Mon 090126 部屋に籠った仕事の憂鬱 民放大合併はいかが 時代劇アワー「江戸の鷹」の爽快 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 090126 部屋に籠った仕事の憂鬱 民放大合併はいかが 時代劇アワー「江戸の鷹」の爽快

 まだ講演会ラッシュは始まらないから、このところの仕事は原稿関係ばかりで、ずっと部屋にいて、原稿を書き、校正し、生徒たちから来る手紙に返事を書き、ヒマをみてブログを更新し、そうやって毎日毎日が過ぎていく。余りテレビというものを見ないのだが、たまに昼間からテレビのスイッチを入れると、この局もあの局も何故かみんな同じニュースについて全く同じコメントを垂れ流しているばかりで、これほどたくさんの民放チャンネルが存在する必要性を感じない。真っ昼間からどのタレントも皆同じようなニヤニヤ笑いを浮かべ、定額給付金を嘲笑し、首相を嘲笑し、日本経済はもうダメだと嘆息し、自分の品格は度外視して他人の品格を論じ、「不況だから少しでも安いものを」と言ってデフレを煽っている。


 一部週刊誌でJALとANAの合併可能性をスクープしているが、この際、同じ方向性の報道しかできないなら、「民放大合併」というのも悪くないだろう。お得意の「二酸化炭素削減」に効果のあるのは、レジ袋削減やマイ箸の普及より、放送局の大合併で延べ放送時間を一気に削減することかもしれない。つまらないニュース番組を減らせば、同じことしか言えない雛壇の評論家のギャラを削減できるだろうし、地球温暖化にもデフレにも抑止効果が期待できる。


 しかし、そうやって「民放大合併」をしたとしても、どうしてもなくしてほしくないのがテレビ東京系の「時代劇アワー」である。同じ真っ昼間の再放送にしても、テレビ朝日系の「暴れん坊将軍」では、新しすぎて何の感動もないし、何の驚きもない。暴れん坊将軍の乱闘シーンが11時16分に始まり、11時19分に「成敗!!」の個人の一存で裁判もなしに悪者を虐殺したあと、フジ系の昼のニュース「スピーク」を我慢しながら見て(「良心的呆れ顔」「何でも冷笑」「自分たちこそ良心」という報道姿勢がニュースショーの中で最も顕著)、NHKのお昼のニュースで「白髪はどのぐらい増えたかな」をチェックし(ただし私は登坂アナのファン。株式相場や円相場の画面が突然変わっても落ち着き払って「今変わって」と冷静に数字を読み上げる態度は、万が一の災害の際に最も信頼できるMr.アナウンサーと言っていい。昼過ぎに渋谷をブラブラしているとバッタリ出会うことがあるらしい)、テレビ東京にチャンネルを変えると、おお、今日の時代劇アワーは「江戸の鷹」である。
 

 「江戸の鷹」は、配役から考えておそらく30年前ぐらいの作品か。主役の「お鷹組頭」(なんだそりゃ?)は三船敏郎。鷹を自在に操って情報収集し、江戸の治安を守るのだが、驚くなかれ、三船敏郎である。21世紀も1/10が終わろうとしている今、モノクロ黒沢映画の主役が、日本文化センターの「クジラの缶詰」の宣伝とともに、20缶で10000円のところ今回に限り30缶で10000円の広告とともに、悪にまみれた江戸の街を疾駆する。ついでに、普段は2枚で5000円の「羽毛裏毛立ち毛布」というなかなか難しそうな毛布が、今回に限り4枚で5000円のご提供。限定販売だが、これから2月28日までの、非常に息の長い限定である。

 

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(三船敏郎)


 歌手として今も活動中の「岩崎宏美」(35年前にはアイドルだったのだ)の妹の「岩崎良美」が(30年ぐらい前に松田聖子の対抗としてアイドルシンガーの新人賞候補だった)、脇役のそのまた脇役で、大いに丸みを帯びた手品師の役。その姉の、「長崎仕込みの手品師」の女が、教育上よくない様々な苦労を重ねた後に江戸に出てきて、教育上よくない欲望に燃える中年すぎの男たち(長崎奉行時代に抜け荷で儲けたカネで若年寄まで出世した初老の男が悪役の主)に、教育上よくないいろいろなワナを仕掛けては、過去の復讐を遂げていく。ただし、この「女」の役を演ずるのが誰なのか、私には記憶がなかった。


