった。もちろんタマゴをからめるには、フライパンの温度がある程度以上確保されなければならないから、この場合は「からめる」というより「生タマゴをかける」という感じ。ひき肉とモヤシと角切りのニンジンとグリーンピースとコーンを炒めたり茹でたりした上から、温かい生タマゴをかけ、醤油味でかき込む男子大学生を想像してみたまえ。最近は「どん、つけ!!」とか「永谷園のお吸い物で、一人鍋」とか「ウーロン茶づけ」とか、それなりに男子大学生の自炊もカッコよくなっているが、昔の自炊の姿はこんな感じだった。

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(うぜ、無視しよ)


 これを「鳥のエサ」と呼んでいた。納得できないまま大学に進み、図書館にこもり、終電どころか始発まで酒を飲むことも多くなり、銭湯があいている時間に帰らないから風呂にもマトモに入れなくなり、生活も心もそれなりに荒れはじめたころだから、「鳥のエサ」の醤油の香りに救われたことは少なくなかった。ただし、途中から「ミックスベジタブル」を「コーンのみ」に変えるようになった。ニンジンとグリーンピースが口の中でゴロゴロする感覚が、ミジメさをいっそうつのらせるような気がしたからである。

1E(Cd) George Benson:IRREPLACEABLE
2E(Cd) Deni Hines:IMAGINATION
3E(Cd) DRIVETIME
4E(Cd) Tuck & Patti:AS TIME GOES BY
5E(Cd) Joe Sample & Lalah Hathaway:THE SONG LIVES ON
6E(Cd) Joe Sample:RAINBOW SEEKER
7E(Cd) George Duke:COOL
10D(DvMv) THE GODFATHER partⅢ
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