Wed 090520 松和荘201号室の間取り プロパンガスと電熱器と裸電球の記憶 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 090520 松和荘201号室の間取り プロパンガスと電熱器と裸電球の記憶

 そういう松和荘で(昨日の続きです、ずうっとずうっと、続いています)、南向きの4畳半を生活の中心にして生きていた。4畳半と台所の間の、細長い4畳間(4畳間とは珍しいが、畳の長いほうの1辺をくっつけて、ごく普通に4枚並べたもので、そういう部屋(正式名称では「長4畳」と呼ぶ)の奥のほうに、スチール製の安い本棚6個を向かい合わせに3個ずつ並べた。何故か机が2つあって、スチール製のものと、木材を釘で打ち合わせただけの粗末なもの。その机2つを「長4畳」の部屋の西向きの窓に並べ、木の机にダイヤル式の黒電話を置いた。昭和中期が舞台のドラマでよく見かけるアイツである。あの時代でさえ、さすがにもう珍しくてなかなか見かけることはできない時代物だったが、風呂敷包みにコロンボコートの男なら、そういう電話が似つかわしかったのである。こうして、早稲田の図書館に行かなくても、松和荘201号室でも十分読書のできる戦闘態勢は整えていた。

 

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(ネコは、聞いている)


 それでも、起床が夕方になってさえも、意地でも早稲田まで出かけることが多かったのには、食べ物の問題があったかもしれない。駅の近くに大きなスーパー(マルエツ)があって、「自炊」ということも可能。しかし男子大学生の自炊などというものが、1年も2年もしっかり継続性をもつことは、まず期待できない。


 まず、ガス台の問題があった。松戸は「京葉ガス」。しかし松和荘だけは都市ガスが通っていなくて、使えるのはプロパンガスである。プロパンガスは、使ったことのない人にはわかりにくいのだが、ガスをタンク単位でガス会社から買い取って使用する。タンクは大きいものから小さいものまでいろいろあるのだが、ガス台1個だけ、しかも松和荘という環境、滅多に料理なんかしない使用頻度から、201号室で注文できるのは1番小さなタンクである。これが小さすぎて、しょっちゅう空っぽになってしまう。空っぽになれば、その時はガスは全く使えない。ガス会社に電話して、タンクを取り替えてもらわなければならないのだ。

 

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(タイトに寝ても、聞いている)


 もともと自炊を楽しんでやっているわけではない男子大学生(私のことであるが)は、それだけのことで限りなくメゲてしまうのである。重い腰を上げて、「さて、仕方ない、飯でもつくるか」と決めたときに、ちょうどガスがなくなって、シュポシュポシュポッとミジメな音を立てながら青い火が消えてしまうと、実際には「よし、しめた」なのだ。どうせガス会社に電話したって、取り替えにきてくれるのは翌日の昼過ぎである。


 ならば、面倒くさいから電話をかけることさえヤメにして、早稲田まで出かけることに決める。だって、電話をかければ、翌日はガスを待ちわびて丸1日過ごさなければならない。行動をガス会社に制限されてしまうことになるのだ。そういうのは、断じて許せない。そういうわけで、いったんプロパンガスがカラになると、次のガスを実際に注文するまで、2ヶ月も3ヶ月も過ぎてしまう。半年も注文しないことさえあった。

 

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(後ろの音も、聞いている)


 ガスがそういう状況になってしまった場合の用心に、一人暮らしを始めたときに買った電熱器も捨てないでおいた。電熱器、小学校低学年の理科実験でやる「あぶりだし」以来、久々の登場だが、最初に一人暮らしをした石神井公園の下宿では、ガスその他の本格的な火の気の使用は御法度だったから、前世紀の遺物のような電熱器を使うしかなかった。ヤカンにコーヒーカップ1杯分のお湯を沸かすのに10分は軽くかかってしまう、素晴らしく効率と性能のいいシロモノであるが、一人暮らしの最初の夜に、レトルトのカレーを温めた思い出の品である。皿にもあけずに、レトルトの袋にスプーンを突っ込み、食パンとともに食べた思い出については、確か4月上旬に書いたはずだ。

 

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(ネコは、見ている)


 300Wと600Wの切り替えスイッチまでついている。どの道、300Wなどという弱い火力では我慢できなくなって600Wしか使わないから、切り替えスイッチの存在自体が無意味なのであるが、むかしむかしのそのむかし、「冷蔵庫といっしょに600Wなどという電力を使うとヒューズがとんでしまう」「ブレーカーが落ちる危険性がある」という、ものすごいアパートもあったのだ。電熱器で湯を沸かそうとしてヒューズがとんで、真っ暗闇の中で沸かしかけのヌルいコーヒーを飲むハメになるのもつまらない。プロパンガスが切れてしまった松和荘の、裸電球1個の薄暗い台所に立ち尽くし、「ヒューズよ、とんでくれるな」と願いながら、わずかな湯が沸くのを恐る恐る15分待ち続ける。そういう4年間を過ごした。

1E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN 1/5
2E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN 2/5
3E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN 3/5
4E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN 5/5
7D(DvMv) TRISTAN + ISOLDE
total m76 y669 d2912