Wed 090527 いよいよポークハワイアンへ 惨事は、大惨事に 胃袋と忍耐力の鍛錬 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 090527 いよいよポークハワイアンへ 惨事は、大惨事に 胃袋と忍耐力の鍛錬

 で、松和荘に帰って(昨日の続きです)、いよいよ「ポークハワイアン」の開始になる。まず電熱器でフライパンを温める。フライパン、これが今もし残っていたら写真を掲載したいようなシロモノである。戦後の焼け後に転がっていたのを拾ってきたような、真っ黒焦げのヤツなのだが、まあそれでもフライパンの役には立つのだ。概して私は物持ちがよくて、大学生当時使っていたキッチン用品でいまだに残っているものもある。ドンキホーテがかぶっていそうな金盥(「かなだらい」と読む)、正式名称「ボール」がそれである。「ツルマル印」のでかい鍋、同じメーカーの黄色いアルミのヤカンなどというのもあったが、引っ越しを繰り返すうちにどこかへ消えてしまった。


 だから、真っ黒焦げとはいっても、このフライパンだって頼りにしている相棒であり、戦友である。愛着は深い。しかし、愛着がいくら深くても、いくら愛嬌のある相棒でも、電熱器クンがちゃんと働いてくれないとお話にならない。2分も3分もかけて不承不承に赤くなってきた電熱器クンにフライパンをのせ、「簡単レシピ」通りにバターをひとかけら。ところが、バターは一向に融けてこない。

 

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(大空を駆けめぐる)


 バターというか、正式名称「雪印ソフトマーガリン・ネオ」。ネオだなんて、流行中のNHKサラリーマンみたいなヤツである(今放送中のNHK版ネオは、前シリーズと比較してイマイチというか滑りすぎだと思うが、ここで話をそらすわけにはいかない)。コイツが、生意気にも黒いフライパンの縁にこびりついたまま、「おや、私を融かす気ですか。そうですか」と言って涼しい顔をしている。5分して、ついに耐えきれなくなって表面に滑り落ちていくのであるが、それもたいへんしぶとく、たいへん不承不承に、リキッドタイプのターミネーターが融けた金属の池に落ちて絶叫しながら融けていくのよりも、もっとずっと強情に、あと少しというところで丸くなっていつまでも粘っている。


 そういうマーガリンちゃんの地獄の苦しみを見ながら、こちらは豚肉に小麦粉をまぶし、黒砂糖をふりかける。外はすでにトップリと陽が沈み、腹の中では午後3時に飲み込んだグラタンとピザトーストがすでに消化されて、腹の空くこと甚だしい。こうなると、全てが憎い。豚肉め。小麦粉め。黒砂糖め。男の料理め。融けろ、融けろ、地獄の中でバターよ、融けろ。その祈りと呪いが功を奏して、ついに待つこと10分、融けたマーガリンちゃんが断末魔の声をあげ始める。そこに、下準備の済んだ豚肉を入れ、消費電力600Wの恐るべき脅威にさらす。

 

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(大空を駆けめぐる・拡大図)


 しかし、600Wの脅威は、豚肉くんにも通じない。彼は、一向に焼けようとしないのだ。実際フライパンは、素手で触っても耐えられそうな感じ。もちろんそんな危険なことはしないけれども、豚肉くんもしっかり耐えている。マーガリンちゃんだって、まだ融け残っている。5分経過しても、「表面の色が、少しだけ変わったかな」である。このあたりから、大惨事が表面化してくる。「肉からはがれないように」という「レシピ」にも関わらず、小麦粉と黒砂糖との薄い皮膚が次々に豚肉くんに別れを告げて、ヌルいバターの海に出て、単独の冒険を始めるのだ。30分経過。豚肉、小麦粉の皮、黒砂糖のカタマリ、3者は完全に分離して、バターの中をいかにも仲悪そうに浮遊している。


 面倒だから、「この際、炒め物にしちゃおう」という、自暴自棄の自殺行為にでる。もうどうしようもない、もう取り返しはつかない。自暴自棄の自殺行為とは、いつでもこの程度の滑稽な行動である。で、もちゃもちゃ、メチャメチャにかき混ぜて、さて最後に困ったのは「あけてしまったパイナップルの缶詰」である。「ムダにするのはいけない」のは当たり前。「やりかけたことを、途中でヤメてはいけません」は小中学校以来の恩師たちの教え。大学生は、そうした常識や教えに導かれつつ、最後の大勝負を決意、惨事を大惨事に変える。「豚肉と小麦粉の皮をヌルい油でとろとろ煮た」という惨事のシメに、「その上からパイナップルジュースを100mlかけて、さらにどろどろ1時間煮る」という恐るべき行動に出たのだ。

 

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(大ジャンプ)


 21時少し前、大惨事はついに完成。最終的には、パイナップルのジュースが煮えて、恐ろしいほど甘い煮込みの汁の中で、豚肉と小麦粉のベラベラが浮いたり沈んだりする、一風変わったすき焼きのようなものが2時間半ほどかけて完成したのである。では、その恐るべき「すき焼きもどき」を、買ったばかりの新鮮なタマゴにつけて食するだけの勇気があったかと言えば、それは全く別の話である。最終的には「レシピ通りにしよう」と心を決め、お椀の中の煮込み料理に、ついでだからパイナップルを一切れ泳がせて、楽しい晩は静かに更けていった。こういう生活で、胃袋はよく鍛えられ、忍耐力にも立派な力こぶができた。その2つは、今でも自慢である。

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