Thu 090430 銀座散歩 ナイルレストラン「ムルギランチ」 それに関わるつらい記憶 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 090430 銀座散歩 ナイルレストラン「ムルギランチ」 それに関わるつらい記憶

 参宮橋、明治神宮、表参道、赤坂、三宅坂と回る長い散歩をしようかと思いたって、午前11時に代々木上原を出た。しかし、美しく豊かに生い茂った新緑と、たくさんの外国人観光客とを見ているうちに、何だか面倒くさくなって、明治神宮前から千代田線に乗って日比谷まで。日比谷から東銀座までのんびり歩いて、ちょうど昼時だったから「ナイルレストラン」に入った。「ナイル」だからエジプト料理かと思うと、実際には混じり気なしの純粋なインド料理店である。インド料理なら「インダス」か「ガンジス」であるべきなのだが、「ナイル」というのは大河の名前ではなくて、オーナーの名前がNairさんなのだ。正しくは「ナイールさんのレストラン」である。20年も前、勤務先が東銀座(要するに当時の電通本社)だった頃に、会社の先輩に何度も連れて来られた店である。

 

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(新緑の明治神宮)


 この先輩というのが、また話し始めるといくらでも長くかかる人で、「迷惑がかかるといけないから実名は絶対に出さない」というブログの方針からして、あくまで匿名で書いておくと、彼は、高校時代は江東区の筋金入りの暴走族の「切り込み隊長」。筑波大付属駒場高校(当時は東京教育大学付属駒場、略して「教駒」)、東京大学法学部卒業、という超名門の出身。まあ、天才である。東大時代は競馬部。「乗馬部」ではなくて、あくまで「競馬部」だ。「乗馬部」ということになれば、当時を代表するTVドラマ「アリエスの乙女たち」に話がまたまた流れていきそうだが、あくまで「競馬部」である。


 「電通野球部」というのを組織して、ユニフォームも彼のデザイン。全身真っ黒のユニフォームは、背中から胸にかけて銀色の龍がのたうち回り、やはり暴走族のノリ。というよりトラック野郎のノリ。そのユニフォームを見ただけで入部希望者はみんな帰ってしまう。そういう人である。その野球部の試合に1回だけ出たことがあったが、みんなユニフォームの着用を拒絶。ごく普通のジャージで試合をして、私もそれなりの活躍をして勝利。試合の後で財布の中のお金を全部つかい果たして、ポケットに残ったわずかの小銭でやっとのことで帰宅したのだが、さすがにその辺のいきさつは記憶がない。


 大学時代から雑誌「宝島」などにいろいろ記事や小説みたいなのを書いていた人で、電通の若手社員の中でもピカイチの才能の持ち主。コネ入社で有名な電通で、「コネではなく実力で入った」という滅多にいないタイプ。「コネなし」は私も同じだが、実力では全く足許にも及ばない。会社のずっと雲の上のほうの人々も、クライアントも、放送局のお偉方も、みんな彼には注目していたから、あれから20年以上経過して、今頃はもうすっかり出世して経営陣の一人として活躍中だろう。


 お酒好きというより、飲み屋のハシゴが好き。毎晩朝3時過ぎまで銀座&六本木を飲み歩き、それに付き合わされて、こちらはとても身体がもたない。六本木から松戸(松戸の西口、Dマートの横の汚いマンションに住んでいた頃だ)までタクシーで帰ると、すでに朝4時、6月なら、もうすっかり夜が明けている。6000円のタクシー代がかかるが、「タクシー券」という魔法のジュータンがあって、タクシー代はすべて会社持ちである。


 ただしそれが「そんなこともあったな」と言って懐かしい思い出話になるならいいが、連日連夜それが続くのでは、心も身体もとてももたない。4時から6時半まで死んだように眠っても、酒は全く抜けていない。這うようにしてマンションを出て、松戸から千代田線で日比谷、日比谷から日比谷線で東銀座、40分強しかかからないその通勤が、二日酔いの頭痛に悩まされる毎日。出社すると、そこにはやはり酒の抜けていない先輩が待ち構えていて、おそらく酒のせいで機嫌が悪く、あれやこれやと説教が始まり、それが午前中ずっと続く。お説教というより、絡んでいるだけだったかもしれないが、11時頃ヤクルトおばさんが大きなバッグを肩にかけてやってきて、みんなでヤクルトを1本飲んだ所で、やっとご機嫌が直る。ご機嫌が直ると、「今井、カレー食うぞ」。以上、やっとのことで「ナイルレストラン」に話が戻る。

 

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(東銀座「ナイルレストラン」全景)


 だから、しばらくは「ナイルレストラン」にいい記憶がなかった。二日酔いの頭がまだ鈍く重たく痛むのに、ヤクルトやカルピスを飲んだ後に独特の、タンみたいな小さなぶにょぶにょが舌に絡みつくのを我慢しながら(同じプニョプニョはグレープジュースのあとでも体験できる)、当時の電通本社から徒歩で10分弱、そこでまた絡まれるようなお説教。ナイルレストランの記憶は、一昨年の夏に偶然再び訪れるまで、そういう記憶ばかりだった。


 しかもこの先輩が、そのまた先輩から「タマゴ狂い」と冷やかされるほどのタマゴ好き。「カレーにはどうしてもタマゴが必要」と決めているヒトで、ナイルレストランでも特別にタマゴを1個出してもらって、これをまずナマで飲み込むのが趣味。タマゴの黄身の薄皮を、喉の奥で圧迫してプチッと割る瞬間がたまらなく好きだ、そういう人物である。


 恨みなんか全くないし、今となってはまあまあいい思い出なのだが、電通をあっという間に辞めてしまったのは、彼のせいだったかもしれない。「辞めてよかった」というのが実際なのだから、「彼のおかげだ、感謝感謝」と言ったほうがいいだろう。6月下旬の夜、六本木で5時まで飲んで、5時まで目一杯絡まれて、帰宅したのが6時。そのタクシーの中から、すでに真夏の眩しい朝日がアスファルトを照らすのを見ながら、「辞めようかな」とほぼ決意を固めた。


 東京大学医学部出身の恐るべき後輩とか、とにかく当時の私としては余りに華やかな人脈を見せつけられ、交友関係でも仕事の実力でも絶対に敵いそうにない彼と、毎日毎晩つきあっているうちに「ここにいても、自分の将来はなさそうだ」と痛いほどに感じる日々だった。で、その翌日は「ほぼ無断欠勤」という形で欠勤して、ムクれながらビールをたくさん飲んで、ボーッとテレビを眺めながら「これからの人生をどうするか」考え続けて、2リットルの生ビールが2本カラになった段階で、むっくり机に座りなおして、退職願を書くことにした。その辺の記憶は、実に鮮やかである。

1E(Cd) Courtney Pine:BACK IN THE DAY
2E(Cd) Nanae Mimura:UNIVERSE
3E(Cd) Richter:BACH/WELL-TEMPERED CLAVIER1/4
4E(Cd) Richter:BACH/WELL-TEMPERED CLAVIER2/4
5E(Cd) Sinitta:TOY BOY
6E(Cd) Jessica Simpson:IRRESISTIBLE
7E(Cd) Samantha Mumba:GOTTA TELL YOU
10D(DvMv) NOTTING HILL
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