Sun 090111 ロンドンで見かけたかもしれない超有名人 早稲田「浅野屋」 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 090111 ロンドンで見かけたかもしれない超有名人 早稲田「浅野屋」

 昨日は、ガンミしているくせになかなか声をかけてくれないモジモジ君やモジモジさんについて書いた。しかし、私自身も大いに内気であって、モジモジ君の元祖みたいな存在でもあるから、あんまり人のことは言えないのかもしれない。堺正章とか堺屋太一とか柄本明とか海部元首相とか関口宏とか、そういうスゴい有名人を見かけても、どうしてもサインをもらえないタイプ。内緒だし、おそらく、いや間違いなく人違いなのだが、ついこの間ロンドンの地下鉄構内で若手の超有名女優を見かけたような気がする。本当に本人かどうか、全然確信が持てないし、恐らくは完全な別人なのだから、あえてイニシャルだけ書いておくことにするが、Eがファーストネーム、Sがラストネームである。後で芸能ニュースを見ていたら、彼女は12月29日にロンドンから帰国。私の帰国は28日朝だったが、既に成田空港の通路にはTVカメラが並んで、彼女の帰国を待ち構えていた。22歳年上のプロデューサーと婚約して、帰国後結婚もしたらしい。

 

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(ロンドンの定番。ビッグベンとダブルデッカー)


 私が見かけたような気がするのは、12月25日だったか26日だったか。そのあたりさえハッキリしないのだから、人違いに決まっているが、25日はロンドンの地下鉄はほとんど全て閉鎖されていたのだから、26日の夕方だったと思う。ロンドンのピカデリーサーカス(東京で言えば銀座みたいな駅)の隣のグリーンパーク(東京なら日比谷か)の駅構内で、ESさんとよおっく似た同じぐらいの年格好の女性が、ギターやサックスをもって一人でマイクに向かって日本語の歌を歌っていたのだ。たいへんお上手、おそらくプロのシンガーである。


 ただし、私自身ESさんをよく見たことがない。まあ何本かのフィルムの断片(TVドラマの「予告編」に該当するようなもの)と、芸能ニュースの切れ端と、「別にナンにも」のふてくされたインタビューだけである。好きでもキライでもない。ドラマやなんかもマトモに見たことはほとんどない。だから全く確信はない。人違いに違いない。ESさんのようにも見えるけれども、まさかそれほどの有名人が、まさかロンドンの地下鉄駅構内にギターケースを広げて歌っているなどとは思えないし、全くの別人の若い女性に「もしかしてESさんですか」と聞きながら近寄っていく中年男は、変態である。しかも、万が一本人だとしても、公式の活動ではない、あくまでプライベートな時間の演奏の最中に、土足で踏み込むのは無遠慮すぎるだろう。いろいろなことを考えて結局遠慮してしまった。

 

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(ロンドンの地下鉄構内。ただしパディントン駅22時頃)


 いや、超有名人だからこそ、まあそれなりに変わったところがあればこそ、結婚する直前に何かの記念のつもりで、または自分だけのお祭りとして、そういうところで歌う経験をしたかったのかもしれない。そうだとすれば素晴らしいことだとも思う。別人であるに決まっているのだが、ならばやっぱり聞いておけばよかったと、モジモジ君は深く反省するのである。


 しかし(近い将来に旅行記を書くけれども)、ロンドンの地下鉄パフォーマンスは面白かった。激しいのである。イタリアだと「子供が3人いて家もなく、職もありません」と書かれた紙切れを配っておいて、後から集金係が回る地味な形式がほとんど。パフォーマンスと呼べるところまで行っていない。パリやミラノにも地下鉄パフォーマンスはあるが、アコーディオンかギターの演奏に合わせて歌いだすオーソドックスなもの。マドリードでは通路にドラムセットをおいて大音量で歌うなかなか派手なのもあったが、カラオケでベサメムーチョを熱唱する日本的なものも記憶に残る。


 ロンドンの地下鉄パフォーマンスも大いに特徴的であった。乗り込んで来て、いきなりタップダンスを始めるお兄さんもいたし、皆で太鼓連打などというのもいた。一番度肝を抜いたのは「杖のおじいさん」。ベイカーストリートの駅で地下鉄を乗り換えたときに、私を後ろから猛然と追い抜いていくすこぶる元気なおじいさんがいて、杖を片手に階段を猛ダッシュして地下鉄に乗り込む。「階段猛ダッシュ」の時には、杖なんか全く使わないで、誰よりもすばしこく駆け下りたのである。大きな声で「どけどけ」と叫び、電車には「待て」と命じ、あたりの人をすべて蹴散らす勢い。「おお、こりゃ元気なおじいさんだ」と思って見ていたら、ドアが閉まった瞬間、おじいさんはいきなり杖にすがってヨロヨロし始める。か弱い声で「クリスマスだから」と言いながらあたりの人たちに紙コップを差し出す。「小銭を入れろ」というのである。

