Thu 090129 センターで失敗した人の1ヶ月計画 「ゴール」という言葉はマイナスに働く | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 090129 センターで失敗した人の1ヶ月計画 「ゴール」という言葉はマイナスに働く

 「センター試験で失敗した」という人たちから、いろいろな手紙が届いている。
「どうしたらいいんでしょうか」
「志望校をかえたので、その志望校対策を設問ごとに教えてほしい」
「志望校を下げろと言われて、下げるしかなくなって、納得がいかないままに下げたら、やる気がなくなった」
「高校2年ですが、センターの問題をやってみたら半分ぐらいしかとれなかった。これで医学部に行けるんでしょうか」

 可哀そうな悩みからぜいたくな悩みまで、まさに「人生いろいろ」である。中には、「やってみたらよくわからなかったので、1問ずつ全部詳しく解説を書いて送ってください(これは高校2年生から)」などという、人を出版社か通信添削の会社と勘違いした見当違いな要求の手紙まで送られてくる。

 そういう手紙に限って、ノートを引きちぎった紙やルーズリーフのノートに鉛筆書きで、家庭教師の大学生に月謝を渡すような汚い茶色い封筒で入れられてくるのである。以前書いた通り(Fri080815参照)、まあ、済みませんが、高校生から見たら私は目上なのだから、目上の人に手紙を書くには「それなりの礼儀が必要だ」ということぐらいはわきまえてくれないと困る。

「鉛筆書き」は失礼だから必ずペン書きにすること、ノートの切れ端ではなくてキチンと便箋に書くこと、宛名は「今井宏先生」か「今井宏様」であって「今井宏宛」「今井宏殿」はダメ、「今井宏御中」「今井宏在中」は絶対ダメ。授業中にも何度も繰り返して言っているし、このブログでも書いていることだが、手紙を書くのに慣れていないなら、両親か高校や塾の先生に点検してもらってから送った方がいい。

 

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(右端:枕にしか見えないニャゴ姉さん)


 ただし、完全に我を失ってしまうほどセンター試験で失敗して、焦りに焦っている受験生だけは例外で、そういう人から来た手紙には、さすがの私も余りうるさいことを言う気はない。一昨日速達で送られてきた相談の手紙には、ちゃんと速達分の切手も貼った返信用封筒が入っていて、よほど焦って困りはてているのだろう、小額の切手が10数枚ベタベタ貼られて何とか速達料金に達しているのが、返ってこちらを真剣な気持ちにさせてくれた。

 中身を読むと、センターで数学と生物と物理を失敗。英語もまあ失敗。やむを得ず志望校を1ランク下げることになったが、それでもボーダーに届きそうにない。あと1ヶ月でボーダーまで行きたいが、どうすればボーダーに届きますか? 各設問ごとに対策を指示してください、指示通りにやります、1日15時間でもやり抜きます。そういう手紙だった。

 泣きそうになるほど真剣な相談で、礼儀も尽くした手紙だったから、早速その場で返事を書いて、すぐに郵便局から速達で返してあげた。ただし、返事の内容は必ずしも差出人が欲しかったものではなかったかもしれない。

 ここまできて、慌てたり、甘えたり、奇跡をもたらす自分だけの対策を指示してもらいたがったり、そういうことではダメなのである。講師に手紙を1本書いて、各設問ごとの対策を手軽に教えてもらって「それで奇跡を起こそう」、そういうのはただの甘えであって、実際の効果は何もない。

 手軽に誰かに方法を教えてもらおうというのは、マニュアル本を買ってきて、マニュアル本通りにやって、それでゲームをクリアしようとするようなもの。この戦いはゲームではなくて真剣勝負なのだから、自分の現状をしっかり見据えて、たった1ヶ月で何ができるのかを自分で判断し、やれるだけのことをやりきるのでなければ勝利はつかめない。

 こういうのは別に精神論でも何でもない。志望校の過去問を研究して、「こういう問題を解くには、あれとこれとをやるのが最も効果的だ」と自分で考え抜くことこそが、最も効果的な受験勉強なのであって、そのプロセスを他人に頼ったのでは効果は半減する。