 昔はSECOMもSOKもなかったから、重臣・若年寄の屋敷であっても、何の苦労もなく忍び込めたらしい。「長崎仕込みの短筒」を操る女は、あと一歩で復讐完成、というところまで迫る。しかし、短筒からの4発で「見事、仕留めた」と思った若年寄は、実は綿を詰めた等身大のお人形。ご丁寧なことに、綿入れ人形に短筒のタマを全部打ち込んでしまい、「ふ、ふ、ふ、飛んで火にいる夏の虫とはまさにこのこと。もうタマは残っていないだろう」と指摘されて初めてタマ切れに気づく始末。彼はタマの数をちゃんと確認してから出てきたワケだが、それにしても、たった1人の女をワナにかけるために、わざわざこんな見事な綿入れ人形を作成して待ち構えていた幕閣の重臣とは何者なのか。誰かに命じて作らせておいたのだが、それを命じられた職人も相当驚いただろう。ま、もちろん若年寄には、この美しい女(という設定だからそういうことにしておくが)に対する教育上よくない欲望があって、その餌食にしようと待ち構えていたのである。


 それから先も、ドラマはたいへん丁寧に作ってある。タマ切れに気づいて愕然とし、幼児の頃に妹とともに長崎で「唐人船」に売られてから今までの様々な屈辱の体験が、「女」の目の前を走馬灯のように駆け巡り、同じシーンが視聴者の頭の中でもクジラの缶詰や4枚5000円の毛布を買うかどうかの決断とともに駆け巡り、イヤらしい目の中年男がわざわざ自分たちの悪巧みを詳細に物語り、床下では三船敏郎の部下が悪巧みの詳細を聞いてやっとこの中年男が諸悪の根源だと知り、「お鷹」の足に知らせを書いた文を結びつけて、「女」の危急を知らせる。

 

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(お猫組頭)


 あとは、お馴染みである。「女」がクルクル回ったり、わかってるクセに「なにをするんです?」と絶叫してみたり、フスマを開けると枕が2つ並べてあったり、まあそういう昔ながらの教育上よくない設定もキチンと省略せずに1つ1つ丁寧に仕組んであり、最後にはそういうことも突然一切が面倒くさくなったらしく、「欲望なんかどうでもいいや、ええい、出会え出会え、クセモノだ!! 斬ってしまえ!!!」から乱闘シーンへ。「女」も短剣を抜いて健闘するが(どうしてクルクルやっているときに短剣を抜かなかったのか不思議であるとしても)、多勢に無勢、ついに一太刀二太刀浴びて、息も絶え絶えで、しかし奮戦を続行する様子。


 一方「お鷹組」の面々も、「女が危ない」ことに鷹の足の手紙を見てから気づくお粗末ぶり。このお粗末ぶりこそまさにリアルであって、「殺される前に気づいて駆けつける」「とどめを刺そうとする刀に扇を命中させる」「手裏剣代わりの寛永通宝がロウソクの炎を消してしまう」などという現実離れした話にはならない。「女」がすでに致命傷を浴びて、ほぼ息を引き取ったところで三船敏郎がついに登場。犯人の若年寄は「無礼であろう」などと落ち着いて見せるが、目の前に動かせぬ証拠が息絶えつつある。「お鷹組に、情けなどない」みたいなことを一言言っただけで、若年寄をあっという間に惨殺。教育上よくない欲望に、未来はないのだ。


 あとは、もう1回クジラの缶詰がどれほど旨いか、どれほど昔懐かしい味で、ゴハンの上にのっけて食べればどれほど昔がよみがえるかの復習(こういうCMを見てグリーンピースやシーシェパードの人がどれほど怒り心頭かは別問題として)と、この毛布4枚を買えば寒い夜に不快な布団の冷たさに悩まされることなくどれほど家族4人で素敵な夜が過ごせるかの復習を済ませて、空高く舞う鷹の勇姿を背景に、大昔の演歌歌手が「人生の無情」を歌い上げたところで時代劇アワーは幕を閉じる。まさに模範的時代劇、こういうものを見て午後の時間をスタートさせれば、「さて、午後も頑張るぞ」というエネルギーに満ちた背伸びを思いっきりすることができる。

1E(Cd) COMPLETE MOZART/THEATRE & BALLET MUSIC 5/5
2E(Cd) COMPLETE MOZART/DIVERTIMENTI・SERENADES 1/11
3E(Cd) COMPLETE MOZART/DIVERTIMENTI・SERENADES 2/11
4E(Cd) COMPLETE MOZART/DIVERTIMENTI・SERENADES 3/11
5E(Cd) COMPLETE MOZART/DIVERTIMENTI・SERENADES 4/11
6E(Cd) COMPLETE MOZART/DIVERTIMENTI・SERENADES 5/11
7E(Cd) COMPLETE MOZART/DIVERTIMENTI・SERENADES 6/11
10D(DvMv) THE SHINING
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