Tue 081230 ネコをお風呂に入れる ネコたちとの仲違い ネコたちとの仲直り | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 081230 ネコをお風呂に入れる ネコたちとの仲違い ネコたちとの仲直り

 さて、年末になれば恒例の「ネコを洗う」をやらなければならない。今年1年が絶好調だったとすれば、それはこのブログで大活躍してくれたネコ2匹のお蔭でもある。年が明ける前にしっかりキレイにして、シャンプーとリンスのいい匂いのする美ネコにしてあげなければならない。もちろんそういうことは人間の側の勝手であって、ネコとしては大きな迷惑に違いない。本来ネコなどというものに、お風呂に入る習慣などあるはずがない。毎日30分でも1時間でも好きなだけかけて、大根おろしのおろし金のような舌で全身を舐め回しているのだから、本人としてはこれ以上ないほど清潔にしているという自覚はあるし、お腹の中に入っていく黴菌と毛玉のことは心配にしても、白い毛皮もシマシマの毛皮も、とにかく毛皮の清潔さについては疑う余地はない。洗うべきか洗わざるべきか、洗うとして1年に何回洗うのか、ネコの飼い方に詳しい人なら、その辺のことにはうるさそうであるが、あくまで習慣として、年末だけはキレイにしてあげることに決めている。
 

 つまり、「洗う」とか「美ネコにする」というのが人間の側の自己満足に過ぎないのは明らかなのだが、そんなことを言い始めたら、ネコを飼うこと自体がもともと自己満足そのもの、ネコとしては別に飼ってもらわなくても自分でいくらでも何とか出来るのである。ならば、せっかく飼う&飼われるという人間本意の関係に関わってもらっている以上、ついでだから、洗う&洗われるというもう一つの人間本意にも付き合ってもらっていい道理になる。一緒に生活するというのは、お互いの自分勝手を認めあうことが基本なので、ネコが人間の住まいに上がり込んで顔を洗ったり、テレビの上を占領したり、長いシッポで人間のヒゲを撫でたり、箱や袋に入り込んで出てこなかったり、そういうワガママ勝手をこちらが認めているのだから、1年に1回一緒にお風呂に入るぐらいのことをネコが我慢するのもまたネコの義務である。

 

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(入浴直後のナデシコ 1)


 第一、本来は純白のニャゴロワも1年放っておけばクリーム色に変化する。日向の色なのかもしれないし、ネコの唾液の色なのかもしれないが、どうも本人も自慢に思っているフシのある純白の毛皮がミルク色からクリーム色に変わってくるのを放置しておくのは、友人として忍びがたい。ナデシコの方はもともと汚れの目立たないキジトラだし、本人も至って清潔好きで滅多なことでは汚れそうにない誇り高い女であって、お風呂に入れる必要はなさそうだ。「あら、私は今年、お風呂は結構ですわ」である。しかし、やはりそこは平等を重視。一方だけスキンシップをはかり、残る一人を放っておくようなことはしてはならない。以上、2人をお風呂に入れるにあたって人間が考えた勝手な理由である。


 先に入るのはいつでもナデシコである。ニャゴロワを先に入れた場合、助けを求めるニャゴロワの鳴き声に恐れをなしたナデシコは、完全に無言のままでどこかに姿を消してしまう。その姿の消し方は尋常ではない。間違いなく家の中にいるのだが、しかしナデシコ本人の気持ちとしては、パリの裏町か月の裏側に潜んでいるのと変わらないぐらい安心できる静かな物陰に潜むのである。その目の暗い輝きは、見つけた者にしかわからない無限に深い拒絶の輝きであって、どれほど強烈な自信に溢れた格闘家でも、あの目の輝きを見てしまったら、その物陰で震える美しい小動物を力ずくで引っぱりだすような蛮勇を奮うことを、思わずためらい、恥じるはずである。

 

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(入浴直後のニャゴロワ 1)


 ナデシコは、お風呂にまで連れてこられると、ただ小さく蹲る。小さな抵抗はするが、お風呂の床に軽くツメをたててみるぐらいのことで、抵抗という言葉を遣うほど強い抵抗は感じさせない。むしろ、抵抗しないことがナデシコの抵抗である。全身にぬるま湯をかけても、黙ってじっと我慢する。嵐が過ぎるのをほぼ無抵抗で耐える。しかもキジトラの毛皮はよく水分を吸い取るので、シャンプーをつけて洗う野蛮な作業もたいへんスムーズに進行する。犬を洗った経験はないが、犬という生物はむしろお風呂を楽しむらしく、楽しんで入るお風呂なら作業もスムーズだろう。ナデシコは、お風呂を悲しむように見える。小さく小さく固まって、無言で終わりを待ち、人間の身勝手を悲しみながら無言で風呂を後にする。タオルでよく水分を拭き取ってから外に出すのだが、その時も鳴き声をほとんど発しない。そうですか、終わったんですか、では温かい部屋へ行ってもいいですか。黒いハリネズミのようになりながら、黒目を大きく広げて、静かに尋ねるのである。