 いや、半減どころではないのだ。合格点に届きそうにない現状で大慌てになって、「どういう対策をとるべきですか?」と質問する姿は、オリンピックでメダルに届きそうにない選手が「どうしたらメダルを取れますか? 教えてください」と質問するのと同じである。有能なコーチなら「その方法は、自分で考え、自分で納得し、自分で実践しない限り、何の効果もない」と冷たく突き放すはずである。

 

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(右端:タオルにしか見えないニャゴ姉さん)


 1日15時間やる覚悟があるのなら、これからの25日で15×25=375時間。1日3時間ずつ勉強するマジメな受験生の125日分=4ヶ月分もあるのだ。やる気が本当にあれば、時間はいくらでも残されている。数学と生物と物理3科目の収録講座をそれぞれ1講座ずつ1年分、これから試験本番までに全部受講することだって可能なはずだ。

 1年浪人してムダにする金額を考えれば、2月いっぱい予備校のヌシになって、朝8時から夜11時までずっと予備校にいて、死ぬほど勉強するほうがいい。

 こういう人のモデルプランは、こうだ。朝8時、予備校に登校して、英語の音読をしてウォーミングアップ。9時から10時半まで、数学の収録授業を1回分受講。10時半から12時までその復習(確認テストを含む)。30分間、昼食と休憩を入れながら英単語集をめくる。

 12時半から14時まで、物理の収録授業1回分を受講、14時から16時半までその復習(確認テストを含む)。16時半から18時まで、夕食・休憩・英語の音読。18時から19時半まで、生物の収録授業1回分を受講、19時半から21時までその復習(確認テストを含む)。

 21時から、英語の音読、自習室が閉まるか校舎が閉まるかで追い出されるまで、ずっと英語の音読。帰宅したら、すぐに風呂と睡眠、翌日は6時半起床。もちろん、科目は自由に入れ替えていい。

 どうだ、私立大学の受験で何日か費やすことになるとしても、今日すぐにこのプランで立ち上がれば、国公立受験の日までに、数学・物理・生物の3科目3講座を1年分やりきることが可能なのだ。「各設問ごとの対策を教えてください」とか、そんな甘えているヒマがあったら、今すぐに立ち上がって、今すぐに1年分の受講を開始すればいい。

 これだけやって、それでも逆転できずに第2志望に甘んじることになるのなら、それならまだ諦めもつく。いま「浪人覚悟」などと口にしている高校生は、浪人ということの苦しさやつらさや時間のムダをしっかり見据えて、残り1ヶ月をこんなふうに過ごす覚悟を固めた方がいい。これからの1ヶ月でこの程度のことができない人は、たとえ浪人しても不完全燃焼で終わってしまうはずだ。

 

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(綿菓子にしか見えないニャゴ姉さん)


 久しぶりで東進・吉祥寺1号館に出かけて、いいものを見せてもらってきた。北京オリンピックの水泳代表選手団を支えた脳科学者「林先生」が、北島康介選手たちに伝えた一言である。受け売りだから、間違っていたら誠に申し訳ないが、「脳にとって『ゴール』という言葉は、マイナス効果をもつ」というのである。

 目の前にゴールがあると、ついつい「ああ、あそこで終わりなんだな」と考えるが、そう考えた瞬間に、脳は前向きに働かなくなる。どこまでも脳を前向きに働かせるためには、「あそこがゴール」「あそこで終わり」ということを考えてはならない。

 むしろ、ゴールの先にもまだまだ道のりは続いていて、もしゴールに似たものがあれば、それは「一区切り」に過ぎない、そのぐらいのイメージで戦わなかければならない、というのである。

「受験がゴール」「大学合格がゴール」「中学受験がゴール」も同じであって、そういうことを考えると脳にはマイナスに働く。いくらでも先があるので、その程度の成功をゴールと考えずに努力を続けるべきだ。まあ、そういうことである。

 厳しすぎて、自分には出来そうにないような気もするが、焦り、慌てふためき、藁にもすがる思いの人にとっては、大いに役立つ大切なアドバイスのように思える。少なくとも、金メダル2つ(リレーで銅メダルも取ったように記憶するが)しっかり獲得した北島選手の頭の中では、私のようなダメ人間のイメージするゴールとは全く別種のゴールがあったらしいのである。