 

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(問題のおじいさんと遭遇したベイカーストリート駅、21時頃)


 その要求の仕方がまた激しい。私も今までこういうパフォーマンスをたくさん見てきたが、彼らは総じて控えめである。まあ紙コップを出してみて、無視されれば無視されたで全然構わない。すぐに通り過ぎて、それ以上何も要求はしない。ベルリンでも、ウィーンでも、ローマでも、無視に必要な時間は約3秒。乗客はみんな3秒間だけ目を閉じる。ちょっとつらくても3秒目を閉じていれば、たいていは通り過ぎてしまう。ところがこのロンドンおじいさんは違うのである。目を閉じたり、無視したりしている乗客に向かっても「Excuse me!?」「Hello!?」と怒鳴って、意地でも目を開けさせ、意地でも小銭を入れさせようとする。それでもダメなら説教まで始める。クリスマスなんだから、説教してでも小銭を入れさせようとする物凄い根性なのである。これには、さすがに閉口した。


 考えようによっては、これ以上面白いというか、多彩な人々が集まった場所も珍しい。いろんな経験をして、つらいこともいろいろ乗り越えて、ついに結婚間近になった若手の女優が、クリスマス(その翌日のBOXING DAY)のロンドンで、こういう人々に混じって歌を歌ってみたくなったとしても、不思議ではないのかもしれない。ま、もちろん、人違いに違いないが、「別に」の素晴らしいキャラクターで駆け抜けた彼女が、結婚前の記念にロンドンの地下鉄通路でシンガーとしてのパフォーマンスをしたかったのだとすれば、そしてそれをキチンとやってのけたのだとすれば、こんなに嬉しいことはない。やっぱり、モジモジ君なんかにならずに、一言尋ねてみればよかった。


 昨日は、早稲田大学周辺の懐かしい店を回って、最後に大隈通りの「浅野屋」に入った。大学3年4年の頃の馴染みの蕎麦屋である。位置も少し変わったような気がするし、建物は建て直して雰囲気もかわり、少し狭くなったようである。入ると、昔通りのおばあちゃんが出てきて、こちらが座るが早いか「お決まりですか?」とせっかちに尋ねるのもむかし通りである。座って、コートを脱いで、ちょっと落ち着いてメニューを見てとか、そういうヒマは全く認めない。ただ、オバちゃんは昔と全く同じようにニコニコしているから、別に意地悪だとかムカついているとか言うのではない。大学生の客なら、蕎麦屋でそんなにツベコベいろいろ考えたりしないから、いちいち客のツベコベを聞かない習慣が身についているのだと思う。まあ、こちらも大急ぎで、鴨南蛮と熱燗のお酒を1本注文する。

 

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(早稲田大隈通り「浅野屋」、昔通りのメニューと酒)


 おばあちゃんは、70歳代半ばから後半である。と、いうことは、私が毎日のようにここに着た頃は50歳少し前ぐらいだったことになるが、何だか昔からこのぐらいの小柄なおばあちゃんだったような気がする。出てきた酒は、1合をガラスの瓶に詰めた安い酒である。これも昔と同じ。鴨南蛮の蕎麦も、細すぎて箸でつまんだだけでどんどん切れてしまう。出汁も、濃いのが好きな私から見ても、濃すぎてなかなか最後まで飲めるようなものではない。みんなむかし通りである。それがたいへん懐かしく、まだお正月だから、たいへんおめでたい。

 

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(浅野屋の店内)


 もちろん昔の学生時代に、毎日酒を飲んだり、ぜいたくに鴨南蛮なんか食べていたわけではない。金曜日の午後とか、皆で酒を飲みにいく前の景気づけとか、そういうときにここに来て、こういうものを食べ、こういうものを飲んだ。ロンドンで有名人の幻を見るのもいいが、早稲田で30年も40年も蕎麦屋をやっているこういうおばあちゃんに再会するのも、寒い風の吹き荒れる、学生はみんな国立競技場にラグビーを見に出かけたか部屋で試験勉強に励んでいるかで、すっかり閑散とした学生街の土曜日には、なかなかいいものである。

1E(Cd) Glenn Gould:BACH/GOLDBERG VARIATION
2E(Cd) Fischer & Budapest Festival:BRAHMS/HUNGARIAN DANCES
3E(Cd) Hungarian Quartet:BRAHMS/CLARINET QUARTET・PIANO QUINTET
4E(Cd) Alban Berg:BRAHMS/KLARINETTENQUINTETT & STREICHQUINTETT
7D(DvMv) GIA
10D(DvMv) 子熊物語
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