 その間も、異変に気づいたニャゴロワはずっと外で大声で鳴いている。盟友の身に起こった変事を心から案じ、同時に自らの身に迫る危険を察知して、戦いの準備をするのである。ナデシコをお風呂に入れた直後の手に、ニャゴロワの身体は驚くほどの大きさに感じられる。ナデシコ3.5kg、ニャゴロワ5.5kg、その数字を実感する瞬間である。巨大な綿花のカタマリ、ゲリラ豪雨をもたらす積乱雲、つきたての餅。岩波新書「雪」によれば、100年ほど以前、日本のどこかで直径10cmの雪が舞ったという記録があるそうだが、ニャゴロワを見ているとそういう幻想的な雪を一度でいいから見てみたい気持ちになる。しかし、今のところこの雪はミルク色からクリーム色であって、降るにしても純白に戻してからでなければならない。

 

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(入浴直後のナデシコ 2)


 白いカタマリは、激しい抵抗を試みる。ツメを床にしっかりとたてるのだが、その力も半端ではない。鳴き声も、その強い生命力のすべてをここに出し切って、鳴き声で圧倒しようとするかのようである。白い毛皮には油分が含まれていて、ぬるま湯を力強く弾き返し、シャンプーも相当な分量を落とさないとなかなかよく泡立たない。お風呂場の中をツメをたてて絶えず動き回り、鳴き声を止めることなく、人間が最もお湯をかけにくい場所を見事に選択し、場合によっては果敢にも浴槽に飛び込もうと身構えたりする。抵抗すればするほど入浴が長引くことを知らないのが、ナデシコに比較して愚かなのだが、その賢いナデシコは既に暖かい部屋で水分を舐め回して、無言のまま余裕でニャゴロワを待ち受けている。「バカな方ね。お風呂なんか、さっさとお済ましになれば何でもないのに」というワケである。


 ニャゴロワは10分近くかかって入浴終了。ハリネズミのようになった2人は、しばらくの間クマのような乱暴な人間を信用してくれない。嫌悪感むき出しのポーズで足の水分を払い、横目でクマを一瞥し、「何てことするのさ、イヤだよ、乱暴なクマさんは。よしとくれよ、この唐変木のおたんちん」と大江戸一の粋な姐さんのようにプイと向こうに姿を消してしまう。まあ、そういう寂しい年末になることは覚悟の上の行動である。

 

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(入浴直後のニャゴロワ 2)


 しかも、お風呂に入った直後はネコ2匹の相互関係も悪化する。お互いの匂いでお互いを認識できなくなって、お互いなれないシャンプーだのリンスだののオシャレな香りをぷんぷんさせているのだから、仲が悪くなって当然なのである。ナデシコはニャゴロワに向かって盛んにシーシー威嚇の声を出し、ニャゴ姉さんはいかにも不快そうにナデシコに向かって足をブルブルさせて毛にたまった水分をはねとばそうとする。
 

 ただし、ネコの怒りもネコの記憶も、続くのは3時間ほど。気がつけば、酒を飲んでいる前に座って、じっと人の顔を眺めながら「ツキノワさん、何でさっきあんたに腹を立てていたんでしたっけ」と尋ねるような顔をする。「ま、いいじゃないか、酒にでも付き合いなさい」という顔の前でニャゴロワは顎が外れそうなほどの口を開けてアクビをし、足もとをナデシコが駆け抜けて、いよいよ大晦日が近づいてくる。

 

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(入浴直後のナデシコ 3)

 


1E(Cd) Richter & Münchener:BACH/BRANDENBURGISCHE KONZERTE 1/2
2E(Cd) Richter & Münchener:BACH/BRANDENBURGISCHE KONZERTE 2/2
3E(Cd) Muti & Berlin:VERDI/FOUR SACRED PIECES
4E(Cd) Hilary Hahn:BACH/PARTITAS No.2&3 SONATA No.3
5E(Cd) Kirk Whalum:COLORS
6E(Cd) George Benson:IRREPLACEABLE
7E(Cd) Deni Hines:IMAGINATION
10D(DvMv) THE PELICAN BRIEF
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