Mon 090330 代々木「四万十」への4年ぶりの訪問 日本酒「出羽桜」その他との再会 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 090330 代々木「四万十」への4年ぶりの訪問 日本酒「出羽桜」その他との再会

 3月25日、それでも飲み足りないから(昨日からの続きです)、久しぶりに代々木で酒を飲むことになった。最初から代々木に行く計画ではなくて、2次会は赤坂の馴染みの料理屋の予定だった。ところがあらかじめ電話してみたら、何と2月末に廃業してしまっていることが判明。同じ赤坂の別の店も、電話が通じない。おお、不況ですかねえ。ならば仕方がない、北青山から代々木は近い。歩いても20分、クルマなら5分。かつての地元であり、今や完全な敵地である。アウェイで戦ってこようではないか。ホームゲームばかりで甘やかされていると、碌なことにならない。おお、酔っ払いとはこのようなものであって、元生徒&現予備校講師である彼のカノジョのノリの良さもまた嬉しい。


 で、タクシーを止めて向かったのが代々木「四万十」である。今でこそアウェイだから全く足が向かなくなったが、10年前から5年前にかけてはほとんど毎晩のようにこの店に通った。「何が旨いか」と聞かれれば、「これですね」と言えるほど特別に旨いものは何もない。「では、何が取り柄なのか」と尋ねられても「何の取り柄もない」と答える以外どうしようもない。中年になれば「馴染みのママ」とかそういうたぐいのものが店のカウンターの中にいて、そういう女の人と酒の勢いで怪しい会話を繰り広げるのがTVドラマの定番であるが、残念ながら私にはそういう趣味もなくて、酒を飲めばのんびりダラしなくいつまでも店の片隅で静かにしていたいだけである。


 だから、「四万十」のどこがいいかといえば、「黙っていても全く違和感なく過ごせる」ということである。他のお客たちのタバコの煙が少しだけ煙たくないことはないが、「…がおいしいですよ」とか「辛口の酒が入りましてね」とか「ウニの甘みが絶妙です」とか、そういうことを言って私をうるさがらせるようなことをしないのが、この店にかつて通い詰めた理由。店の人たちがうるさくしないから、こっちも愛想をふりまく必要は皆無であって、豚の角煮を口に入れるなり「んんン、甘いですねえ」とか言って大袈裟に身を捩らせて感動の演技をする必要はないし、白身の魚の刺身を口に運ぶたびに「コリコリした食感がたまりませんね」とか、そういうつまらないウソを一言も言わなくて済む。

 

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(懐かしい「四万十」と「出羽桜」の徳利)


 とにかく一緒に入った人間と穏やかにテーブルを囲んで、「さて、今日は何を話そうか」と言いながら、この上なく投げやりに、適当な酒を注文する。この店での私の定番は「出羽桜」と決まっていたが、それは決して「出羽桜」が「たまらないほど辛口だから」とか「出羽桜以外は、口が受け付けないから」とか「土佐料理にはこの酒じゃなくちゃ」とか、そういうこだわりではない。何よりも、面倒なことは面倒だからであって、酒なんかにこだわるより、その日その店に一緒に入った人間たちとのんびりぼそぼそ話をする方が楽しみだからである。そのとろんとした時間の暖かさを楽しむには、酒へのこだわりは禁物なのだ。


 ただし、この夜は特別である。何しろ4年ぶりだ。東進に移籍して丸4年、代々木はさすがにアウェイであって、例えば「誰かに会ったらどうしよう」とかいう話より、しばらくは遠慮して訪問を控えるのが常識だろう。だからいつの間にか4年が経過して、それでも「四万十」の女将たちはみんな私のことを記憶していて、本当に懐かしそうに「出羽桜にしますか」と尋ねてくれた。やがて他の従業員も出てきて、懐かしげに挨拶してくれた。おお、みんな年をとった。私は静かに穏やかにじっくり酒を飲むのが好きなのだが、この夜だけは別である。どんどん出羽桜を注文して、どんどん徳利を開けた。


 「せっかくだからもう1人呼びましょう」ということになって、電話をかけてみるとその「もう1人」はちょうどお誂え向きにいま新宿にいて「お笑いライブ」などという全然笑えないものを見て、時間をムダにしているという。「そんなことなら、そこから歩いて今すぐに代々木まで来たまえ」というと(最近私は実際に「きたまえ」「諸君」などという明治大正言葉を実際に使用しているのだ)、ノリの良すぎるその人物は、ものの10分もかからずに店に現れた。4年前まで、ともに何度でもこの店を訪れ、ともにすっかり常連になってしまった人間である。女将はほとんど涙を流さんばかりに感動。「全然変わらないじゃない?」などと叫んで、さらに大いに盛り上がってくれた。


 そのまま2時間ほど飲み、予備校講師の彼のカノジョがちょっと酔ってしまって、「そろそろ解散かな?」という潮時になった。さっきのトルコ料理店での「ラク」、ギリシャ名「ウゾ」が予想外にこたえたらしい。私みたいなクマ人間は、ああいう強烈で凶悪な酒を浴びるように飲んでも何ともないのだが、それはスズメバチに刺されても「うぜえな」と手で振り払う鈍感なクマの親類だからこそである。潮時でお開きにしたほうがいい。ちょうど四万十も閉店の時間。私たち以外の客はとうの昔に店を出て、片付けもあらかた終わってしまったようである。懐かしいこの店にまたいつ来るかわからないが、とにかく心温まる1晩だった。

 

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(おや、お早いお帰りで。まだ午前2時ですよ)


 というわけで、以下は2月の末から掲載している「参考書の執筆も続けていますよ」のサイン。ブログ読者にも執筆の進行を監視してもらい、そのことで執筆を怠けないようにしようという企画である。あくまで「やってます」の印に過ぎないから、一般の読者が読む必要は皆無である。

(「原稿」部分省略)